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▲「やさしい中国税務教室」バックナンバー |
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第40回「税を考える週間」
「少子・高齢社会と税」そして「電子申告納税」について考えてみましょう。
日本では、毎年11月11日〜11月17日を「税を考える週間」と定め、さまざまな広報・広聴活動が行われています。今年(平成18年)も「少子・高齢社会と税」というテーマで、少子・高齢社会となっている日本の現状を踏まえて、改めて税の意義や役割について考えるための情報が国税庁や各地の税務署から提供されました。特に、今年は「国税電子申告・納税システム(e-Tax)」についても、重点的に広報が行われたところです。
日本政府は、2001年から「e-Japan戦略」を掲げ世界最先端のIT国家作りを目指し、実際にこの5年間でインターネットの通信速度、普及率、利用料金などインターネットの環境は世界で最高水準にまで整備されました。さらに、今年1月、日本政府のIT戦略本部は「IT新改革戦略」を掲げ、世界最先端のIT国家を維持発展させ国民生活の向上と産業競争力の向上を達成すること、そして「いつでも、どこでも、だれでもITの恩恵を実感できる社会(ユビキタス社会・u-Japan)」を目指すこととしました。その具体的政策(IT構造改革力)として、@ITによる医療の構造改革、AITを駆使した環境配慮型社会、B世界に誇れる安全で安心な社会、C世界一安全な道路交通社会、D世界一便利で効率的な電子行政(政府)、EIT経営確立による企業の競争力強化、F生涯を通じた豊かな生活という7分野でのIT化推進が示されました。昨今日本の税の世界で話題になっている国税電子申告納税システム(e-Tax)は、こうした7つの重点分野の一つである電子行政(政府)を作るための主要な柱の一つとして位置づけられているものです。e-Taxは、いわば日本の将来における経済的繁栄と豊かな国民生活作りを進めるための中心的な施策の一つと言えるものです。
e-Taxは、所得税、法人税、消費税、印紙税及び酒税の申告、全税目の納税、そして各種の申請や届出を、自宅や事務所からインターネットを使って行うものであり、納税者の利便と税務の効率をもたらすものです(http://www.e-tax.nta.go.jp/)。税務手続の電子化は、世界の多くの国で進められている動きです。中国も「金税工程」という税務のコンピュータ化戦略を進めているところです。この機会に、日本の国税電子申告納税システム(e-Tax)、そして税務のIT化についても関心を持っていただきたいと思います。
「ミニ知識(36)」日本の経済社会の変化と税C
日本の経済社会の動向と税の行方をテーマにした4回目の記事です。今回は、経済社会構造変化の10のキーファクトのうち、第8、第9と第10のキー・ファクトを紹介します。
8.環境問題の増大、多様化(「環境と経済の両立」の必要性、大量生産・大量消費・大量廃棄型社会から「循環型社会」への転換の緊要性)
第8のキー・ファクトは、環境問題の重大性に関するものです。近年、環境負荷が増大し、その多様化が進んでいます。高度経済成長期においては産業型公害が中心でしたが、その後、グローバルレベルでのオゾン層破壊や酸性雨、地球温暖化が見られ、自動車排気ガス(窒素酸化物等)や廃棄物などの都市生活型の環境負荷も顕在化してきています。今日、資源・エネルギーの制約という面もあり、大量生産・大量消費・大量廃棄型社会から「循環型社会」への転換が求められています。環境はもはやタダではなく、社会的費用を要することを認識する必要があります。こうした中で環境と経済の両立が求められ、そして、環境問題を念頭に置いた税の論議も行われています。
9.グローバル化の進行(「アジアを中心とした国際的依存関係の拡大」と「国際社会の中での日本の強み」の再確認の必要性)
第9のキー・ファクトは、「グローバル化の進行」についてです。近年、貿易や資本取引の自由化、情報通信革命(IT化)の進展等を背景に、モノ・カネ・情報・文化等の様々な分野で国際的な動きが活発化し、世界レベルでの相互依存関係が拡大・深化してきています。日本においても、モノ・資本・ノウハウなど多面的に国際的な相互依存関係を深化・拡大させつつあります。とりわけ、アジア地域との間でその傾向が著しくなっています。また、従来から日本の強みは、「製造業のもの造り能力」やアニメなどの「ソフトパワー」にあると言われてきました。今後、世界の中における日本の強みを再確認し、日本が向かうべき道を冷静に見つめることが必要になると考えられています。そして、経済・社会の国際化の進展に伴い、税の分野での国際化対応を進めていくことは不可欠なものとなっています。
10.深刻化する財政状況(「財政の持続可能性」の要請)
第10のキー・ファクトは、財政面での構造変化、すなわち「財政状況の深刻化」です。戦後の財政運営を見ると、高度経済成長期には、いわゆる「均衡財政」がほぼ保たれていました。しかし、いわゆる「福祉元年」(1973年)以降、社会保障関係費が急増する一方で、高度経済成長期のような税収の伸びが見られなくなりました。高度経済成長を支えた基礎的諸条件が変容した1970年代央に、財政面でも歳入歳出ギャップの顕在化という構造的変容が始まりました。1975年度に始まる特例公債の大量発行は、その象徴であると言えます。その後、財政再建に向けた取組みがなされ、バブル景気による税収増等もあいまって、1990年度には特例公債依存から脱却しました。しかし、1990年代以降、バブル経済が崩壊し、経済が長期低迷する中、財政も一転して急速な悪化への道を辿りました。累次にわたる経済対策の実施、大規模な減税や景気低迷を背景とする税収の減少、さらには、予想をはるかに上回る高齢化の進行による社会保障関係費の急増等により、財政赤字は膨張し、公債発行残高も急速に累積し、現在、日本の財政は戦後最悪の状況に陥っており、1990年代に着実に財政健全化を進めた他の主要先進国と比べ最悪の水準にあります。また、日本の国民負担率(対国民所得比)は、35.5%(2004年度)と主要先進国の中で最低水準であり、これに財政赤字を加えた国民負担率は45.1%です。この財政赤字分は、将来世代に負担を先送りし、現世代が自らの負担以上に受益していることを意味するものです。さらに、家計貯蓄率が低下する中、巨額の財政赤字が金融市場を経由して日本経済に及ぼす影響も懸念されています。このような財政の姿は、これまでの国民の選択の反映でもあると言えますが、その現状には厳しいものがあります。高度経済成長期のような税収の自然増は期待し難く、さらに、高齢化に伴い社会保障関係費が経済の伸びを上回って増大し、国民負担率が大幅に上昇するものと見込まれています。今まさに、経済社会システムを構成する重要な主体のひとつである財政の「持続可能性」が問われています。
(執筆者紹介)
伏 見 俊 行
(中国・中央財経大学大学院教授、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)
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第39回「中国勤務日本人の税金問題(4)」
中国から帰国する日本人の日本での課税取扱い
中国赴任から帰国した年の取扱い(年の中途で帰国し、日本の非居住者から居住者になった者の取扱い)
日本への帰国までの期間は日本の非居住者として扱われ、日本での課税関係は、基本的には、前々回説明したように利子、配当等の日本の国内源泉所得に対し源泉徴収課税などが行われることになります。帰国までの間に「海外勤務者の特定所得の金額」(第37回記事参照)がない場合には、帰国後の所得について日本の居住者として総合課税または源泉分離課税を受けることになります。また、給与所得のみの場合には、帰国後の年末に行われる年末調整により課税関係は完了します。
帰国までの間に「海外勤務者の特定所得の金額」があり、その金額と帰国後12月31日までに日本の居住者として総合課税を受けるすべての所得のうち給与所得以外の所得とを合計した金額が20万円を超える場合には、翌年2月16日から3月15日までの間に帰国後の住所地を所轄する税務署に確定申告をする必要があります。また、帰国から12月31日までの給与総額が2,000万円を超える場合、及び2箇所以上から給与の支給を受けている場合にも、確定申告を行う必要があります。
この場合、医療費、社会保険料、小規模企業共済等掛金、生命保険料又は損害保険料の各控除の額は、日本の居住者となった期間内に支払った金額を基として計算します。外国の社会保険料及び外国の保険会社と外国で契約した生命保険料や損害保険料は控除の対象となりません。配偶者、扶養親族、障害者、寡婦(夫)または勤労学生の各控除の額は、その年の12月31日の現況により判定し計算します。雑損控除については、居住者期間及び非居住者期間に生じた損失の金額や所得金額を通算してその年分の控除額を計算します。外国税額控除については非居住者期間内に生じた所得はないものとして計算します。
確定申告の対象となる所得 = (海外勤務期間)海外勤務者の特定所得の金額
+(国内勤務期間)総合課税の対象となる所得の金額
なお、海外から帰国した日本人は、通常帰国と同時に国内に住所を有し居住者となることから、帰国後に支払われる給料等はその全額が居住者の受け取る給与所得として日本で課税されます。この場合には、帰国後に支給を受ける給料等の計算期間に国外勤務の期間がある場合でも、支給される給料等は全額居住者の所得として計算します。出国した場合の取扱いと異なり、国内源泉所得算出のための日数按分を行う必要はありません。
「ミニ知識(35)」日本の経済社会の変化と税A
日本の経済社会の動向と税の行方をテーマにした3回目の記事です。今回は、経済社会構造変化の第5、第6、第7のキー・ファクトを紹介します。
5.価値観・ライフスタイルの多様化・多重化(画一・集団・未来志向から多様・個人・現在志向へ)
第5のキー・ファクトは、日本人の価値観・ライフスタイルの変化です。日本人の価値観の構造については、高度経済成長期までは、画一的・集団主義的な傾向が強いものでしたが、1980年代頃から、集団よりも自分を重視する価値観が次第に強まり、価値観の多様化が進んできています。さらに近年では、一個人の中において一見矛盾するような様々な価値観が同居する傾向が見られます。これが「価値観の多重化」です。「多重化」している日本人の価値観を構成する要素を見ると、まず、「自分のライフスタイルや個性を重視した選択をしたい」という「選択の自由」志向が高まっています。また、近年では、高度経済成長期に見られた「未来志向(将来に備える)」が後退し、「現在志向(毎日の生活を充実して楽しむ)」へと大きくシフトしています。また、家族や職場、地域社会における人間関係が希薄化し、他方で、インターネット等を媒介に、自分の居場所の再発見として知人・友人、コミュニティ等との間のコミュニケーションが増加し、新たな緩やかなネットワークが広がりつつあるとも言われています。
6.社会や「公共」に対する意識の変化(「民が担う公共」の重要性、国際交流は民が主役)
第6のキー・ファクトは、社会と「公共」との関わり方についての意識に関するものです。日本人の社会意識に関する調査によれば、「何か社会のために役立ちたい」という「社会貢献」に関する意識が高まってきているとされています。すなわち、 近年では、ボランティア活動など「民間が担う公共」の領域における活動が広がりを見せてきているということです。民と官の関係については、以下のような分析があります。これまで日本では、「公共」の担い手は「政府(官)」と結び付けられ、「民間」=「私」と併せて、いわゆる「公私二元論」が支配的でした。しかし、現実の社会においては、「政府が担う公共」とは異なるもう一つの「公共」、すなわち市民活動から企業の社会的責任に至るまでの「民間が担う公共」というべき領域が存在します。そして、社会の多様化が著しい中、様々な社会の問題に柔軟に対応していくためには、「政府が担う公共」はもとより「民間が担う公共」に個人が主体的に参加していくことが求められています。
実はこの点が国際交流の観点でも重要なポイントとなってきています。国際関係は、国、政府の役割と誤解している人が多いと思いますが、実は国際交流の中心は民間の交流であるとする意見を聞くことがあります。人の交流、文化・スポーツの交流そして経済の交流など、その主役は民間であるということです。これは歴史的に見ても正しく、さらに通信交通の発達した今日将来ではなおさらになります。真の円滑な国際交流の成否は、民間交流が円滑かどうかというポイントにあります。政府や政治の役割は民間の交流がスムーズに進む環境を作ること、最低限民間の活動の妨げとならないようにすることであるという意見を聞くこともあります。民間のパワーは大きく、この点さえ確保されれば国際交流は自由に拡大していくものであるという見方です。今日の日中間の関係を表す言葉として「政冷経熱」という言葉をしばしば聞きます。日中交流のあり方、民と官の役割を考えるとき、今後の国際交流の在り方に関する上記の考え方も参考になるかもしれません。
7.分配面での変化の兆し(「結果の均等」期待から「機会の平等」志向へ)
第7のキー・ファクトは、分配構造の変化の兆候、すなわち、高度経済成長期を通じて進んだ社会の「均質化」や「流動化」の動きが、近年、鈍化してきているのではないかという点です。日本の分配構造は、国際比較で見れば、基本的に、高い経済水準の下で相対的に格差の小さい均質的なものとなっていました。こうした中で、所得の不平等度を表す「ジニ係数」の動きを見ると、高度経済成長期を通じて低下傾向にあったものが、1980年頃を境に横ばいないし徐々に上昇する傾向が見られます。この背景には、所得分配のバラツキが相対的に大きい高齢者世帯の増加等があります。さらに、収入階層別の階層帰属意識を見ると、高度経済成長期末には、収入レベルの上下を問わず帰属階層意識が「中の下」で一致していました(「一億総中流意識」の醸成)。しかし、近年では、上位の収入階層とその他の収入階層との間で帰属階層意識が二分化するようになっています。「一億総中流意識」がゆらぎ始めたように見受けられます。また、現在の日本人の平等に関する意識調査を見ると、年齢、職業、収入等によってバラツキは見られるものの、「機会の平等」を比較的強く志向する傾向が一般に見られます。そして、努力が必ずしも評価されるとは限らないという意識はあるものの、基本的には「努力した人が報われること」に対する支持が高くなっています。また、「結果の平等」に対する意識としては、行き過ぎた「結果の不平等」に対して懐疑的である一方で、行き過ぎた「結果の平等」に対しても否定的に捉える意識を観察することができます。
(執筆者紹介)
伏 見 俊 行
(中国・中央財経大学大学院教授、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)
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第38回「中国勤務日本人の税金問題(3)」
中国へ赴任する日本人の日本での課税取扱い
海外赴任した年の取扱い(年の中途で出国し、日本の居住者から非居住者になった者の取扱い)
1年を超えて海外勤務することを予定して海外赴任する者(非居住者になる者)は、出国時点までは日本の居住者として、出国時点までに総合課税を受けるすべての所得(利子、配当等の源泉分離課税の対象となるもの以外の所得)を合計し、出国時点で確定申告が必要になります。出国した年の1月1日から出国の日までの間に支給期の到来する所得が給与所得のみの場合には、出国の時点で年末調整を行いその年の税額の精算を行う必要があります。なお、1月1日から出国までの給与総額が2,000万円を超える場合、及び2箇所以上から給与の支給を受けている場合には、確定申告が必要になります。
出国以後は日本の非居住者となり、基本的には利子、配当など日本の国内源泉所得について日本で源泉分離課税が行われることは、前回説明したとおりです。また「海外勤務者の特定所得」があり、この所得金額と居住者の時に総合課税を受ける所得のうち給与所得以外の所得の金額を合計した金額がその年1年間合計で20万円を超える場合には、翌年2月16日から3月15日までに確定申告が必要になります。
以上により確定申告が必要な場合、医療費、社会保険料、小規模企業共済等掛金、生命保険料又は損害保険料の各控除の額は、日本の居住者となった期間内に支払った金額を基として計算します。外国の社会保険料及び外国の保険会社と外国で契約した生命保険料や損害保険料は控除の対象となりません。配偶者、扶養親族、障害者、寡婦(夫)または勤労学生の各控除の額は、海外勤務者が納税管理人の届出を行い居住者でなくなった場合にはその年の12月31日の現況により、納税管理人の届出を行わず居住者でなくなった場合には、出国の際の現況により判定し計算します。雑損控除については、居住者期間及び非居住者期間に生じた損失の金額や所得金額を通算してその年分の控除額を計算します。外国税額控除については非居住者期間内に生じた所得はないものとして計算します。
確定申告の対象となる所得 = (国内勤務期間)総合課税の対象となる所得の金額
+(海外勤務期間)海外勤務者の特定所得の金額
なお、非居住者となった日以後に支給期の到来する給与、賞与については、国内勤務に基因する部分の給料、賞与については国内源泉所得として日本での課税対象となります。ただし、支払われる給料等が1か月以下の期間を計算対象とし、給料等のうちの一部分だけが国内源泉所得に該当するものである場合には、国内源泉所得はないものとして取り扱われます。したがって、出国後最初に支払う給料等が月給であり、国外国内双方の勤務に基因するものである場合には日本での課税は必要ないものとされています。一方、1ヶ月を超えた期間を計算期間とする賞与については、原則どおり日数按分により国内勤務に基因する部分を計算し、日本で課税を行う必要があります。
(原則的な計算方式)国内源泉所得=給料、賞与の総額×(国内での勤務期間/その総額の計算の基礎となった期間)
「ミニ知識(34)」日本の経済社会の変化と税A
日本の経済社会の動向と税の行方をテーマにした2回目の記事です。今回は、経済社会構造変化の第2、第3、第4のキー・ファクトを紹介します。
2.「右肩上がり経済」の終焉(量的拡大から質重視の経済・社会へ)
第2のキー・ファクトは、高度経済成長を支えてきた基礎的条件(ファンダメンタルズ)が消滅し、いわゆる「右肩上がり経済」が終焉したということです。戦後の日本経済は、1970年代央までの高度経済成長時代から、その後の安定成長時代、さらにはバブル発生・崩壊を経て低成長時代へと推移してきました。もはや高度経済成長期のような大幅な「量的拡大」は期待できない状況となっています。そして、税制の観点から言えば、高度経済成長期のような右肩上がりの自然増収はなかなか期待できない状況になりました。こうした中で財源を確保していくためには景気の動向に影響される所得課税中心の体制から、消費課税や資産課税のバランスも考慮に入れた税制への検討が進められたわけです。また、社会経済の活力を維持、確保していくために税をどのように考えていくかという課題も考えられます。
3.家族のかたちの多様化(「カゾク離れ」と「個人化」の進行)
高度経済成長期以降、急激に家族の態様(「かたち」)やその機能が変容しつつあります。家族のかたちの変化を見ると、戦後から高度経済成長期を通じて、「三世代同居世帯」から「核家族世帯」へとウェイトが移ってきました。しかし、近年では、未婚化・晩婚化・長寿化の進行等に伴って更に世帯規模が縮小し、「夫婦と子供のみの世帯」の割合が減少する一方、「単独世帯」の割合が上昇しています。「子供のいない世帯」(夫婦のみ世帯や高齢者を含む単独世帯)の増加も顕著です。近年、家族への帰属意識が希薄化しつつあり(「個人化」の進行)、家族の繋がりとしては緩やかなものを求める傾向(「カゾク離れ」)が見られるようになってきています。また、長寿化に伴い、婚姻期間や子育て終了後の期間が長期化してきていることも、家族のあり方や個人の生き方に影響を与えています。今まさに、戦後家族モデルを前提とした既存の諸制度が揺さぶられ、家族のあり方が改めて問われていると言えます。
4.「日本型雇用慣行」のゆらぎと、働き方の多様化(「カイシャ離れ」と「個人化」の進行)
近年、日本人にとっての「カイシャ」と個人との関係が急速に変容しつつあります。いわゆる「日本型雇用慣行」は、「正社員中心の長期継続雇用、年功序列賃金、フリンジベネフィット(企業内福祉)等」を特徴とし、従業員に対して生活給や雇用を長期的に保障する一方で、企業への忠誠心を求める雇用形態です。この雇用慣行が日本の高度成長を支える大きな役割を果たしたと言われています。しかし、経済成長が鈍化し高齢化が進む中で、次第に「日本型雇用慣行」を維持することが難しいとする企業も現れ、特に1990年代後半以降、これまでの人材マネジメントを転換し、非正規雇用の活用や成果主義・能力給賃金という考え方を取り入れる動きも強くなってきています。実際、正規雇用者の割合が大幅に低下する一方で、パート・派遣労働者・業務委託者等の非正規雇用者の割合が急上昇するなど、雇用形態の多様化が進んでいます。他方、従業員(個人)の「カイシャ」に対する帰属意識は希薄化し、専門性や特技を活かせる仕事を志向する者が増加しています。仲間と楽しく働ける仕事を求める者が増え、仕事一辺倒から余暇に比重を置く傾向が強くなってきています。「カイシャ離れ」、「個人化」の進行です。「日本型雇用慣行」のゆらぎとあいまって、カイシャを通じた雇用・生活保障機能が低下するなど、個人にとって生活上の不確実性、「リスク」も高まっています。また、若年者層を中心に、雇用環境の厳しさや職業観の変化等を反映して、いわゆる「フリーター」や「ニート」が急増しています。さらには、学卒後における高い早期離職率、無業の若者の増加傾向が続いています。今後の経済社会の諸制度のあり方を考えるにあたっては、そのような変化がもたらす格差拡大と階層化の可能性についても留意が必要になってきています。
(執筆者紹介)
伏 見 俊 行
(中国・中央財経大学大学院教授、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)
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第37回「中国勤務日本人の税金問題(2)」
年を通して中国で勤務する日本人の日本での課税取扱い
中国に勤務する日本人の日本での課税の取扱いについて、中国で1年を通して勤務している期間、中国での勤務を開始した年、そして中国での勤務を終え日本に帰国する年の3つの態様に分けて説明していきます。今回は、中国で1年を通して勤務している期間、すなわち日本の非居住者として扱われる場合の日本での課税の取扱いについてです。
赴任翌年以降で1年を通して中国勤務する場合(年を通して日本の非居住者の取扱い)
中国に勤務し中国の居住者(日本の非居住者)となる日本人は、次のような所得が日本で生じた場合、その支払の際にカッコ書のとおり源泉徴収課税が行われます。そして、国内に事務所等を持たない大部分の海外勤務者については、源泉徴収課税で課税関係は完了し確定申告は必要ありません。なお、事業所得については、日本に恒久的施設がない限り日本では非課税であり、居住地国である中国で課税されることになります。
(1)利子等(税率15%(日中租税条約の制限税率適用の届出を提出した場合には10%))
(2)配当等(税率20%等(日中租税条約の制限税率適用の届出を提出した場合には10%))
(3)国内源泉所得に該当する給与その他人的役務の提供に対する報酬等(税率20%)
(4)日本国内にある土地等の不動産の譲渡による対価(税率10%(譲渡対価が1億円以下で自己等の居住の用のために譲り受けたものは源泉徴収不要)、確定申告により税額を精算(下記「ただし書」以下参照))
(5)不動産の賃貸料等(税率20%(支払者が個人で自己等の居住の用のために賃借するものは源泉徴収不要)、確定申告により税額を精算(下記「ただし書」以下参照))
ただし、次に掲げる所得(海外勤務者の特定所得)があり、その所得金額がその年1年間合計で38万円(基礎控除)を超える場合には、翌年2月16日から3月15日までに確定申告が必要になります。
@ 国内にある資産の運用、保有又は譲渡による所得
A 国内に事業所等を有して事業を行いその事業所等に基因する事業所得その他の国内源泉所得
B 国内にある不動産の賃貸料による所得
確定申告に当たり適用される所得控除は、基礎控除、雑損控除及び寄付金控除に限られ、配偶者控除、扶養控除等のその他の控除は適用されません。
なお、国内にある不動産の賃貸料等の「海外勤務者の特定所得の金額」が基礎控除額以下の場合でも、その支払の際に20%の税率で源泉徴収された税額の還付を受けるために、確定申告をすることができます。
「ミニ知識(33)」日本の経済社会の変化と税@
税制は、経済社会を支える重要なインフラストラクチャー(基盤)の一つであり、同時にその時々の経済社会構造を基礎として作られるものであり、経済社会を映し出す鏡であると考えられています。税制の将来を考えていく場合には、まず経済社会の実情を理解し、その上で税制のあり方を考えていく必要があります。近年、日本の政府税制調査会では、新たな社会に相応しい税制、「あるべき税制」の検討を進めていくため日本の経済社会の構造変化の状況を分析し、「あるべき税制の構築に向けた基本方針」(2002年6月)及び「少子・高齢社会における税制のあり方」(2003年6月)をとりまとめてきました。
今回からしばらくの間、近年の日本の経済社会の動向をこれらの報告書を中心として整理し、日本の経済社会の構造変化を見つめながら今後の税制の行方を考えていきたいと思います。こうした分析は、中国をはじめとした世界各国の経済社会の動向や税制の行方を考える際にも参考になると思います。税制調査会報告書では、日本の経済社会の構造変化を10のキー・ファクトとしてまとめ、将来の税制の在り方について問題提起をしています。今回はまず第1のキー・ファクトを紹介します。
1.今世紀の日本は「人口減少社会・超高齢社会」(「少子・高齢社会」の進行)
日本の経済社会の構造変化の第1のキー・ファクトは、今世紀の日本が「人口減少社会」と同時に「超高齢社会」になるということです。
今世紀の日本は、「人口増加社会」であった20世紀とは異なり、一転して「人口減少社会」に突入し、現実に2005年では日本の人口は減少に転じました。出生率は、1970年代半ば以降、急激な晩婚化、未婚化、結婚・出産・育児をめぐる費用や精神面での負担感の増加などを背景に2.0を下回り、一貫して低下してきています。このような長期的な少子化傾向を反映し、わが国の人口は2004年をピークにして、今世紀中に約6,300万人減少して、今世紀末には6,414万人までに半減する見通しになっています。
また、「少子化」とともに「長寿化(平均寿命の上昇)」が同時進行し、今世紀半ばには、3人に1人が高齢者である「超高齢社会」となる見通しです。そして、2030年代前半以降には働き世代の3人が高齢者世代の2人以上を扶養する状態になる見込みです。これは、社会的な扶養力が急速に弱まっていくことを意味しています。
以上のような人口面での構造変化は、家族や個人のライフスタイルのみならず、経済社会の諸制度に至るまで、構造的な変容を迫ることになり、当然のことながら税負担の在り方など、税制のあり方にも大きな影響を与えるものと言えます。多数の高齢者世代を養うために少数となる労働者世代に高額の所得課税の負担を求めることが可能かどうか、高齢者世代にも消費課税や資産課税を通じて相当の負担を求める必要はないかなど、種々の議論が必要になります。
実は、中国も一人っ子政策の結果急速に少子・高齢社会に突入しつつあります。今後日本と同様に税制のあり方に関する議論が求められることになると思います。
(執筆者紹介)
伏 見 俊 行
(中国・中央財経大学大学院教授、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)
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第36回「中国滞在日本人の税金問題(1)」
概要(居住者・非居住者の課税の原則)
中国に滞在する日本人は、どのような場合税負担をする必要があるのでしょうか。おそらく皆さんは、給与所得がある場合、利子・配当を受けた場合、事業所得を得た場合などを想像するものと思います。実は税の負担は自分が所得を得た場合だけではありません。皆さんは日頃の買い物、飲酒、喫煙等を通じて、増値税、消費税などの流通税を中国で負担しているのです。自分では税を負担していると実感していない場合でも、その国に滞在しているときには通常、その国の税財政に多少なりとも貢献しているわけです。もっとも、中国では増値税や消費税といった流通税は消費者ではなく実際に税を税務機関に納付する企業等が負担していると考えられる場合が多いようです。税の性質から言えばこれば過ちです。本来、流通税(間接税)は、生産者から流通業者、最終消費者へと税負担が転嫁されていくものであり、税の負担者は最終消費者であるはずです。生産者、流通業者は最終消費者に代わって税務機関への納税事務を負担していると考えるべきでしょう。中国での認識は、流通税は適切に最終消費者まで転嫁されるべきであるという考え方が十分に浸透していないことの表れかもしれません。
ところで、中国で活躍する皆さんにとっての税に関する第一の関心事項は、個人の所得税がどのように取り扱われるかという問題であるかもしれません。中国にいる日本人が何らかの形で中国または日本で個人所得がある場合には、基本的には@中国のみで納税、A日本のみで納税、B中国と日本と双方で納税のいずれかの態様で中国または日本で納税を行う必要があります。
そして、国際ルール一般によって説明すると、個人がどこの国の居住者であるか非居住者であるかによって課税関係が変わってきます。個人所得課税の取扱いについては、個人の国籍がどの国であるかは関係がないことに留意する必要があります。大雑把に言えば、ある国の居住者とされる場合には、その国で発生した所得だけでなく世界で発生した所得のすべてについて居住地国で納税することになります。一方、非居住者とされる場合には、その国に源泉がある所得のみについて所得の源泉地国で納税することになります。居住地国と源泉地国で二重に課税される場合には、その二重課税が回避されるための取扱いが二国間の租税条約や各国の国内法で定められています。
このように、個人の国際的な所得課税の取扱いを考えていく場合には、@その個人が居住者・非居住者として判定される基準、定義が各国でどのようになっているか、またA発生する所得の態様に応じて居住地国、非居住地国がどのような課税の取扱いをするか、といった点を見ていく必要があります。
「ミニ知識(32)」脱税に対する罰則・国際比較
一般に申告漏れなどにより追加課税が行われる場合には、納付漏れとなった納税額のほか、加算税(ペナルティ)と延滞税(納付遅延に対する利息負担)が課されることになります。脱税といった意図的で悪質な不正行為でない場合には、こうした金銭の追加負担だけで済みます。例えば、日本では、申告漏れ額に対して、加算税は5%〜40%、延滞税は年率4.1%が課されます。また、中国では、同じく加算税が50%〜500%、延滞金が年率18.25%課されることになります。
しかし、悪意を持って税を逃れていると認定された場合には、世界の多くの国が厳しい刑罰等を課す制度を導入しています。多くの国では概ね5年以下の実刑と500万円以下程度の罰金を併せて課しています。主要国の脱税等に対する罰則は次のようになっています。
日本:5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金(脱税額が500万円超の場合は、その相当額)又はその併科
アメリカ:[個人]5年以下の禁錮若しくは10万ドル(1,150万円)以下の罰金、又はその併科、[法人]5年以下の禁錮若しくは50万ドル(5,750万円)以下の罰金、又はその併科
イギリス:[虚偽申告書の提出等により税を免れた場合]2年以下の拘禁刑若しくは罰金(上限なし)又はその併科、[この場合で、調査過程で宣誓の上虚偽の証拠の提出等があったとき]7年以下の拘禁刑 若しくは罰金(上限なし)又はその併科
ドイツ:5年以下(悪質な場合は、6か月以上10年以下)の懲役・禁錮若しくは5ユーロ(660円)以上180万ユーロ(2億3,760万円)以下の罰金又はその併科
フランス:次の禁錮及び罰金の併科、5年以下(5年以内の再犯の場合は、10年以下)の禁錮、37,500ユーロ(495万円)以下(悪質な場合は、75,000ユーロ(990万円)以下、5年以内の再犯の場合は、10万ユーロ(1,320万円)以下)の罰金
中国:脱税行為、増値税専用伝票に関する不正、税務執行の妨害等に対しては、脱税額及び行為の悪質度合に応じて罰金及び懲役刑等、重い刑罰が適用されます。特に、増値税専用伝票の偽造やそれに伴う不正還付については、国家財産の横領行為そのものであり、納税者自身の納税額を隠匿する脱税より一層重い犯罪として考えられているようであり、厳しい刑罰が規定されています。そして国家に与える損害が重大である場合には、死刑、無期懲役刑も規定されています。ちなみに、第一財経日報の報道(06.5.8)によると、94年以降現在までに200人余りに対して死刑判決が出され、このうち100人余りに対して死刑が執行されているとされています。
(執筆者紹介)
伏 見 俊 行
(中国・中央財経大学大学院教授、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)
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第35回「中国の主な脱税事件の概要」
増値税を中心とした脱税事件9件を公表
4月20日、中国国家税務総局は9つの脱税事件(税に係る違法事件)等について調査・処罰の状況を公表しました。公表された事件は、虚偽発行された増値税専用領収証等を利用して増値税を不正還付したものが中心となっています。以下では、公表された9事件のうち3事件の概要を紹介します。
なお、脱税事件関係で死刑判決が出されていること、公訴された脱税事件以外の課税事案についても個別企業名が公表されていることなど、日本ではない取扱いが注目されます。
1.黒龍江省、天津市、河北省の一連の領収証の虚偽発行事件
(1)2004年7月国家税務総局の直接の指揮の下、黒龍江省、天津市及び河北省の3省市の税務機関が
関連する企業の調査を行った事件。
黒龍江省の39の企業が、架空登録した廃棄物(不用品・中古品)取引企業を通じて、廃棄物売上領収
証(偽の領収証を含む)11,248綴り、税額8.1億元分を虚偽発行。天津市の91の企業及び河北省の91の
企業は、黒龍江省で虚偽発行された領収証を利用し、天津市の企業が4.63億元、河北省の企業が
2.84億元のそれぞれ増値税の不正還付を取得。また、このうち天津市の企業20社及び河北省の企業
54社は更に外部に増値税専用領収証を虚偽発行。
(2)追徴税額12億3,900万元、罰金4億8,900万元、計17億2,800億元
(3)公安機関へ引き継がれた企業236社、容疑者67名逮捕、刑罰22名(内死刑1名、死刑(執行猶予2年
付)3名、無期懲役1名)
2.山西省、河南省の領収証の虚偽発行脱税事件
(1) 2005年4月山西省の税務機関及び公安機関が連合で調査・処罰した事件。山西宇進鋳造精錬公司
と山西宇普鋼鉄公司が虚偽発行された廃棄物売上領収証を利用して増値税を脱税。
河南任和グループに所属している2社は、2002年1月から2005年3月の間、当地の鉄工場の鋳鉄、溶
解した銑鉄等の製品を低価格で購入し、原材料を廃棄物(処理費)という科目に変更して記帳するとと
もに、山東、陜西、河南省等7省の20の廃棄物回収企業が虚偽発行した領収証12,741綴りを利用して
増値税2.25億元の還付を不正に取得。また、二重帳簿の設置及び売上収入の隠蔽により増値税2.45
億元、その他の地方税4,701万元を脱税。このほか、河南省の税務機関は、河南任和グループの5つ
の関連会社についても調査を実施し、売上収入の隠蔽により、増値税9,208万元、企業所得税927万
元、その他の地方税1,332万元を脱税していた事実を把握。
(2) 追徴税額6.31億元、罰金1.4億元、滞納金3.82億元、計11.53億元
(3) 公安機関は容疑者25名を逮捕起訴
3.湖南省の長沙三兆実業開発有限公司の移転価格課税事件
(1) 湖南省国家税務局と地方税務局は不動産開発を行う中国と外国の合資企業である長沙三兆実業開
発有限公司に対して税務調査を実施。調査の結果、長沙三兆実業開発有限公司は2001年1月から
2004年12月までの期間、関連企業間取引価格の操作を行うなどにより2.28億元の申告納税漏れが
あったことが判明(移転価格課税)。
(2) 追徴税額2.28億元
* 他の事件の概要等については、中国国家税務総局ホームページを参照してください。
「ミニ知識(31)」日本のマルサ(査察調査)の状況は
日本には、国税庁の中に脱税事件捜査のための組織(査察部門)があり、「査察調査」を行っています。かつて有名になった映画「マルサの女」の舞台です。元々この「査察(調査)部門」のことを日本の国税庁内では「マルサ」という隠語で呼んでいたのですが、映画のヒット以来この言葉は周知の言葉になったわけです。
査察部門では1年間に200件以上を課税し、このうち100件以上を脱税犯として地方検察庁に告発しています。2004年度中(2004年4月〜2005年3月)には、査察事案として210件に着手し、152件を検察庁に告発しました。そして、2004年度中に処理した事件の脱税額は総額で282億円(うち告発分は247億円)でした。告発した事件1件当たりの脱税額は1億6,200万円ということになります。判決(一審)が出た事件のうち、執行猶予のつかない実刑判決を受けた事件は11件、1人当たりの平均懲役期間は15.3か月になっています。ちなみに、日本では、脱税に対しては5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金(脱税額が500万円超の場合は、その相当額)又はその併科が課されることになります。
告発件数が多かった業種としては、飲食良品小売業(11件)、機械器具小売業(8件)、パチンコ(8件)、医療業(8件)、キャバレー・飲食店(7件)、建設業(5件)となっています。
(脱税の手段・方法等)
国税庁では、脱税の手段・方法等について次のように説明しています。「脱税の手口としては、飲食料品小売業及び機械器具小売業では架空原価や架空人件費の計上、パチンコ、キャバレー・飲食店及び建設業では売上除外、医療業では、売上除外あるいは架空経費の計上が多く見られました。また、グループ法人による脱税や、海外取引に関連した脱税なども見受けられました。脱税によって得た利益の多くは、現金、預貯金、割引債券及び不動産等で留保されていたほか、貴金属等の購入、あるいは関係会社等への貸付金に充てられているものも見受けられました。脱税により取得した簿外資産や脱税工作に用いた重要物件の隠匿場所は様々でしたが、居宅洗面所の鏡の裏側の壁を切り抜き、その内側に現金及び株券を隠匿していた事例、居宅洋間のクローゼット内に設置された衣類吊り下げ用の金属パイプの中に、ビニールで包んだ親族名義の貸金庫の鍵を隠匿していた事例、居宅台所の冷蔵庫のチルド室内の製氷皿の中に、多額の現金が収納された知人名義のトランクルームの鍵が隠匿されていた事例などがありました。また、着衣のポケット内に、重要記録が保存された小型のメモリーカードを隠匿していた事例も見受けられました。」
読者の皆さんには、脱税は金銭的負担(脱税額、行政罰としての加算税のほか刑罰としての罰金が課される)、懲役、社会的信用の失墜といった大きな見返りがあることを知っていただきたいと思います。この機会に、脱税行為(そして不正を働く者)を厳しく糾弾する気持ちと、適正な申告納税を遵守する気持ち(コンプライアンス)を持っていただきたいと思います。今回の記事を自らの脱税行為の参考とするようなことが決してないことを願います。
(執筆者紹介)
伏 見 俊 行
(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)
(執筆協力)
加 藤 正 人
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第34回「中国国家税務総局・税務調査の状況を公表」
中国・引き続き税務調査を厳格に、積極的に推進する方針
4月20日中国国家税務総局は、9つの脱税案件(税に係る違法案件)について調査・処罰の状況を公表しました。脱税案件の公表に当たり、同総局の崔俊慧副局長は、脱税案件公表の効果、2005年における調査状況及び脱税案件の特徴、並びに2006年における調査の方針について説明しています。今回はその説明の概要を紹介します。脱税事案の概要については次回紹介することにします。
(脱税案件公表の効果)
脱税案件を公表する意義、効果について次の点を挙げています。
- 税に関連する犯罪に対する警告となり税収秩序を改善する効果があること
- 税務行政に対して社会全体の関心と支持を集め、良好な税務行政の環境を形成していくこと
- 税務機関が徐々に脱税案件の公表範囲を拡大・強化していくことで、税に関連する犯罪者及び犯罪行為は全社会の監督を受けることになること
(2005年における調査状況)
2005年には、法に基づいて、厳正な調査、課税を推進した結果、次のような調査事績を上げたとしています。特に公安機関をはじめとした他の機関との協力や各地の税務機関の連携を強化したこと、脱税の発生場所に臨場する調査を通じて脱税を徹底的に解明する方針を徹底したこと、情報技術を活用し領収証(発票)の取引の調査や異常な問題について省を跨る連携調査を強化したことなどが調査事績に結びついたと説明しています。
- 2005年に全国の税務機関が行った調査件数は108万件、課税等を行った件数は46.4万件(調査事案の43%)、追徴税額は367億元。追徴税額が100万元を超えた案件は3,300件であり、その追徴税額は99.5億元。国家税務総局稽査局(本局の脱税調査担当部局)が直接調査、監督を行った事案は208件、追徴税額41.4億元。
(2005年の脱税案件の特徴)
2005年の脱税案件の特徴については以下のとおり説明しています。増値税専用領収証の偽造、悪用により増値税、法人・個人所得税等の脱税が多発していることが伺われます。
- 増値税専用領収証の虚偽発行及び受領(売買)が依然として税に係る違法犯罪活動の主要な形態となっており、領収証を利用して還付税額を騙し取る案件が増加している。こうした違法行為は東南沿海地域に多く見られたが、内陸の中西部地区にも見られるようになってきた。
- 輸出に係る仕入増値税について不正に還付を受ける案件が増加している。手段としては、虚偽の輸出、欠陥品を輸出品に含めることによる水増し、実際より高い輸出価格等、増値税専用領収証の不正使用によるものがある。
- 偽帳簿の作成(二重帳簿)及び帳簿外取引が依然として脱税の主な手段となっている。
- 各種の偽領収証の利用による架空・過大な原価・費用の計上が依然として突出している。
- 偽の領収証の製造・販売案件が依然として発生している。
(2006年における調査の方針)
2005年の調査の状況等を踏まえて、2006年の調査方針のポイントを次のように説明しています。
- 税務調査を専門に担当する部門の組織化を進め、税務調査を強化していく。
- 脱税(犯罪行為となる税回避事案)の疑いのある案件については、法に基づき厳格・迅速に公安機関へ引き継ぎ刑事責任を追及していく。
- 不動産業、建築業、娯楽業、金融保険業、郵便電子通信業、石炭生産業及び運輸業、廃棄物取引業、外資系企業の税収及び個人所得税の税収専門項目調査を重点的に行う。
- 重点地区を選定して「税収専門項目調査」を行い、指導を強化する。
「ミニ知識(30)」日本の税務調査の状況は
日本の法人税と所得税(個人所得税)の最近の調査の状況について紹介します。
(法人税の調査の状況)
2004事務年度(2004年7月〜2005年6月)においては、不正計算が想定される法人など調査必要度の高い法人12万4千件について実地調査が行われ、このうち何らかの非違があったものは9万1千件(調査事案の73%)、その申告漏れ所得金額は1兆4,914億円、追徴税額は3,601億円となっています。また、仮装、隠ぺいによる不正計算のあったものは2万4千件(調査事案の19%)、その不正脱漏所得金額は3,595億円となっています。不正発見割合の高い業種は「バー・クラブ」、「パチンコ」、「廃棄物処理」など、不正申告1件当たりの不正脱漏所得金額の大きな業種は、「鉄鋼製造」、「パチンコ」、「木造建築工事」などとなっています。
(所得税(個人)の調査の状況)
個人の所得税(譲渡所得等調査分を除く)については、申告所得金額が過少と見られる者、申告義務があるにもかかわらず無申告である者など何らかの非違等があると想定される者を対象として、2004事務年度には781千件の実地調査が行われました。
実地調査については、高額・悪質な不正計算が見込まれるものを対象に深度ある調査(特別調査・一般調査)を優先して実施するとともに、2004事務年度は、資料情報や事業実態の解明を通じて申告漏れ所得等の把握を短期間で行う調査(着眼調査)が導入され、その結果、特別調査・一般調査を行ったものは48千件、着眼調査を行ったものは191千件となっています。また、実地調査に至らない程度の是正を行う接触(以下「簡易な接触」という。)は、541千件となっています。
調査等の総件数のうち申告漏れ(非違)のあった件数は568千件、申告漏れ所得金額は8,963億円であり、このうち特別調査・一般調査によるものは4,349億円(前事務年度4,874億円)、着眼調査によるものは3,510億円、簡易な接触によるものは1,103億円、追徴税額は1,162億円となっています。1件当たり不正脱漏所得が多い業種は、貸金業、キャバレー、風俗業、商品販売外交、病院の順になっています。
(執筆者紹介)
伏 見 俊 行
(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)
(執筆協力)
加 藤 正 人
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第33回「移転価格対策のまとめ」
移転価格課税を必要としない世界の実現を祈って
これまで8回にわたり移転価格課税について記事を掲載してきましたが、今回で移転価格関係の記事は一段落にしたいと思います。移転価格課税の未然防止策、対応策をまとめれば、次のとおりになると思います。
@ 移転価格課税を受けないためには、まず移転価格税制や移転価格課税の実情を十分に知ることが必要です。
A 租税回避目的の故意の移転価格上の問題のある取引は大きな見返り(すなわち、多額の追徴課税)をもたらす危険が大きく、絶対に避ける必要があります。また、租税回避の意図の有無にかかわらず移転価格上問題のある取引が発生しないように留意する必要があります。
B 海外進出に当たっては、移転価格課税を回避するため、企業全体での移転価格問題に対する意識の改革、親会社主導の対応、企業の内部管理の強化、関連企業間の共通意識の醸成と連携、関連企業間取引の減少など、企業グループとしての体制作り、事業戦略等を構築することが必要です。
C 価格設定の方法や実際の取引価格、取引内容等が独立企業間価格として妥当であることについて分析・検討を行い、そのことを十分説明できる資料の作成と保管、また取引段階での書類等の作成と保管(同時文書化)を行っていく必要があります。
D 専門の会計事務所等、移転価格課税についての知識や経験を有する専門家の支援を必要に応じて得て客観的にも自社対応が間違いないことを検証することも有効です。
E 関係税務当局の移転価格課税に対する姿勢や実際の取組み状況についての情報入手や理解を進め、自社や関与会計事務所だけの独断による判断を避ける必要があります。また、問題が生ずる可能性があるケース等については、可能であれば、税務当局に事前の相談や指導を受けることが望まれます。
F 将来への確実性、予測可能性を得るためには、税務当局と移転価格に関して事前に了解を得る制度(事前確認制度)を活用することが有効です。この場合、相手国からの課税リスクを解消できる租税条約に基づく相互協議を通じた二国間(多国間)事前確認制度の活用が推奨されます。
G 課税された場合には、二国間での経済的二重課税を排除するため、租税条約に基づく関係国の権限ある当局間での相互協議手続、あるいは国内法に基づく救済手段(不服申立て、訴訟)を活用することが考えられます。
H 課税を受けた場合には、その課税の救済策を検討することも必要ですが、それ以上に将来に向けて移転価格課税を受けないよう対策を採ることが必要です。課税を通じて将来の取扱いを明らかにすること、さらに事前確認制度の活用を検討することがポイントになります。
I しかし、すべての事案について二国間事前確認制度を活用する必要があるわけではないと考えます。移転価格課税を未然に防止できるとはいっても、その活用のために要する時間的、費用的コストは少なくありません。要は、課税を受けるリスクとコストを勘案し、必要な場合には二国間事前確認を、リスクが低い場合には自社内での対応に力を入れることでもよいと思います。一般論として、欧米との取引で二国間事前確認の実施実績があるような国際的な大企業は中国との取引でもその活用を検討し、課税のリスクが小さい中小の企業はまず自社での対応に力を入れることが妥当かもしれません。
最後に、納税者、税務当局双方が移転価格問題への理解を深め、適切な対応を採り、移転価格課税を必要としない世界に近づいていくことを祈りたいと思います。
(執筆者紹介)
伏 見 俊 行
(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)
(本の紹介)
8回にわたり移転価格課税をテーマとして取り上げてきましたが、紙面の都合もありその要点のみを記述しました。詳しくお知りになりたい方は、拙著の「日中移転価格税制」(税務研究会出版)をご覧いただきたいと思います。本書は、日本と中国の移転価格税制の仕組みから移転価格課税を受けないための対応策までを、税務当局サイド、納税者サイドの双方の視点から、また中立的な立場からまとめたものであり、中国で活動する日系企業の皆さんにとってお役に立つものと思います。
「日中移転価格税制」―移転価格課税を受けないために―
伏見俊行・成立 共著
A5判・436頁、定価3,990円(税込)
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第32回「移転価格課税を受けないためのポイント(2)」
課税を受けた場合には将来に向けた対応を
今回は、移転価格課税を受けないための具体的対応のポイントを紹介します。段階別にまとめると以下のように考えられます。
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@ 移転価格課税を回避するための態勢、事業戦略等の構築
・移転価格対応の意識の改革
・親会社主導の移転価格対応
・企業の内部管理の強化
・関連企業間の共通意識と連携
・専門的知識、経験を持つ管理者、職員の派遣
・中国人スタッフの適切な活用
・関連企業間取引を減少させる
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⇒ |
A 移転価格の分析と検討(移転価格上の問題のない取引価格の設定とそれを的確に説明する資料の作成と保管(同時文書化)) |
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B 事前確認制度の積極的な活用 |
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⇒ |
C 取引段階での書類等の作成と保管(同時文書化) |
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D 決算・申告の準備と移転価格問題の存在の有無についての結果チェックと説明資料の準備 |
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E 移転価格調査時における的確な対応 |
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F 移転価格課税を受けた場合の的確な対応
・相互協議等の二重課税解消のための対応
・将来に向けた課税の未然防止のための対応(事前確認の活用等)
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移転価格課税を受けた場合の方策について少々コメントしておきます。
不幸にも移転価格課税を受けた場合には、租税条約に基づく二国間での相互協議、国内法での救済手段(不服申立て、訴訟)などの活用が考えられ、こうした事後対応を適切に選択・適用し、二重課税の解消を図ることが重要です。
もう一つ重要な点は、課税を受けた事業年度以降の事業年度の備えです。課税の経験を踏まえて適正に取引を行う、移転価格上の問題がないことを説明できるようにする、「事前確認」など積極的な予防策を採るなど、将来に向けた対応を採ること。これが最も大切でしょう。
いずれにしても、課税に対する予防措置を十分に採ること、そして課税された場合は、理屈の通らない安易な妥協は避け、将来につながる課税への対応を採ることが肝要です。理屈の不明な課税内容が示された場合には、そのまま受け入れ放置することは危険です。将来のため課税の理由・内容を明らかにしておくことが必須です。特に巨額の移転価格課税が行われた場合には、租税条約に基づく二国間相互協議や二国間事前確認を積極的に活用し、将来の課税の安定を確保しておく必要があると思います。
「ミニ知識(29)」相互協議
相互協議とは、国際的な二重課税など租税条約に適合しない課税を排除することを目的として、二国間の租税条約の規程に基づき、各国の権限のある当局(Competent Authority, CA)間で直接行われる協議手続です。
日中租税協定第25条の規定に基づいて説明すれば、日本と中国の一方または双方の課税当局による課税処分等により、一方または他方の納税者がその租税協定の規定に適合しない課税を受けた場合、または適合しない課税を受けるおそれがある場合に、それぞれの国の国内法で定める救済手段とは別に、権限のある当局に対してその問題の解決を申し立てることができることとされています(25条第1項)。日中の権限のある当局は、両当局間の合意により日中租税協定に適合しない課税を回避するよう努めることとされ(個別課税問題に関する相互協議)、協議の結果、合意した両国は、成立したすべての合意内容を両国の法令上のいかなる期間制限にかかわらず実施することが義務付けられています(25条第2項)。
移転価格の個別課税問題に関する相互協議としては、一方の国による移転価格課税に起因する二重課税を解消するために行われるもの、移転価格課税を未然に防止するため、適正な国際取引価格の水準や算定方法を関係国の当局と関連企業が事前に確認しておく事前確認のために行われるものがあり、近年これらの移転価格問題に関する相互協議が活発に行われています。現在、日本の国税庁は世界各国の税務当局と200件を超える事案の相互協議を行っています。一方、中国ではこれまで相互協議の実施件数は限られたものでしたが、近年の経済そして税務行政の国際化の進展に伴い、今後は積極的に相互協議が実施されていくものと思います。
(参考:日本の相互協議実施状況)
事務年度 |
2000 |
2001 |
2002 |
2003 |
2004 |
発生件数 |
74 件 |
88 件 |
94 件 |
122 件 |
90 件 |
処理件数 |
65 |
77 |
80 |
83 |
92 |
繰越件数 |
139 |
150 |
164 |
203 |
201 |
(注)事務年度は、各年の7月から翌年6月までとなっています。
(執筆者紹介)
伏 見 俊 行
(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)
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第31回「移転価格課税を受けないためのポイント(1)」
課税を受けないための6つのポイント
中国の税務当局は、移転価格課税の重点調査対象事案の一般的な選定基準を次のとおり示しています。したがって、これらの基準に該当する企業が移転価格調査の対象になりやすい企業であると言えます。
| @ |
関連企業との取引金額が大きい企業 |
| A |
生産、経営管理上の決定に関連企業の支配を受ける企業 |
| B |
長期間にわたり欠損を計上している企業(2年以上連続して欠損が発生している企業) |
| C |
長期間にわたり少額の利益や欠損を計上しながら、経営規模を拡大し続けている企業 |
| D |
損益の変動幅が大きい企業(隔年ごとに利益または損失を計上している企業や通常の範囲を超える利益を計上している企業) |
| E |
タックス・ヘイブン(税負担が無いまたは軽い国(地域))に設立された関連企業と取引を行っている企業 |
| F |
同業種の企業と比べ利益水準が低い企業(同じ地域の同業種の企業の利益水準との比較による) |
| G |
グループ企業内の比較で、他のグループ企業に比べ利益率が低い企業(関連企業に比べ利益率が低い企業) |
| H |
関連企業に対して合理的でない費用を計上し支出している企業 |
| I |
法定の減免税期間の終了後に利益を大幅に減少させる方法などにより租税回避を図る企業、その他の租税回避の疑いがある企業 |
(移転価格課税を受けないための6つの方策)
以下では、移転価格課税を受けないための6つのポイントを説明します。
@ 移転価格税制や課税がどういうものかを知ること
第1のポイントは、以下のように移転価格課税とはどういうものであるかを知ることです。
@ 移転価格課税はどういうものであり、企業にとってどのように大きな影響、問題があるかというこ
とを知ること
A 進出先の国と日本の双方の移転価格税制を理解すること
B 進出先の国と日本の双方の移転価格課税の状況や執行体制を知ること
A 移転価格上の問題のある取引を行わないこと
第2のポイントは、外国の関連会社との取引において意図的なものはもちろん、意図的でない移転価格上の問題のある取引についても行わないように留意することです。ちなみに、移転価格課税は、皆さんに税回避の意図がなくとも結果として所得が移転、税が移転していた場合には、課税されるものです。したがって、わが社は移転価格政策の意図はないから関係がないというものではないのです。自らの取引の内容を十分に把握し、移転価格上の問題がないかどうか検証していく必要があります。十分ご留意ください。
B 移転価格上の問題のある取引の疑いをかけられないこと
第3のポイントは、移転価格上の問題のある取引の疑いを各国の税務当局からかけられないように留意することです。自らは移転価格上の問題のある取引を意図していない、あるいは移転価格上の問題のある取引ではないと理解したとしても、その適否を判断するのは各国の税務当局です。税務当局に移転価格上の問題のある取引の疑いを持たれないようにすることが重要です。
C 移転価格上の問題がないことを課税当局に説明できる準備をする
次に、移転価格上の問題がないことを税務当局に説明できる準備を怠らないこと。これが第4のポイントです。具体的には、取引資料の保管、説明資料の準備など、いわゆるドキュメンテーションの備えが必要となります。
D 移転価格課税を予防する方策を採ること(事前確認制度を活用する)
さらに、移転価格課税を事前に予防する方策を採ることです。これが第5のポイントになります。具体的には、関係する二国の税務当局間による事前確認制度を積極的に利用することが挙げられます。
E 税務調査への的確な対応
最後に、移転価格調査を受けた場合には、移転価格問題の事実がないことをいかに要領よく明瞭に説明するか、いかにして疑念を持たれない対応をするかが重要になります。的確な調査協力、調査対応を行うことが調査そのものの効率的な展開につながり、また将来に向けて税務機関からの信頼を得ることにもつながります
「ミ二知識(28)」4月は中国の「税収宣伝月間」でした
今日の税務行政では、納税者が税務行政に対する理解、信頼を高め、自主的に正しい申告納税を行ってもらうことが最も重要であると考えられています。そのため、各国の税務当局では、適切な調査や納税者サービスの充実を進めるとともに、税務の広報活動等についても力を入れています。
中国でも、毎年4月を「全国税収宣伝月間」として税の広報活動に力を入れており、本年も各種の活動が行われています(本年で第15回目の開催)。皆さんご存知でしょうか。本年のテーマは昨年と同じく「依法誠信納税、共建小康社会(法に基づき誠実に納税し、共に生活に困らない安定した社会を築く)」であり、以下のような広報活動が実施されました(国税発【2006】32号参照)。ちなみに、日本では毎年11月11日から17日までの1週間を「税を考える週間」として広報活動、租税教育活動などが実施されています。
1.座談会の開催
「依法誠信納税、共建小康社会」をテーマにした座談会を3月31日に開催し、税務当局及び政府機関の幹部のほか、オリンピックの金メダリスト、銀行や民間企業の幹部、中央財経大学の副学長等が参加しました。
2.各種の税広報番組のテレビ放送
今年1月に改正された個人所得税法をテーマにしたインタビューや解説討論番組、毎日5分間全22回放映の「馬斌説税(馬斌が税について語る)」というタイトルの税法解説番組、国家税務総局制作による税のテレビコマーシャルが中央電視台で放映されました。
3.脱税事件の公表及び納税表彰
4月下旬の新聞発表会で一部の典型的な脱税事件を公表するとともに、法に基づき誠実に納税している納税者に対する表彰が各地で行われています。公表された脱税事件に関しては後日紹介したいと思います。
4.税の漫画コンテスト
国家税務総局と、人民日報が主催する「風刺ユーモア報」紙の共催で「依法誠信納税、共建小康社会」をテーマにした漫画コンテストが開催されました。
1等賞:賞金2,000元(2名)、2等賞:賞金1,000元(5名)、
3等賞:賞金500元(10名)、優秀賞:「風刺ユーモア報」紙の1年間無料購読
5.税のアニメーション作品コンテスト
国家税務総局と中国税務雑誌社の共催で「依法誠信納税、共建小康社会」をテーマにしたアニメーション作品コンテストが開催されています(募集締切りは2006年6月15日)。
(執筆者紹介)
伏 見 俊 行
(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)
(執筆協力)
小 杉 直 史
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第30回「消費税改正の概要」
消費税の課税対象、税率が大幅に見直されました
財政部及び国家税務総局は消費税の課税対象品目、適用税率等を改正する旨の通達(財税〔2006〕33号、2006年3月20日付)を公表し、4月1日より適用されています。今回の改正は、@急速な経済発展により、かつての奢侈品の一部が大衆消費財となってきたこと等に伴い、課税対象品目の調整が必要になったこと、A第11次5か年計画で強調されている資源節約型・環境にやさしい社会を推進するため消費税が注目されたこと、そしてB奢侈品に対する消費課税を通じ貧富の格差問題への対応を進めることなどを主な目的とするものと考えられます。今回の改正のポイントは以下のとおりです。
| (注) |
中国の消費税は日本の「消費税」と異なり、煙草、酒類、自動車等の特定の奢侈品等を課税対象として出荷段階で課税される個別消費税であり、日本の旧「物品税」に類似するものです。消費一般を課税対象とする現在の日本の「消費税」に相当する中国の税としては「増値税」があります。 |
1 石油製品
従来の課税対象品目であったガソリン及び重油に加え、ナフサ、ソルベント油、潤滑油、燃料油及び航空機燃料の5品目を課税対象に追加。税率はナフサ、ソルベント油及び潤滑油が0.20元/L、燃料油及び航空機燃料が0.10元/L。ただし、国際的に原油・製品油価格が高騰している現状にかんがみ、当分の間、航空機燃料は免税、その他4品目については本来納付すべき税額の30%のみ課税。
2 自動車
小型自動車(乗用車、オフロード車及びマイクロバス)に課される消費税率について、「高排気量の車種に対し重い税負担」の考え方に基づき税率を調整(3〜8%→3〜20%)。排気量2,000cc超の乗用車は軒並み増税。なお、排気量1,000cc以上1,500cc以下の乗用車は2%減税(5%→3%)となっており、これは昨今の軽排気量車の普及奨励と符合する動き。ちなみに、ハイブリッド車など省エネ、環境保護に効果のある自動車については一定の税制優遇措置を講じることとされ、財政部及び国家税務総局が別途規定するとのこと(3月21日付財政部担当者への質疑応答より)。
3 自動二輪車
小型自動二輪車(オートバイ)が都市近郊、農村部の農民の輸送・移動手段となっている現状にかんがみ、低排気量(250cc以下)の小型自動二輪車に適用される税率を軽減(10%→3%。250cc超の税率は10%)。「高排気量の車種に対し重い税負担」の考え方を反映させつつ、農民の負担軽減を図ることとしたもの。
4 自動車タイヤ
中国のタイヤメーカーは主に斜交タイヤを製造しているが、近年の国際的なゴム価格の上昇と川上の自動車メーカーの値下げ圧力から、10%の消費税が過重負担となりタイヤメーカーの経営を圧迫していたため、適用税率を3%に引き下げ。
5 白酒(蒸留酒)
穀類白酒に対する高税率は雑穀類の消費抑制を目的としたものであったが、今日に至りその意義が失われたこと、穀類と薯類の適用税率差を悪用し、課税逃れを図るケースが見られたことから、穀類と薯類の適用税率を20%に統一。
6 奢侈品に対する課税
奢侈品に対する課税の観点から、ゴルフボール・ゴルフ用品(税率10%)、単価1万元以上の高級腕時計(同20%)、レジャーボート(同10%)を新たに課税対象品目にする一方、かつて奢侈品とされた皮膚頭髪保護商品を課税対象品目から除外。
7 環境保護の観点からの課税
森林資源保護の観点から、木製割り箸及び木製床材(それぞれ税率5%)を新たに課税対象品目に追加。
「ミニ知識(27)」日本の消費税の導入と物品税の廃止
日本では、1989年に物品・サービスの取引一般を対象にする「消費税」が導入され、同時に中国の「消費税」に相当する個別消費税である「物品税」が廃止されました。日本の物品税が廃止された理由は、@特定の物品に課税する物品税では、課税されるものとされないものとの間でアンバランスが生じたこと、A経済のソフト化・サービス化が進展し消費に占めるサービス取引の割合が高まり、物品取引のみを対象とする税では公平性を欠くと考えられたこと、B税収確保の観点からも特定の物品のみに税負担を求めることでは不公平でありまた不十分であると考えられたことなどがありました。例えば、当時の物品税では、毛皮製品には課税されるのに絹織物には課税されない、コーヒーやウーロン茶は課税されるのに紅茶や緑茶は課税されない、といったアンバランスが数多く指摘されていました。そして、時代の変遷とともに消費者の価値観や選択は変化・多様化し、高級品とは何か嗜好品とは何かを当局が判断することには無理があると考えられました。また、明らかに贅沢品であっても新たに登場した物品は課税対象から漏れるという問題もありました。さらに、こうした課税政策が消費者の選択や事業者の活動に大きな影響を及ぼすこと自体望ましいことではないとも考えられました。
日本の物品税は1937年に戦時下の財政収入確保を主な目的とし、同時に国民の贅沢品・嗜好品への消費を抑制することを目的として導入されたものです。個別物品に対する消費課税は、今日においても財源確保のほか、贅沢品等の消費に着目した課税を通じ貧富の格差是正に貢献する、環境目的のため特定物品の消費を調整するなどの政策的な意義はあると考えられます。一方で、日本が物品税を廃止した経緯を見ても分かるように、贅沢品・嗜好品の範囲を普遍的に定めることは困難であり、また時代や世代、地域によってその判断は変化するものであることから、その課税対象の範囲や税負担の大きさを決定する作業は容易ではなく、また常に見直しが求められることになると言えます。中国の消費税も、今後頻繁に見直しが行われていくものと予想されます。
(執筆者紹介)
伏 見 俊 行
(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)
(執筆協力者)
神 谷 信
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第29回「日中移転価格税制比較(3)」
中国では10年遡及課税の可能性もあります
(移転価格算定方法(続き))
中国の税制で認められている利益比較法は、対象となる企業の営業利益率と同業他社の営業利益率とを比較することで移転価格上の問題の存在の有無を検証する方法です。この方法はOECDガイドラインでは認められていない方法であり、米国等のいくつかの国だけで認められている方法です。利益比較法は、公開データから基準値を見つけることができることから、課税当局が課税を行う場合も、また納税者が移転価格課税に備える場合にも、使いやすいという大きな利点があります。ただし、本来の取引価格の適正化を図ることによる利益移転の防止という考えからは大きく離れた取扱いです。利益比較法で用いる企業単位での営業利益率は、取引価格以外の営業コストなど他の要因の影響を大きく受けており、もはや取引価格の比較という領域からは外れています。単に、「企業は一定の利益を上げ、一定の納税を行うべきである」という考えから作られた方式であり、伝統的な移転価格問題への取組みからは認められない方法として考えられています。
仮に、日本で認められていない利益比較法を用いて中国が中国所在の日系子会社に移転価格課税を行った場合には、その後の二国間の相互協議(二重課税解消のための税務当局間の交渉)や対応的調整(二重課税解消のための税務当局による対応)を行う際に大きな問題が生じます。相互協議の際には、中国での利益比較法による課税手法は認められません。したがって、二重課税を回避するためには、改めて日本でも受け入れられる別の方法を用いて独立企業間価格の算定を行うことになります。
また、二国間事前確認を行う場合にも、両国が認める算定手法を用いる必要があります。例えば、在中国の納税者が利益比較法に基づく日本との二国間事前確認を申請する場合には、申請の段階で、算定手法の見直しが求められることになると思います。そのままでは、二国間事前確認は日本と合意されることはないからです。
(調査)
日本では、一般の調査事案では5年間遡及での課税、不正事案については7年間遡及での課税が可能となっていますが、移転価格事案については6年間遡及の課税が可能になっています。一方、中国では基本的には課税の遡及年限は3年間とされていますが、10年間訴求して課税することも可能とされています。
課税を受けた企業の事後管理について、中国では、更正後3年間の追跡調査が公表されており、一度課税を受けた企業はその後引き続き管理されることになっています。日本ではこのような通達はありません。しかし、日本でも、現実の対応として、一度課税を受けた企業は、その後の移転価格取引や申告の状況は的確に管理されているものと考えられます。
調査期間について、中国では調査通知から3年以内ということが公表されていますが、日本ではこのような通達はありません。しかし、日本では、一度調査を行った場合、長期間にわたり調査が放置されることはないと思われます。
(相互協議・事前確認)
日本では、各国との相互協議を積極的に行っていることは以前説明したとおりです。2005年7月時点で進行形の事案が200件を超える件数になっています。そのうち、移転価格の課税事案について二重課税を解消するための協議が29件、移転価格課税を未然に回避するための二国間事前確認のための協議が143件となっており、移転価格関係の相互協議が90%近くになっています。
中国でも、今後は間違いなくこうした仕事が増えていくものと考えられます。特に、日本との相互協議は、両国の経済関係の深さを考えれば、最も多くなるものと予想されます。
「ミニ知識(26)」事前確認制度
事前確認制度とは、納税者が税務当局に申し出た独立企業間価格の算定方法等について、税務当局がその合理性を検証し確認を与えるものです。そして、税務当局がその確認を与えた場合には、納税者がその内容に基づき申告を行っている限り、移転価格課税は行わないことを保証する制度と言えます。
事前確認制度の目的を要すれば、独立企業間価格の算定に関して課税当局と納税者との間で事前に確認することにより、移転価格課税に関する納税者の予測可能性を確保し、移転価格税制の適正・円滑な執行を図ることということになるでしょう。
移転価格課税は巨額になることが多く、また納税者が税務当局により移転価格調査を受けた場合、さらに移転価格課税を受けた場合、その移転価格調査および課税後の解決のために行われる相互協議等には通常長期間を要し、また多大の事務量、コスト等を要することになります。納税者にとって移転価格課税に関するリスクは極めて大きなものと言えます。したがって、事前確認制度は、国外関連取引を有する納税者がこうした移転価格課税にかかわる大きなリスクを回避する手段として大きな効果があり、その利用は大いに推奨されるものと言えます。
事前確認には、一国内限りの事前確認(ユニラテラルAPA、国内事前確認)と二国間での合意に基づく事前確認、(バイラテラルAPA)、多国間での合意に基づく事前確認(マルチラテラルAPA)があります。これらのうち、二国間または多国間の相互協議による事前確認では、納税者に関係する二国または多数の国から法的安定性を得ることができるため、日本では二国間等の相互協議による事前確認を推奨しており、多くの国も同様の立場にあります。
(二国間または多国間相互協議に基づく事前確認(APA)の流れ(例))

(執筆者紹介)
伏 見 俊 行
(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)
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第28回「日中移転価格税制比較(2)」
基本三法を優先適用する日中の移転価格算定方法
今回は、日中の移転価格算定方法を比較していきます。
(移転価格算定方法)
移転価格税制は関連企業間の取引価格の妥当性を検証する税制ですが、この妥当な取引価格(独立企業間価格)を算定する方法が移転価格算定方法です。日本、中国ともに、OECD移転価格ガイドラインを尊重した税制を作っており、移転価格算定方法は両国で類似しています。基本三法(独立価格比準法(CUP法)、再販売価格基準法(RP法)、原価基準法(CP法))をまず優先適用し、これらが使用できない場合、その他の方法(利益分割法(RP法)、取引単位営業利益法(TNMM)など)を用いることにしています。
以下では主な移転価格算定方法について概説します。
@ 独立価格比準法
基本三法のうち独立価格比準法は、特殊の関係にない売り手と買い手が、国外関連取引にかかる棚卸資産と同種の棚卸資産を当該国外関連取引と取引段階、取引数量その他が同様の状況の下で行った売買取引の対価の額に相当する金額を独立企業間価格として、移転価格を算定する方法です。比較対象取引の価格そのものを独立企業間価格とする独立価格比準法は、移転価格税制の本来の趣旨に最も合致した方法であり、この方法が独立企業間価格算定の基本となる方法であると言えます。しかし、現実には、取引価格は製品のわずかな違いや販売戦略等により容易に変動しますので同種の製品や同様の取引条件となる比較可能性のあるものを確保することは難しく、この手法を適用できる例は限られていると言わざるを得ません。
A 再販売価格基準法
再販売価格基準法は、国外関連取引に係る棚卸資産の買い手が特殊の関係にない者に対して当該棚卸資産を販売した対価の額(再販売価格)から通常の利益の額(マークアップ)を控除して計算した金額を独立企業間価格として、移転価格を算定する方法です。この方法は、国内の輸入業者が行う取引を比較対象取引とすることができることから、輸入業者が独立企業間価格の算定方法として用いる方法として容易であると言えます。
B 原価基準法
原価基準法は、国外関連取引に係る棚卸資産の売り手の購入、製造その他の行為による所得の原価の額に通常の利益の額(マークアップ)を加算して計算した金額を独立企業間価格として、移転価格を算定する方法です。この方法も、再販売価格基準法と同様に、国内の製造業者等が行う取引を比較対象取引とすることができることから、製造・輸出業者が独立企業間価格算定方法として用いる方法として容易であると言えます。
C 利益分割法
その他の方法のうち利益分割法は、簡単に言えば、移転価格取引の当事者がその取引から得られる利益を当事者間で合理的な基準に基づいて分割する方法であり、その分割に沿った取引価格を独立企業間価格として算定するというものです。利益分割法は、他の方法の適用が困難な場合に用いられる方法です。利益分割法には、基本的な手法である寄与度分割法のほかに、比較利益分割法、残余利益分割法が認められています。
D 取引単位営業利益法
取引単位営業利益法は、納税者が行う一つの関連者間取引(または一括することが妥当な複数の取引単位)についての営業利益指標(例えば、売上営業利益率、資産収益率、その他の適切な財務比率)を、比較対象とする非関連者間取引の営業利益指標と比較することにより移転価格問題の判断を行うものです。取引単位営業利益法は、基本三法が適用できない場合、比較対象法人の営業利益率が取引単位(または製品ライン単位)で入手可能な場合に適用されることになります。
日中の移転価格算定方法で異なっている点は、その他の方法の中で、中国が利益比較法や推定利益法を認めている点です。この点に関しては次回説明します。
「ミニ知識(25)」移転価格課税の特徴(2)
ミニ知識では、前回に引き続き移転価格課税の特徴を説明します。
C 国家間の税配分の問題の発生
国際間の関連者取引に対して移転価格課税が実施された場合には、関係国家間での国際的税配分の問題を生じます。移転価格課税は、税を巡る国際紛争の発生原因となります。納税者には、移転価格に関する各国や国際的なルールを理解した上で適切な移転価格取引と申告納税を、また、課税当局には、国際ルールに沿った適切な課税を期待するとともに、関係各国の税務当局間での円滑かつ積極的な二重課税解消のための協力が行われることが期待されます。
D 巨額な課税の発生
移転価格課税は適正な移転価格の算定を求めるものですが、一般に移転価格や利益水準のわずかな調整が必要とされた場合であっても、企業の所得金額や課税額に対する影響は巨額になる場合が多いと言えます。企業にとっては、経営基盤にも影響する巨額の課税、税務当局にとっては、税収に大きな影響を与える課税になる可能性があります。納税者には、移転価格問題の重要性を認識し、親会社を中心として企業グループ全体での十分な対応が必要と言えます。また、課税当局については、税収確保や調査実績の向上など本来の移転価格課税の趣旨とは異なる動機付けにより不適切な課税が行われることがないことを願いたいと思います。
E 大きな事務負担と費用負担
適正な移転価格の分析・設定、移転価格説明資料の作成、移転価格調査対応、専門家への支援依頼費用など、移転価格対応のため、企業は大きな金銭的負担や事務的負担を必要とする可能性があります。また、課税当局にとっても調査など移転価格課税関係に要する事務量は膨大なものになります。納税者は、負担コストの最小化を目指した努力を、また税務当局も税務執行の効率化を進めるとともに、納税者負担の最小化への配慮を続ける必要があると考えます。
(執筆者紹介)
伏 見 俊 行
(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)
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第27回「日中移転価格税制比較(1)」
国内取引も対象となる中国の移転価格税制
これから3回、日本と中国の移転価格税制の概要とその違いを説明していきます。
(導入時期)
日本は1986年4月に移転価格税制を導入しました。米国が1920年代には既に同税制を持っていたことに比べれば、決して早い時期での導入ではないと言えますが、現在では米国、欧州諸国とともに最も移転価格課税の対応が進んでいる国の一つになっています。中国は移転価格税制を1991年に導入しました。やはり早い導入とは言えませんが、それでも既に15年近い歴史を持っており、その執行レベルも日本や欧米諸国に近づきつつあると言えます。
(対象税目)
移転価格税制の対象となる税目は、日本では法人税だけです。中国では、法人税(企業所得税および外国企業等所得税)だけでなく、すべての税に影響がある点、大きな違いがあります。
日本では、例えば、法人税調査で移転価格問題が把握され海外への売上額の是正が行われたとしても、法人は法人税の申告書上の所得の増加修正を行い、法人税の納付をするだけで終わります。法人の決算書を修正することも、売上が増えた分に相当する消費税を追加して支払う必要もありません。また、海外の子会社から利益移転の所得について配当として実際に回収することも義務付けられていません。あくまでも法人税の中の税務処理上の問題の中で完結します。
また、日本の移転価格税制が法人税のみを対象としているということは、日本の同税制は個人事業者には適用がないということを意味します。個人事業者も移転価格税制の対象とする中国の取扱いと大きく異なる点です。
(対象となる関連企業)
移転価格税制は関連企業間の取引価格の妥当性を問題にする税制であり、第三者との取引は移転価格税制の対象外になります。この移転価格税制の対象となる関連企業の定義についても日中の税制では違いがあります。
日本では、主として資本関係を中心とした形式基準を重視しています。資本関係では、親子関係では50%以上の関係、兄弟関係でも同じく50%以上を同一の関連者に所有されている関係です。また、資本基準のほかに、事業方針に関する実質的な支配関係など、実質基準も取り入れています。
一方、中国では、資本基準はもちろん重視しますが、それ以上に実質基準により関連企業として認定されているようであり、おそらく日本より広い範囲で認定が行われているようです。ちなみに、中国の資本基準は資本関係が25%以上となっています。
(対象取引)
日本と中国の移転価格税制の大きな違いの一つが、対象とする取引であると思います。
日本では、日本と外国との取引に限って移転価格税制を適用することになっています。多くの国においては、移転価格税制は国際間での移転価格による所得移転と税の流出を防止することを目的として導入した税制であり、国内取引は対象としていません。仮に国内で関連企業に所得が移転された場合には、移転先の企業の所得の増加となりますので、国税収入としては基本的には税の流出の心配はないと考えられるからです。
この点、中国では国内取引も移転価格税制の対象としています。米国でも国内取引を課税対象としていますが、実際に課税を行っているケースはほとんどないと聞いています。中国も現実に国内取引に移転価格課税を行った事例は少ないと聞いていますが、日系企業では中国国内に関連会社を多数持ち、それらの国内取引も多くあり、中国の国内取引に対する移転価格課税についても強い関心を持っています。
「ミニ知識(24)」移転価格課税の特徴(1)
今回と次回、移転価格課税の特徴について紹介します。移転価格課税の特徴には、次のような6つの特徴があると考えられます。したがって、その取扱いに当たっては、納税者も税務当局も他の課税事案とは異なった特別な配慮が必要になると思います。
@ 所得移転という結果を問われる税制
移転価格課税は、節税、所得移転等の意図の有無にかかわらず、結果として移転価格により所得移転の事実が認定される場合には課税が行われます。言わば、結果責任としての課税と言えます。したがって、納税者は、移転価格問題について調査を受けてから対応するといった受身の対応では手遅れであり、課税上問題となる結果を作らないという能動的な対応をしていく必要があります。
A 科学的・客観的評価の難しい独立企業間価格の算定(移転価格問題の複雑性、困難性)
移転価格税制の主題ともなる独立企業間価格について絶対的・客観的な価格(真実の価格)を科学的に実証することは、多くの場合難しいものと考えられます。移転価格課税の実施に当たっては、最大限客観性のある独立企業間価格を追求するものの、ある程度裁量的な判断や基準に拠らざるを得ないことも事実です。しばしば、移転価格課税は科学ではなく芸術の世界に近いと言われています。したがって、納税者は、移転価格対応の複雑性、困難性を認識し、可能な限り客観的な検討に基づき適切な移転価格取引、課税の未然防止と的確な課税への対応に努めていく必要があります。また、課税当局には、精緻かつ的確な分析・検討に基づく慎重な移転価格課税の実施が期待されるところです。
B 企業グループに経済的二重課税の発生
移転価格課税が実施された場合には、企業と関連取引企業は同一の取引に関して二重の所得計上を強いられ、二重に課税を受けることになります。すなわち、企業グループにとって経済的二重課税の問題を生じます。納税者は、二重課税解消のための方策を採るとともに将来に向けた移転価格課税の未然防止に努めることが必要です。また、税務当局には、納税者の二重課税解消のための救済措置の円滑かつ積極的な対応が期待されるところです。
(執筆者紹介)
伏見俊行
(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)
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第26回「移転価格税制の概要」
移転価格税制とは、ある国の法人とその国外関連者との間の取引の対価の額が独立した第三者間であれば取引されるであろう価格(独立企業間価格)と異なることにより、ある国の法人の所得の金額が減少することになる場合に、国外関連者との取引価格を独立企業間価格で行ったものとして所得金額を計算し直すという制度です(租税特別措置法66の4C、OECD移転価格ガイドライン等)。
次の図は日本の移転価格税制の概要を説明するものです(財務省資料)。
次回からは、日中の移転価格税制の概要を比較しながら説明するとともに、移転価格課税の特徴について紹介していきたいと思います。さらに、移転価格課税を受けないための対応についても触れていきたいと思います。
「ミニ知識(23)」移転価格税制の歴史
日本も中国も移転価格税制の導入時期については後発の国であったと言えます。
米国は1928年に内国歳入法482条を導入し国際取引、国内取引を問わず関連企業間の取引であれば対象として適用できる制度を確立していました。しかし、現実には課税手法として活用されるケースは少なかったようです。しかし、第2次大戦後の企業活動の国際化進展に従いこの制度が脚光を浴びるようになり、1968年に詳細な財務省規則が規定され、さらに70年代、80年代になると外資系企業に対する適正な課税の実現という理屈により巨額な移転価格課税を行うようになりました。さらに、独立企業間価格の算定手法として、利益比較法の導入やドキュメンテーションルールの導入など移転価格税制を容易に適用できる環境整備を進めてきました。
イギリスは1970年に所得税法人税法485条1項で関連企業に対する資産の国際取引による低廉譲渡への取扱いを規定し(元は1951年歳入法37条)、西ドイツは1972年の国際取引課税法1条1項で関連企業間の国際取引を通じた所得の国外移転を否認することを規定しています。また、フランスは1933年に租税一般法57条で売買価格の操作等により関連外国企業に移転された所得はフランス企業の課税所得に加算することを規定しています。現在では、欧米の主要国はいずれも移転価格税制を導入済みとなっています。
各国の移転価格課税の状況を見ると、先進諸国の中では、日本をはじめとして多くの国はある程度の水準で横ばいになっていますが、一部の国では依然として移転価格課税の件数も規模も拡大傾向を示しているようです。
一方、開発途上国、特にアジア諸国については、近年移転価格課税のための法制度の整備や執行体制の整備を進め、課税強化に動いている国が多いと見られます。既に一部の国では移転価格課税が始まっており、また現在課税に至っていない国においても遠からず外資系企業を調査対象としていくことが予想されます。
いずれにしても、世界全体で見た場合、移転価格課税は依然として拡大の様相を示していると考えられます。
(執筆者紹介)
伏 見 俊 行
(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)
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第25回「日中移転価格課税の現状」
移転価格課税拡大の可能性
1.日本の移転価格課税の現状と見通し
近年、日本の移転価格課税の件数は年間40件〜60件程度、課税所得金額は合計で年間400億円から800億円程度で推移してきました。したがって、1件あたりの課税所得金額は平均すると10億円程度となっています。しかし、昨年は件数も金額も大幅に伸びています。特に課税金額は顕著な拡大を示しました。
日本の移転価格課税の特徴としては、課税件数は絞られ、1件当たりの移転価格課税所得金額がある程度大規模なものに限定して行われていることが指摘できます。移転価格課税は明確な客観性をもって課税を行うことが難しいことから、一般の調査に比べて必然的に調査は慎重に行われ、年間の課税件数は限られ、所得移転の規模の大きいものに限られ課税が行われていると言えます。
従来は欧米関連の事案が中心であったと思われますが、経済の国際化、アジア化を反映して、今後はアジア関連の事案も増加していくことが予想されます。さらに、課税内容も従来の有形資産を中心とした移転価格課税から、無形資産取引、企業グループ内役務提供取引など新たな形態の移転価格課税にも広がりを見せていくものと考えられます。
2.中国の移転価格課税の現状と見通し
中国の移転価格調査は、1990年頃から開始され、1998年から全国的に本格的に調査が強化されています。当初は全国に調査件数増大の指示を出し、移転価格課税を全国に浸透させる施策、言わば職員の意識、知識、経験の浸透、蓄積を進める運営が行われていたものと理解できます。最近では、移転価格調査も既に試験的段階を終え、本格的な調査を進める段階に入っていると見ることができるようです。国家税務総局は全国の国際課税担当者の育成と移転価格課税の充実・強化に熱心に取り組んでおり、また外国企業等の進出が多い沿岸部の主要地方の税務機関は移転価格課税専門チームを結成し、移転価格課税に対応できる国際担当要員の育成も確実に進んでいます。これまで国際ルールに適合しない不適切な調査手法による移転価格課税が多く見られたと言われていましたが、最近では国際的なルールに則った適切な調査が次第に浸透してきていると言われています。また、都市部の税務機関では、移転価格課税の強化を図るばかりではなく、移転価格課税を未然に防止する有効な手法として二国間事前確認制度に関する認識も高まりつつあります。
中国税務当局から調査事績の公的な発表はありませんが、非公式な情報によれば、従来は年間で1,000件を超える多くの調査を実施し少額ながら多数の課税を行っていましたが、昨年からは国家税務総局が全国の移転価格事案の管理を徹底する方針に変更し、その結果調査の絞込みが行われ課税処理された件数は大幅に減少していると言われています。また、調査件数の絞込みを進めたことを反映して1件当たりの課税金額も大幅に増加しているようです。
今後は、移転価格上の問題の大きい事案への絞込みが一層進み課税件数は限られたものとなる一方、個々の事案の課税所得金額や追徴税額は年々巨額化し米国や日本並みの大規模な課税が行われることも予想されます。さらにいずれ、適切な移転価格調査の拡大とともに、二国間事前確認にも関心が高まりその実施が増大していくことが予想されます。また、こうした展開を期待したいとも思います。
(執筆者紹介)
伏 見 俊 行
(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)
(本の紹介)
前回から移転価格課税をテーマとして取り上げていますが、紙面の都合もありその要点のみを記述しています。詳しくお知りになりたい方は、拙著の「日中移転価格税制」(税務研究会)をご覧いただきたいと思います。本書は、日本と中国の移転価格税制の仕組みから移転価格課税を受けないための対応策までを詳述したものであり、中国で活動する日系企業の皆さんにとってお役に立つものと思います。
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日中移転価格税制
―移転価格課税を受けないために―
伏見俊行・成 立 共著
A5判・436頁定価 3,990円(税込)
“政冷経熱”といわれる近年の日中関係を反映し、中国が米国を抜いてわが国最大の貿易相手国となり、その存在感は従前にも増して高まっています。
その一方、中国に進出する企業は、市場開拓や営業・技術分野に重点を置き、税務・会計といった管理部門面はおろそかになりがちで、移転価格問題が俄然クローズアップされています。
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◆移転価格問題の多くは、各企業が的確に課税の未然防止や税務当局への対応を行うことで 解決できます。
◆本書は、日本と中国の移転価格税制の仕組みから税務当局の執行方針、移転価格課税を 受けないための対応策までを詳説しています。
◆中国に進出する日本企業の実務担当者、日中間の税務に携わる専門家の必携書です。 |
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第24回「移転価格課税の危険性」
増大する移転価格課税のリスク
第2回のコラムで、日本で巨額の移転価格課税が行われたことが報道されたことを紹介しました。移転価格課税自体は、主に企業所得税(法人税)の中の一部の取扱いに過ぎず、税務行政の一部でしかありません。ですから一般の方にとっては馴染みの薄いものかもしれません。また、歴史的にもこの税制が脚光を浴びたのもせいぜいこの20年余りのことです。
しかし、その課税の額の大きさやそのために要する事務負担、費用負担の大きさを考えると海外に進出する企業にとっては、知らずに済ますことのできないものとなっています。これからしばらくの間、ホットな話題になりつつある中国での移転価格課税にスポットを当てて説明を行っていきたい思います。
1.移転価格課税の危険性
一般に、移転価格税制は、関連会社間の国際取引において非関連の会社間であれば設定されたであろう取引価格とは異なる価格により取引が行われ、その結果ある国において課税されるべきであった所得が他国に移転され納付されるべき税が他国に流出することを防ぐために設けられた制度です(注)。
したがって、この移転価格課税は、所得の国際間の移転、すなわち税の流出が結果として存在しているか否かがポイントであり、企業側に租税回避や所得移転の意図があるか否かは課税当局が課税を実施する上での問題とはなりません。課税当局が関連者間の取引について移転価格上問題ありとの認定をした場合には、企業に悪意がない場合でも、あるいは経理上の問題がない場合でも移転価格課税が行われることになります。現実に移転価格課税は、むしろ企業が単にその税制を理解していないことや準備を怠ったことで行われる場合が多いと言えます。すなわち、海外にある関連会社と取引を行う企業は、移転価格による所得移転の意図があろうとなかろうと、常に各国の課税当局から移転価格上の問題の有無について注目されており、いつ移転価格課税が行われるか分からないリスクを負っていることを理解しておく必要があります。海外の関連会社と取引のあるすべての企業が移転価格課税のリスクを負いながら日々国際取引を行っているという現実を十分認識しておくことが必要です。
(注)日本の移転価格税制とは異なり、中国、米国などの移転価格税制は国際間取引のみを対象とするものではなく、国内で移転価格上の問題のある取引が行われた場合にも移転価格課税が行われることになっています。したがって、中国等では、移転価格問題のリスクが一層大きいと言えます。
2.中国における移転価格課税の危険性
こうした移転価格課税強化を最も顕著に進めている国が中国であり、また近年最も国際経済関係の拡大が進んでいる国が日本と中国です。中国では、ここ数年移転価格課税の制度上の整備、課税体制の強化を急速に進め、結果として移転価格課税事案は急増しています。しかし、経済取引関係の増大や課税強化はこれからが本番であり、移転価格課税に関して件数的にも、金額的にも拡大していくことが予想されます。日系企業への本格的な移転価格課税やそれに伴う日中当局間の問題はこれから大きくなっていくことが予想されます。
一般に、日系企業は中国の移転価格課税に対する認識が甘く十分な対応を取っていないケースが多いと言われています。今後、移転価格課税の対象となる関連企業間取引の増大、中国の課税当局による移転価格課税強化の動き、そしてこうしたリスクへの日本企業の取組みの遅れを考えるとき、中国での移転価格課税は数的な拡大とともに課税規模の拡大も予想され、中国に進出する日系企業にとって移転価格問題は避けて通れない重大な問題になっていくものと考えられます。同時に、今後日本の課税当局も日中間の関連者間取引の適正化について強い関心を払うであろうことは想像されるところです。今日、日本企業にとって、日中間の移転価格問題は世界の中で最も注意を払うべき問題になりつつあると言っても過言ではないと思います。
「無料公開講座のご案内」
私が所属する中央財経大学修士課程日本人コースでは、来る3月12日に日中ビジネス交流の発展や円滑化に貢献する活動の一環として、中国で活躍する社会人、留学生などの日本人の皆様や日中ビジネスに関心のある中国人の皆様など広く一般の方を対象として、下記のとおり無料公開講座を開催します。私も講師として講座を担当します。この無料公開講座が、日中ビジネスに関する情報提供の機会として、また本学修士課程日本人コースの一端に触れる機会として役立てば幸いです。皆様のご参加をお待ちしています。
ちなみに、中央財経大学会計学修士課程日本人コースは、日中ビジネス交流の発展や円滑化に貢献する人材の育成を主な目的として、2004年10月に設立されました。現在、第3期生(2006年4月開講)の募集を行っているところです。第3期生募集に関しては、本コースホームページをご参照ください(http://cufe.we1.jp)。
1.開催日 2006年3月12日(日)
2.講座の日程、概要、講師
午前(9:30〜11:30) |
午後(13:00〜15:00) |
午後(15:15〜17:15) |
経営管理(異文化と調和し、
効率的な事業展開のために)
講師:鬼武孝夫教授 |
国際課税・中日税制(移転価格課税を受けないために)
講師:伏見俊行教授 |
中日会計・監査比較(中国会計基準改正の概要とその影響)
講師:山本晃教授 |
3.会場 中央財経大学 北京市海淀区学院南路39号
4.募集要領
- 募集対象 日中ビジネス交流に関心のある方(日本語を理解する方)
- 募集方法 上記講座日程の中から希望する講座を選択し(全講座を受講することもできます)、氏名、住所、勤務先(所属大学等)、連絡先を記載の上、ファクシミリ、電子メールまたは電話により事前に登録する必要があります(先着順にて受付け、会場許容人員に達し次第締め切らせていただきます)。
- 受講料 無料
- 申込み先 中央財経大学国際合作処 (蔡彩時)
ファクシミリ:010−6228−9093
電話:010-6228−8335 又は 8337
電子メールアドレス:jp-master@cufe.we1.jp
(執筆者紹介)
伏 見 俊 行
(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)
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第23回「中国税務行政の関心事項(3)」
外国人に対する個人所得課税強化の動き
今回は外国人に対する個人課税強化の動きについて説明します。
2) 外国人に対する個人所得課税強化の動き
外国人に対する個人所得課税執行強化の動きについては、2004年3月の「外国籍個人の個人所得税徴収管理業務強化に関する通知」(2004年国税発第27号)公表以来、強化の動きが明確になっています。2004年6月末までの間は加算税を課さない自主修正の猶予期間でしたが、2004年7月以降全国的に本格的に課税強化が図られています(なお、運用上2004年末まで猶予期間が延長される取扱いもあったようです)。
その結果、2004年7月から2004年年末までの半年余りの期間に本税と延滞税を併せて12億人民元(180億円程度)が追徴されたとされています。実は、この金額は、移転価格課税による追徴税額をはるかに上回っています。最近の中国進出日本企業や日本人にとっての最も大きな関心は、増値税の問題でも、移転価格課税の問題でもなく、個人課税の執行強化の問題であるかもしれません。
現在も全国的に外国人の所得について重点的な執行が行われているようですので、しばらくの間は大きな影響が出るものと思います。ただし、こうした課税の多くは、法規定で明らかになっている取扱いであり、これまで中国当局がチェックしていない点がようやく是正されつつあるということのようです。したがって、納税者が正しい申告納税を進めていく段階で、この話題も沈静化するものと考えられています。この点は、課税の取扱いに厳密な客観性を探すことが難しく、納税者と当局の判断が分かれる可能性が強い移転価格課税と異なる点です。移転価格課税は、法令の取扱いに従えば課税が回避される個人課税の問題とは異なり、将来の課税の可能性を完全に消すことが容易ではない性質を持っています。
外国人課税の主な調査対象は、中国に居住し居住者として認定される外国人です。これらの者は、全世界所得を中国で申告する必要があり、これが日中両国共通の取扱いであり国際的なルールでもあります。しかし、これまで国外支払の給与等について中国で申告していなかったケースも多いようです。
例えば、日本企業の中国支店、中国駐在員事務所に派遣されていた長期駐在の日本人(中国の居住者に該当する人)は日本の本社で支払われた補填給与なども中国で申告納税する義務があります。しかし、支店、事務所ぐるみで中国での申告納税をすべて漏らし、その事実が中国当局に把握され、過去にさかのぼり大変な額の追徴課税を受けたという事例もあるようです。こうした企業は、単にケアレスミスで申告漏れとなっていたという話ではなく、故意に中国での納税を行っていなかったと考えられます。加えて、こうした事例の場合、日本で支払われていた給与分は日本でも申告納税する必要がありませんので、結局どこの国でも納税しないという「税の真空地帯的な扱い」を享受していたことになります。このような事例について、企業からは、「中国が厳しい課税を行っており敵わない」という声を聞きますが、果たしてどちらが悪いのでしょうか。日本の国税庁としては、こういう場合、むしろ中国当局に積極的に協力し、正しい申告納税が国際的に果たされるように動きます。租税条約を締結している日本と中国の間では、課税情報について交換する協力体制ができあがっており、一方の国の居住者の他方の国での所得の状況に関する情報は両国間で交換されるシステムがあります。各国税務当局は国内・国際ルールに従った正しい課税の実現を何よりも尊重することになっています。日本の企業だから、日本人だから守るということはありません。
ちなみに、中国で正しく給与所得を申告していない理由としては次のような理由があるようです。例えば、同じ給与所得額であっても、所得税率は日本に比べて中国は高く、また所得控除の額も日本の方がはるかに大きいものと考えられます。つまり税制上、中国での税負担が日本よりはるかに高いという理由です。また、日本では源泉徴収で済むように、手続が容易であるのに対し、中国では基本的には毎月申告納税を行う必要があり、この事務負担の差も中国で申告納税しない理由の一つとして指摘する人もいます。そのほか、高額の給与をもらっているということを中国人現地社員に知られたくないという理由や、中国当局が日本で支払われた給与を把握できるはずがないという安易な気持ちが駐在員にあるという話も聞きます。
実は、このような海外駐在員を巡る税の問題は、中国での特別な話題ではなく、海外に進出している多くの企業が各地で起こしている問題であり、問題のあるところです。日本国内での日本人の納税意識(コンプライアンス)はこれまで十分浸透してきていると考えられますが、世界各国で活躍する日本企業や日本人が海外で同様のコンプライアンスを持って申告納税しているかどうか分かりません。国際社会の中で範となって活躍すべき日本企業、日本人として、世界的な観点での納税意識を持ち正しい申告と納税を続けていただきたいと願います。特に、難しい日中関係の下で活動する日系企業、日本人は、中国での信頼を失うような行動がないよう十分留意すべきではないでしょうか。
「ミニ知識(22)」貧富の格差指数(ジニ係数)
近年、中国では富める者と貧しい者との格差の拡大が大きな問題になっています。また、日本でも貧富の格差の問題が話題になっています。こうした国や地域内の所得格差(貧富の差の大きさ)を示す統計学上の指標としてジニ係数というものがあります。指標は0から1の間で示され、全員が平等の所得をもっているとすれば指標は0となり、1に近づけば近づくほど貧富の差が大きいものと考えられます。なお、ジニ係数は所得格差を測るだけでなく、資産格差を測る指標として用いることも考えられます。貧富の差の大きさという概念は、フローとしての所得格差だけでなく、ストックとしての資産格差から見ることもできるわけです。
日本はこれまでは世界の国々の中で最も所得格差のジニ係数が小さい国の一つであり最も貧富の差が小さい公平な国の一つと言われてきました。差別化を嫌う国民性とともに、富の格差を減少させる雇用・賃金制度、高い累進税率を持つ所得税や相続税といった税制などが、日本を貧富の差の小さい国にしたと考えられています(なお、最近日本でもジニ係数が大きくなっていることが指摘され「格差の拡大」が話題になっています)。
先進諸国の中では、米国は貧富の差が大きい国となっています。米国は、自由と機会平等の国であり、貧富の差を許容し、富める者は積極的に富めるべきという考えを持っています。そのほか、貧富の差が大きい国(地域)として、中国・香港、マレーシア、フィリピン、ロシアなどがあります。
近年、中国は貧富の差が拡大し所得格差のジニ係数の大きい国の仲間に入ったようです。また、あまり指摘されていませんが資産格差の面も所得格差同様に貧富の差が著しく拡大していると言われています。先日、あるコンサルティング会社の調査報告として「中国では0.5%足らずの人口が全国の個人資産の60%を所有している」との報道がありました。そして、個人資産の富裕層への集中は更に加速していくものと見られています。
今後中国が取り組まなければならない重大な問題がこうした所得格差、資産格差の拡大是正であると言われています。個人所得課税、財産課税をはじめとした今後の税制見直しも、こうした問題点に焦点が当てられていくものと思います。
(執筆者紹介)
伏 見 俊 行
(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)
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第22回「中国税務行政の関心事項(2)」
個人所得課税強化の動き
今回は個人所得課税強化の動きについて説明します。
1) 個人所得課税強化の動き
中国では、外国人に限らず個人の所得課税全般について強化する動きが見られます。経済発展に従い富裕層を中心として課税対象となる個人が増えている昨今の状況を考えるとき、個人課税の強化は不可避のものと言えましょう。
2005年7月に国家税務総局は「個人所得税管理弁法」通知(国税発2005年120号)を公表し、個人所得税の執行の強化、充実を図るための指針を示しました。詳細の説明は省略しますが、@個人所得管理制度(個人納税者の情報の収集と管理を強化・充実を図ること)、A源泉徴収明細帳制度(源泉徴収義務者に給与所得者の基礎情報、支払金額、源泉徴収税額等に関する情報を提出させ源泉徴収義務者ごとの管理を充実すること)、B納税義務者・源泉徴収義務者による二重申告制度(源泉徴収義務者と納税者の両者に申告を義務付けること)、C他の政府機関との税務協力制度(関係機関との徴税協力関係を強化すること)といった4つの制度を実施することとしています。
こうした4つの制度を通じて、1)高額所得者の重点管理を強化すること、2)各種所得の源泉管理を実現すること、3)納税者の全員全額管理を目指すこと(公安局が発行する身分証明書番号を「納税者番号」として用い納税者を管理する方向)といった3つの管理の充実を図っていくことを表明しています。
以上の施策を実施していくためには全国統一の個人所得税情報管理システムの導入が欠かせないことから、情報管理システムの構築についても同通知では言及しています。この通知は2005年10月1日から実施されています。
なお、同通知では、重点管理対象となる高額所得者として、金融、保険、証券、不動産、学校、病院、外商投資企業・外国企業、ハイテク企業、仲介業、スポーツクラブ等の高収入業界に属する者、投資家、芸能人、スポーツ選手、モデル等の高額収入者、短期滞在の外国芸能人などが指定されています。また、高額収入者、著名人、多数の収入源を持つ者、税務行政に影響が大きい者などについても重点管理することとされています。こうした重点管理の対象となる納税者については継続して管理が行われることになっています。
また、国家税務総局幹部は、個人課税強化を図っていくため、現金取引業務の管理強化、金融取引での本人確認の徹底、現物給与等の給与所得計算への算入、銀行取引を通じた給与支給の促進、金融機関等からの個人取引情報の入手制度の確立などを進めていくことを表明しています。
これまで個人所得課税への取組みが不明であったため、外国人課税のみが強化されている印象がありましたが、今回の通知を機に、今後は国内高額納税者を含めた個人所得への課税が適正、的確に進められることを期待したいと思います。
ちなみに、無申告又は過少申告の納税者に対しては、税収徴収管理法の規定により、申告漏れ額と延滞金(年率18.25%)が追徴されるほか、申告漏れ額の50%以上500%以下の加算税が課されることになっています。さらに、場合によっては刑事責任も追及されることになっています。
「ミ二知識(21)」日本では確定申告の季節です。
中国では春節が終わりそろそろ春に向かう季節になりました。日本でも春を迎える年中行事の季節になりました。所得税、消費税そして贈与税の確定申告の季節です。
平成17年分確定申告の相談・申告書の受付は、所得税は平成18年2月16日から3月15日まで、個人事業者の消費税(及び地方消費税)は平成18年1月4日から3月31日まで、贈与税は平成18年2月1日から3月15日までになっています。また、納付期限は、それぞれの期間の末日までになっています。なお、給与所得者の方が医療費控除、住宅借入金等特別控除の適用を受ける場合などの所得税の還付申告は、1月から提出することができます。
所得税の確定申告をする必要がある方は、平成17年分の事業所得や不動産所得があり税額計算により税額のある方、給与所得者のうち収入金額が2,000万円を超える方、給与所得や退職所得以外の所得の合計所得額が20万円を超える方、公的年金等に係る雑所得があり税額計算により税額のある方などです。中国で勤務する方でも、日本の居住者に該当する方、平成17年の途中から日本の非居住者となった方、日本で貸家収入等の不動産所得がある方、日本にある土地、建物等の不動産の譲渡所得がある方などのうち、日本で確定申告が必要な方は確定申告の準備をすることになります。
また、平成17年分の消費税等の確定申告をする必要のある個人事業者の方は、基準期間(平成15年分)の課税売上高が1,000万円を超える方です。平成17年分の課税売上高が1,000万円以下であっても、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える場合には申告する必要があります。
贈与税の申告をする必要のある方は、平成17年中に贈与を受けた財産の価額の合計額が基礎控除額である110万円を超える方などとなっています。なお、暦年で贈与税の申告納税を行う方式のほか、相続時に精算する課税方式もあります。
これから日本の税務署では確定申告の相談や申告書の提出をする納税者の皆さんで盛況になります。こうした確定申告風景は中国の税務機関では見られないものです。ところで、日本の税務署では、かつては納税者に対して申告相談と申告書の作成支援をできるだけ丁寧に行うことが大切であると考え納税者の税務署訪問を推進していた時期もありました。しかし、最近ではむしろ納税者の皆さんが申告書を自分で書くことこそが申告納税制度の本旨に沿うものと考え、納税者が自力で申告書を作成すること、税務署への相談なしで申告を終えることを支援することに重点を置くようになっています。例えば、国税庁ホームページにある「申告書作成コーナー」の利用による確定申告書の作成、電子申告、電子納税などのITを活用した申告支援策はこうした考え方に沿うものと言えます。女優の仲間由紀恵さんを起用した今年の確定申告ポスターのキャッチコピーは、「HPで申告書をカンタン作成、プリントアウト。」になっています。確定申告は「自分で作って(書いて)お早めに」です。
確定申告について詳しく知りたい方は、国税庁ホームページ(http://www.nta.go.jp)をご覧ください。
(執筆者紹介)
伏 見 俊 行
(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)
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第21回「中国の税務行政の関心事項(1)」
税務執行も公平確保、国際化対応へ
今回から、税務執行に関する話題、執行当局が関心を持っている話題、特に国際課税分野の話題を中心にして取り上げていきたいと思います。
去る11月19日に開催された中国財税フォーラムにおいて中国国家税務総局の謝旭人総局長は第11次五ヵ年計画の期間(2006年〜2010年)における税務執行について「法令を厳格に遵守し、徴収すべきものは漏れなく徴収し、過大な徴収は行わず、厳格、公正、丁寧な執行を行っていく。また、税務執行については、質量と効率の両面での充実を図りながら強化を図っていくとともに、広報等の実施により納税者のコンプライアンスの向上も図っていく」ことなどを表明しています。税務当局として、法に基づき適正な執行と厳格な課税を進めるとともに、納税者への対応にも配意するという方針を示したものです。
中国の税務執行の関心事項としては、税収確保と適正・公平な税務行政の実施、そして国際化対応という点がクローズアップされていると考えられます。特に、歳入の確保は主として税務執行当局の責務であり、執行を担う国家税務総局にとっての最大の関心事項になっています。幸い、この5年間で中国の税収は2.2倍に増え、税務当局はその努力と成果について高い評価を得ていますが、今後も税収確保のために、国家税務総局として最大限の努力を払い、効果的に税収確保が図られる分野へ資源を多く投下する方向を続けるものと考えられます。執行上の具体的なターゲットとしては、主たる税収科目である増値税、営業税、企業所得税(内国企業対象)、外国企業等所得税(外資系企業対象)、個人所得税(内国人、外国人対象)が考えられますが、この中で、現在の税収ウエイトが小さい所得税関係が既に執行上のターゲットとなっており、今後とも中心的な対象となっていくものと考えられます。
また、公平の確保、国際化への対応という観点から、外国人を含む個人所得課税や外資系企業に対する課税に関心が集まっているようです。経済発展に伴う貧富の格差拡大を懸念する中国として、その是正につながる個人所得課税の強化・充実は必須の背策となっています。また、中国の税務当局は、「外資系企業は赤字が6割で十分納税していない。その主たる理由は、移転価格取引による租税回避と考えられる。外国人駐在員の個人所得税漏れも多い。課税の公平確保の観点から、外資系企業、外国人の課税の適正化を進める必要性がある。」といった認識を持っています。現実に、この数年の執行の状況を見ると、外国人を含めた個人所得課税、外資系企業の移転価格課税などが強化されていることが伺われます。
これらの話題のうち、個人所得課税一般についての強化の動き、外国人に対する個人所得課税強化の動きなどについて次回から説明し、その後移転価格課税の話題も取り上げていきたいと思います。
「ミニ知識(20)」税収不足は税務行政(執行)の責任?
第2回のコラムでも掲載しましたが、日本では「税収確保のため」という言葉は、税務当局のスローガンとして聞かれません。税収は法律に従って適正に徴収されればよく、適正な執行が行われている限り税収不足が生じても執行当局が責を問われることはありません。税は取り過ぎても取り漏れがあっても好くないという理解です。しかし、多くの国では、依然として税収の確保が課税当局に課せられた第一の責務になっている場合が多く、国によっては、税収が不足する場合、執行当局の責任が問われる場合もあるようです。
かつて税務当局の顧問として支援を行ったインドネシアでも同様の議論がありました。多くの開発途上国では、税制度は既に先進国並みになっているのですが、税務執行の面で問題があると言われています。例えば、多くの途上国ではGDP対税収比が欧米諸国に比べ低い状況になっていますが、その理由を主として税務執行の不備や執行当局の努力不足の問題として結論付け、税収増をもっぱら執行の努力に求める傾向があります。途上国において税収が十分に徴収されていない大きな理由として執行の不備の問題があることは事実であると思います。かつてインドネシア税務行政の改革(税収確保策)試案を作成する機会がありましたが、その折には税務執行の改善策を通じた税収確保策についても言及しました。しかし、執行当局の努力だけに税収確保策を求めることには限界があります。さらに、税務執行当局に税収確保を要求することは不当過大な執行を誘引する危険性もあります。また、開発途上国においては、一部の富める者や富める企業からの税収が十分には確保されていないのではないかといった疑問を聞くことがしばしばあります。こうした税の捕捉漏れの原因は執行当局の能力不足、努力不足であることは事実でしょうが、同時に制度上の改善、そして納税者自身の意識・行動の改善も考慮に入れていく必要があります。かつて日本の高度成長期に所得格差解消に大いに貢献した個人所得税や相続税といった税制の役割、さらには租税教育、広報活動などを通じた納税者コンプライアンスの向上の重要性について、途上国ではもっと認めても良いのではないかと個人的には思っています。適正な税収確保を達成するためには、税務執行だけでなく税制や納税者のコンプライアンス向上を含めた税務行政全般の改善策を常に考えていく必要があると思います。
(執筆者紹介)
伏 見 俊 行
(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)
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第20回「中国の税制見直しの方向(5)」
その他の税制の見直しの方向
今回は、財産課税、その他の税制改正の検討の動きについて説明します。
6)財産課税の検討
中国では経済発展に伴い、貧富の差の拡大が大きな問題として取り上げられています。一般には、この貧富の格差は所得格差の問題として考えられ、主として個人所得税の取扱いが話題になることが多いように思います。しかし、貧富の格差は、所得格差とともに資産格差の面からも見ることができ、この観点からその是正を図るべきであるという意見もあります。この資産に対する課税としては、資産の譲渡益に対する課税、資産の保有に対する課税、そして資産の相続に対する課税などが考えられます。
中国では、資産の譲渡益については個人所得課税や土地増値税の中で取り上げられ、資産の保有については不動産税などで取り上げられ、資産の相続については遺産税として検討が行われています。
これらのうち、中国では資産の保有に対する税負担が日本や米国などに比べて低く、こうした税負担を増し、地方の財源の確保と貧富の格差問題の対策として活用することが適当であるとする意見があります。具体的な話題として、現在の家屋税、都市土地家屋税、土地増値税などを一本化し、不動産の保有を対象にして課税を行う不動産税(物業税)を2006年から2010年に導入することを検討することを税務当局が表明しています。
なお、資産課税としては、これまで主として不動産に着目した課税に限り実施されていますが、その他の金融資産、動産に対しても注目する必要があるという意見もあります。ただし、この場合、資産の捕捉や資産評価方法の確立・充実という執行上の整備が図られることが前提であり、短期的に実施されるものではないように考えられます。
資産の相続に着目した税については、1993年の工商税制改革の中で既に遺産税という税目があり、税目としては取り込まれていますが、実際には実施されていません。2000年頃にもその実施の可能性が話題に上がりましたが現在まで実施されていません。中国財政部筋の報道によれば、第11次5ヵ年計画の期間(2006年から2010年)、遺産税は導入されないであろうとされています。これまで遺産税の実施が積極的に検討されなかった理由としては、個人資産を把握・管理する制度や執行体制が整っていないこと、遺産税導入の前提となる相続関係等についての法制が未整備であること、遺産税を否定しまた執行を難しくする中国の伝統的な考え方や慣行があること(「子孫に財産を残すこと」を美徳とする考えや資産を個人ではなく家族のものとして認識する考えなど)、国内資産・人材の海外流出が増大する可能性があること、企業意欲・勤労意欲を損ない経済発展にはマイナスの影響が考えられること、中国の主な富裕層は新興事業家等であり被相続人になるまで猶予期間があり当面実施する意義が薄いこと、有力な税収財源としてあまり期待が持てないこと、また、世界の趨勢は相続税・贈与税の廃止、縮小の方向にあることなどが挙げられています。
7)その他の税の見直しなど
(農業税の廃止)
近年、経済発展に伴い、都市と農村の経済格差の問題は深刻な問題として取り上げられています。また、都市・農村の問題は、単に経済格差の問題だけでなく、医療・年金・失業対策などの社会保障の取扱いの格差、教育・道路建設・エネルギー問題などインフラ対応の格差など、都市・農村の公的取扱いの格差という問題でも話題になっているところです。そして、公的取扱いの格差の顕著なものの一つが農業税の存在でした。農業税は耕地面積と収穫量で税額を計算する性格から、所得の低い貧しい農民でも土地があれば課税対象となるものであり、いわば人頭税に近いとまで言われてきました。そのため、農業税はこれまで農村に対する大きな負担となっていたと言われています。課税対象者は全国で8億人、税収額は年間約600億元(約900億円)となっていました。
農業分野の支援を行うため、農業税は2006年1月までに全国で廃止されることになりました。中国では4000年前の夏の時代から農民からの田租が税の中心であったと言われています。2000年前、4000年前といった明確な起源はともかくとして、中国で長い歴史を持つ税に終止符が打たれることになりました。
(燃料税の導入、環境税の検討など)
昨年10月に金人慶財政部長は「国際原油価格高騰への対策として、石油節約を奨励するために、燃料税の導入や、燃料多消費型自動車に対する消費税課税などを検討する」ことを表明しています。また、環境問題への対応も中国に求められる大きな課題の一つであり、環境問題対策を念頭に置いた税の見直しや導入の検討も進められるものと思います。その意味からも、今後資源の消費に着目した課税の強化が図られることが予想されます。
「ミ二知識R」遺産税(相続税、贈与税)の役割
遺産税(相続税)は、個人が残した遺産を対象として課税を行うものです。贈与税は、生前中の贈与により相続税逃れが行われることを防ぐことを目的として設けられた税であり、いわば相続税の補完税としての役割を持つものです。日本では、相続税は1905年に導入されています。
相続税は、本来、税収確保策としての役割より、@応能負担原則に沿い富める者に税負担を求め富の再分配を促進する機能、Aフローとして生涯納付してきた所得税の納付漏れ分を最後に残余資産というストックを確認することで精算する機能を持つことから、公平性を確保するために必要であるとの考えから実施されています。また、少子高齢化社会においては、過重な負担になりがちな現役労働世代の税負担を軽減する意味から資産を保有する高齢者に相続税による負担を求めるという理由も考えられています。一方で、企業家意欲を削ぎ経済の発展にマイナスの影響がある、相続税負担をするために資産を処分しなければならない事例も生じるなどの理由から、相続税の縮小、廃止を求める動きもあります。
現在、主要国の中では日本のほか、米国、英国、フランス、ドイツなどの主要国が相続税を課税しています。一方、カナダ、オーストラリア、イタリアには相続税がなく、米国でもその存続の見直しについて検討が行われています。相続税を持たない国々では、私有財産への侵食を否定し、自由経済での成功者の財産は尊重されるべきという考え方を支持しているものと思われます。
中国では、現在のところ遺産税の実施について否定的に考えているようですが、急速な経済発展に伴い貧富の差が拡大している状況を考えれば、富の再分配を図る方法として遺産税実施の検討は価値があると考えられます。ただし、遺産税の実施に当たっては、今回のコラム本文で記述したような種々の課題について答えを示しおく必要があるでしょう。特に、富裕資産家の資産をいかに捕捉するかという執行上の問題に対応するため、納税者情報の収集、管理などについての整備を進めていく必要があります。
(執筆者紹介)
伏 見 俊 行
(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)
(執筆協力)
楊 華(中国・中央財経大学財政・公共管理学院講師)
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第19回「中国の税制見直しの方向(4)」
個人所得税の見直しの方向
今回は、個人所得税の見直しの動きについて説明します。
5)個人所得税の見直し
最近、個人所得税の見直しが具体的に進められています。
急速な経済発展に伴い個人所得が増加し個人所得税の税収に占める割合が増加しその重要性が高まってきていること、所得格差の拡大に対し個人所得税が持つ所得格差是正効果を発揮させる必要性が認められること、長年個人所得税制の見直しが行われていないことから経済情勢の変化への対応の必要性が認められること、国際的に見て税制の多くの点が特異なものとなっていることなどの理由から、個人所得税の見直しの検討が進められているものと考えられます。
個人所得税については、今後、@月ごとの課税方法を年間ベースでの課税方法へ見直すこと(月別申告から年間申告へ)、A各種の所得区分ごとに課税計算が行われている方法を複数の所得を総合して計算する方法に見直すこと(所得別課税から総合的課税へ)、B給与所得の控除基準額を引上げること、C累進税率の構造の見直しを検討すること、D納税者の自己申告の範囲を拡大していくことなどが検討されていくものと思われます。また、執行面については、個人所得税の徴収管理を強化し、特に高額所得者を中心とした納税者管理の徹底を図っていくことが進められています。執行面での動きは既に具体的に始まっており、納税者管理の強化のための通知が去る7月に公表され、現在この通知に基づく税務執行が開始されています(この点については、後日「個人所得課税強化の動き」という記事を紹介する予定です)。
上記の今後検討が予想される個人所得税の見直しの内容は、現在の中国にとって非常に大きな改革であり影響も大きいことから、短期間にすべてを進めることは難しいものと考えられます。当面(2006年1月から)、次の点を中心として見直しが行われます。
- 給与所得の基礎控除額を現在の800元から1,600元に引上げる(これまで地域間で取扱いが異なっていた基礎控除額が全国一律の額になりました。これに伴い、外国人の基礎控除額は4,000元(800元+3,200元)から4,800元(1,600元+3,200元)に増額されます)。
- 源泉徴収義務者による申告義務に加えて一定の所得額を超える給与所得者にも別途申告義務を課す(なお、申告を要する高所得者の所得基準については、2005年12月19日付で改正された「個人所得税法実施条例」(36条)により、年間12万人民元以上の所得とされています。この規程に該当する高所得者は、源泉徴収義務者による月次の申告納税とは別に、翌年3月末までに(情報)申告を行う必要があります。)。
「ミ二知識Q」各国個人所得税比較
個人所得税は一般に次の算式により税額が決定されます。
納付税額=(収入等−必要経費・給与所得控除−所得控除)×適用税率−税額控除
このうち税負担額を決める主要因は課税ベースの大きさ(算式のカッコ部分)と適用税率の大きさです。所得課税政策を検討する場合にも、課税ベースの大きさ(主として所得控除・給与所得控除))と税率構造のあり方(累進税率(最低税率、最高税率、税率の段階数等)、各税率を適用する所得の水準)が中心的な話題となります。
主要国の課税ベースの大きさを比較すると、例えば夫婦子供2人のサラリーマン世帯で非課税となる給与収入金額(課税最低限)は、米国とイギリスが約360万円、フランスが約400万円、ドイツが約500万円、日本が325万円となっています。国税と地方税を合わせた最高税率は、米国が約47%、イギリスが40%、フランスが48.09%、ドイツが42%、日本が50%(国税は10%〜37%の4段階の累進税率)となっています。また、国民所得に占める所得課税負担の割合(地方税含む)は、米国12.1%、イギリス13.7%、フランス10.6%、ドイツ12.2%、日本6.0%となっており、所得課税全体で見た場合、現在の日本の所得課税負担はかなり低い水準になっています。
近年、日本は大幅な減税政策を続けてきたことから低い所得課税水準になっていますが、かつての日本の所得課税の状況はかなり異なったものでした。高度経済成長期の末期に当たる1974年の日本の所得税は、課税最低限は約170万円(課税ベースは広く)、最高税率は国税が75%、地方税が18%、合計すれば93%にも達するもの(10%から19段階の刻みの累進税率)でした。日本は最も貧富の差のない国の一つと言われていますが、こうしたかつての税制が所得の再配分を進め貧富の差拡大の抑止に少なからず貢献していたと考えられています。もっとも、米英両国の所得税最高税率は、レーガン政権以前(1981年)の米国は70%、サッチャー政権以前(1978年)のイギリスは83%であったことは付記しておきます。
中国は、月別課税、所得区分別課税を中心としたシステムであるなど、上記の主要各国とはシステムが異なり、また物価水準も異なりますので、単純に比較することは難しいのですが、概して言えば、課税ベースは広く、最高税率は45%とヨーロッパ諸国並みの水準になっていると言えます。ただし、所得の再配分機能が働いていた高度成長期の日本の所得税の内容に比べると、高額所得者に優遇した状況になっているという見方もできます。貧富の格差拡大を大きな問題として考えていく場合、富める者に極めて高い税負担を求めていた高度経済成長期の日本の税制も参考になるかもしれません。
(執筆者紹介)
伏 見 俊 行
(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)
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第18回 「中国の税制見直しの方向 (3)」
増値税、営業税の見直しの方向
今回は増値税をはじめとした消費(流通)税制の見直しの方向性について説明します。
2)増値税の見直し
現行の増値税は、国際的にもほとんど採用されていない「生産段階型」の付加価値税であり、企業の生産コストに算入される固定資産の仕入税額控除が認められず、固定資産の費用にかかっている増値税分は消費段階まで重複累積された課税が行われる状況になっています。このような取扱いは、最終消費者に税負担を求める付加価値税の本来の姿から言えば合理性がないことから、その見直しが検討されています。こうした流れの中で、黒竜江省、吉林省、遼寧省の3省で6業種について、2004年7月1日から試行的に増値税の固定資産仕入税額を税額控除する取扱いが実施されています。当局の説明によれば、現在までこれら3省での試行は順調に行われているとされています。
しかし、今のところ、この取扱いがいつ全国展開されるかについては示されていません。いずれは全国で実施されるものと考えられますが、税収総額の40%を超える増値税を減税する政策の影響は大きく、単に制度の合理性の観点だけで実施は決定できないようです。
そのほか、輸出物品の仕入段階で課された増値税を輸出段階で全額還付されていないという問題は長年議論されているところです。輸出物品の増値税還付の取扱いは、国内消費に対してのみ付加価値税は課されるものという国際的な考え方に適合しないものですので、今後引き続き見直しの話題とされるものと思います。ただし、この問題も税還付という財源に関わる問題ですので、単に国際的合理性という理由だけでは結論は出ないものと思われます。
3)増値税と営業税の統一
増値税は主として物の取引を対象とする付加価値税であり、営業税はサービス取引を対象とする付加価値税として考えられていますが、その線引きは難しく増値税と営業税のいずれの対象に分類されるかによって税負担が大きく異なる状況となっています。多くの企業は物の取引とサービス取引を複合して行っており、増値税と営業税を分けて課税する取扱いを理論的に説明することには難しいものがあります。まして、増値税では仕入税額控除が可能となるのに対して、営業税は仕入税額控除を認めない売上高課税であること、両税の税率が異なることから、理論上の不整合性は大きいと考えられます。
日本の消費税では物の取引もサービスの取引も消費取引から生じる付加価値に対する税として同一の計算により課税が行われています。経済取引上生じる付加価値に対して課税する増値税と営業税を統一することは中長期的には検討される課題であると考えられています。ただし、共通税として中央の財源の主要な税目となっている増値税と地方の独自歳入の中心となっている営業税を統合することは、財源配分上の調整が必要となる難しい問題でもあり、短期的に見直しが進むことは難しいかもしれません。
4)消費税の見直し
中国の消費税は、嗜好品、高級品に対する個別物品消費税です。したがって、課税対象を適切に取り扱うことにより高級品等に対する消費性向の強い富裕層に対して高い税負担を求めることができ、富の再分配効果を期待することができます。こうした公平確保の観点から消費税の役割を重視し、消費税の課税対象を拡大する検討が始められているようです。
しかし、何を嗜好品とするか、高級品とするかという判断は難しく、また経済発展の程度や時代の変遷により嗜好品や高級品としての分類も変わっていくという問題があります。かつて日本にも現在の中国の消費税に類似する「物品税」がありましたが、課税対象の範囲や税率を個々の物品ごとに定めることの難しさもあり廃止された経緯があります。中国の消費税についても、社会経済の実態に合わせて、あるいは政策的に、どの物品を課税対象とし、どれだけの税率を課すかという検討を継続的に行い、適切に課税を行っていく必要があると思います。
「ミ二知識P」中国の環境政策と環境税
近年日本を含めた世界各国で環境税の導入について議論が行われています。日本の環境省の資料によると、「深刻化する地球温暖化問題への対応のため、温室効果ガスの排出量に応じて、工場、企業、家庭などから広く税(環境税)負担を求め、これにより温室効果ガスの排出量の削減と温暖化対策の財源に活用する」ことが考えられており、その導入について検討が進められています。世界の国々の中では、ヨーロッパの多くの国が既に環境税(炭素税)を導入しています。1990年にフィンランドが初めて炭素税を導入したのに続き、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、デンマークが90年代前半に、さらに90年代後半には温室効果ガス削減推進を目指す京都議定書(温室効果ガスの排出量を先進国全体で2008年から2012年までに5.2%削減することを約束)の採択とも関連してドイツ、イタリア、イギリスでも温室効果ガス抑制を目的とした税が導入されています。
しかし、環境税は、環境対策上有効であると考えられているものの、一方で経済発展に対してマイナスの効果が考えられることから、ビジネスを優先する国や経済発展を進めている国などでは否定的に考えられているようです。ちなみに、温室ガス排出量の多い上位5カ国(2002年)は、米国(23.9%)、中国(14.5%)、ロシア(6.4%)、日本(4.9%)、インド(4.4%)となっています。
中国においても、環境問題は国政上の大きな問題の一つとして取り上げられています。現在中国では二つの基本国策が定められていますが、一つは人口抑制政策、そしてもう一つが環境保護政策です。この国策に基づき、1970年代から環境関連法体系を整備し環境政策を模索してきていると言われています。具体的な施策の一つとして、一定基準量を超える排水、排気、廃棄物、騒音などに対して費用を徴収する「排汚収費」という制度が存在します。ただし、この「排汚収費」は罰金、あるいは課徴金としての性格が強く、環境政策のために広く負担を求める環境税としての性格は薄いようです。
中国は急速な経済発展を続けており、それに伴い地球環境へ最も影響を与えている国の一つとして世界から注目されています。こうした背景もあり、中国においても環境問題への対策を念頭に置いた税の導入の検討が始められていると聞きます。中国の環境政策の一層の進展を期待したいと思います。
(執筆者紹介)
伏 見 俊 行
(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)
(執筆協力)
楊 華(中国・中央財経大学財政・公共管理学院講師)
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第17回 「中国の税制見直しの方向 (2)」
企業所得税の内外統一と外資優遇税制の縮小
今回からは、具体的な税制見直しの内容について概説していきます。今回はまず、企業所得税の内外統一の動きと外資系企業に対する優遇税制の見直しの動きについて説明します。
1)企業所得税と外国企業等所得税の統一と外国企業等に対する優遇税制の見直し
中国財政部高官は「中国政府は、改革・開放以後、外資導入の促進を目的として、中国にある外資系企業に対して企業所得税の面で超国民的待遇を与えてきた。企業所得税の平均課税率(所得に対する実際の税負担率)は内資企業が約22%であるのに対し、外資企業は約11%となっており、その差は10ポイントに及んでいる。これは非常に不公平なものである。したがって、外資系企業に対する企業所得税の税率優遇を見直し、また税制を簡素化し、内外企業に対し統一した政策を実施するとともに、中クラスのやや低い税率を適用し、その後、産業や地域別に優遇を与えるということを真剣に考慮すべき時期になった。」と説明しています。
外資企業が内国企業に比べ優遇されている具体的な内容については、財政部高官の説明によると、「内外企業所得税は税率を含め大部分の内容は類似している。ただし、所得控除項目は基準も内容も相違し、外資系企業をかなり優遇している。例えば、外資企業には給与支払を全額損金処理できるが、内資企業は最高960元(東北三省は2004年7月から1,200元まで引き上げ)までしか控除できない。優遇税制についても外資系企業に対して特に優遇している。WTO加盟に伴い、内外無差別を進めていく以上、企業所得税の統一化は必要である。改正内容のポイントは、@企業所得税の名目税率を適度に引き下げ、A所得控除項目・内容・基準を統一し、B優遇政策の適用範囲・方法・対象を適度に調整していくことである。」としています。また、「現在の優遇措置を地域的な優遇税制から産業的な優遇税制に今後は変えていく予定である。国が奨励する産業に投資する場合に投資地域に関係なく同じように優遇する措置を進めていく。外資企業についても該当する産業であれば優遇される。また、現行の外資企業への税優遇政策は縮小されるが、増値税改革などその他の優遇策が採られるため、負担が重くなることはない。優遇税制廃止の場合にも経過措置を採り、本来受けられる期間の優遇も維持されるであろう。」と説明しています。
一方、財政・税務機関とは異なり、商務部、地方政府などから外国からの投資優遇策維持を強く働きかける動きもあり、2006年実施を目途に2005年3月の全人代での検討が予定されていた内外企業所得税の見直し案は見送られました。内外企業所得税の統一は来年以降の全人代で改めて検討され、いずれ実施される方向であると見られています。
いずれにしても、将来企業所得税は統一され内国企業と外資系企業に対して同一の税制が適用され、同時に優遇税制の取扱いについても内外企業間の差別的取扱いを縮小する方向で検討が進められるものと考えられます。
「ミ二知識O」日本の税制の方向性
今後の日本の税制のあり方について、政府税制調査会がまとめた中期答申(2003年)を中心に考え方を紹介します。
1)日本では65歳以上の人口比が1965年6.3%、2000年17.3%、2025年28.7%と予想されており、英国(12.0%、15.8%、21.9%)、米国(9.5%、12.3%、18.5%)などをはるかに超え、最速で高齢化社会に向かっています。こうした待ったなしの少子高齢化社会においては、財源の確保・負担をどのように考えていくかが重要であり、@歳出の見直し、A年金制度の見直しの検討を進めるとともに、B所得、消費、資産等の間でのバランスを考えながら必要な財源を確保する方策を探っていく必要があります。
2)これまでは高齢者に対しては所得の多寡を見ないで優遇する税制となっていましたが、今後は世代間での差を作らず、負担能力に応じて公平に負担を分かち合う取り扱いにしていくことが必要です。具体的には、所得課税、相続課税、消費課税を見直していく必要が考えられます。
3)少子高齢化対応とともに、個人や企業の活力を引き出す観点から、経済・ビジネスに対して中立な税制、簡素で分かりやすい税制を基本にしつつ、構造改革を促進し、経済社会の活性化を図るための対応を考えていくことも必要であると考えられています。
最近では、所得税の地方への税源委譲をはじめとした三位一体改革、給与所得課税をはじめとした個人所得課税のあり方、消費税率の妥当性を含めた消費課税のあり方などについての議論が盛んに行われています。いずれにしても将来の少子高齢化社会を見据えて、歳出の見直しとともに、消費・所得・資産課税のバランスや国際的な状況を勘案した税制の検討が進められることは避けられないものと思います。
日本の税制改革の話題に関心のある方は、日本の財務省の税制ホームページをご覧になってはいかがでしょうか(http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/syuzei.htm)。
(執筆者紹介)
伏 見 俊 行
(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授) |
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第16回 「中国の税制見直しの方向 (1)」
改革の方向は歳入確保と公平の確保、国際化対応等へ
今回から数回、これからの中国の税制や税務行政の見通しなどに関する話題を取り上げてみます。今回は、まず税制見直しの方向性について考えていきたいと思います。
11月19日に開催された中国財税フォーラムにおいて中国国家税務総局の謝旭人総局長は第11次5ヵ年計画の期間(2006年〜2010年)での税制改革の方向性について、「現在税制改革としては、農業税関係改革、増値税輸出還付関係の改革、増値税仕入税額控除方式の改革、個人所得税の改革が進行している。5ヵ年計画の期間においても簡素な税制(簡税制)、広い課税対象を基本とする税制(寛税基)、低い税率の税制(低税率)、厳格な執行(厳征管理)を原則として税制改革、税務行政改革を検討していく。具体的には、増値税の見直し(仕入税額控除等の見直しによる転嫁型税制の実現)、消費税の課税対象の見直し、企業所得税の統一、個人所得税の見直し(所得区分別課税から総合的課税への移行検討)、資源税の見直し、燃料税の適時の導入、物業税(不動産税)を含む土地関係税制の見直しなどの検討を進める」旨説明しています。これまでも、中国税制・税務行政を巡る話題として、@内外企業所得税の統一問題、A増値税の設備投資等、固定資産仕入に関する仕入税額控除の導入問題、B個人所得税の見直し問題などが話題になっていましたが、改めて検討の方向が示されることになりました。
個人的な感想ですが、これまで中国の税制は税収の確保を最重点の目標とし、同時に外資導入のための外資優遇措置にも重点を置いたものであったと思います。現在、そして今後は、これらの基本的な方針は維持しつつ、さらに税そのものの公平の確保と国際化対応、そして税を通じた社会の公平確保というポイントにも重点を置きながら税制改革が検討されていくものと考えます。最近話題になっている税制改革の議論の多くはこうした観点から行われているものと思われます。
例えば、内外企業所得税の統一を図ること、そして同時に外資系企業に多く与えられている税制上の優遇措置を縮小することは、税の増収策に結びつくものですが、見直しの主な理由は国際化対応と内外企業の取扱いの公平確保を図るためであるとされています。
また、増値税については、固定資産の仕入税額を仕入税額控除として認める動きや輸出物品への増値税還付方法の見直しの必要性などが議論されていますが、これらは減収をもたらす施策と言えます。しかし、これらも税の国際化や公平確保の観点から検討が進められているものです。
今後の中国税制の見直しを税収確保という観点から考える場合には、所得課税の見直しによる増収策がまず頭に浮かびます。現在の中国の税制は、以前説明したように極端な流通税(間接税)中心の構造となっており、増収を考える場合には所得課税に焦点が当てられることは必然であると考えるからです。また、国際化への対応としては、増値税、営業税といった流通課税、企業所得税や個人所得税などの所得課税など多くの税制が国際的な取扱いと異なっており今後種々の検討が進められていくものと思われます。
さらに、税を通じた社会の公平確保という見地からは富の再分配を促す個人所得課税や資産課税の見直しや導入、さらに高級品に対する消費税の見直しについても検討が進められることが予想されます。所得、資産、消費といった能力に応じた公平な税負担の実現を進めながら税収確保や貧富の差の解消(富の再分配)を進めるという税制見直しの方向性については、多くの方が理屈の上では賛同されるものと思います。しかし、実際に税制を見直す場合には、国全体としての政策の問題、執行上の問題などいろいろな要因がありそう簡単にいかないのが、各国共通の状況と言えます。
次回からは現在そして将来、中国で見直しが検討されている(検討が予想される)個々の税制改革の問題に焦点を当てていきたいと思います。
「ミ二知識N」税制についての一般的な考え方
税の負担方法についての考え方としては、単純に一人当たりいくらという形で人頭割にする方法、公共サービスの受益の度合いに応じて負担を求める方法(応益課税)、受益の度合いとは別に税を負担できる能力に応じて課税するという方法(応能課税)があります。一般に、住民に密着して個別性の強い公共サービスの提供をその役割の中心としている地方自治体の税では応益性が重視され、国民一般を対象とする国税の場合には、納税者の負担能力に応じた課税が中心となる場合が多いようです。
この税負担能力(担税力)としては、次の3つの視点から検討される必要があると考えられます。いずれも負担能力を測定する方法として一理があり、現在ではこれらのバランスを考えながら税負担を求めるという考え方が一般的です。
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所得− 所得を得る力こそが負担能力を端的に示すものとし、所得の大きさで担税力を測る考え方です。収入(所得)の多い人が負担する能力が高いと見る考え方です。(個人)所得税や法人(所得)税が典型的な所得課税の税目です。
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消費− 財の流れ(フロー)の中で、所得が財のインプットの量を示すものであるのに対し、消費は財のアウトプットの量を示すものと言えます。したがって、消費の量で負担能力を測ることも合理的な方法として認められています。たくさん消費する人こそ負担能力がある人だとする考え方です。中国の増値税、営業税、消費税、日本の消費税、酒税などが典型的な消費課税の税目です。
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| B |
資産− 土地、家屋、有価証券といった資産の保有や取得も担税力の指標として考えられます。主として財のストックに着目して負担能力を測るものです。財産を持っている人が負担能力のある人だという考え方です。土地建物保有税(固定資産税)、相続税、有価証券取引税などが資産課税として考えられます。 |
租税制度の創設、改正に当たっては、税負担の方法について応益性と応能性をどのように組み合わせるか、また、所得、消費、資産のそれぞれにどの程度の税負担を求めるかが、重要な問題となります。それによって、国民の間の所得や富の分布、労働意欲などが影響を受け、社会の安定性や活力にもかかわってくることになります。
(執筆者紹介)
伏 見 俊 行
(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授) |
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第15回 「中国の税務行政の概要」
− 中国の国家税務総局は中央税(国税)、地方税双方を管理 −
今回は中国の税務行政の概要について説明します。次の図は中国の税務行政の組織全般を説明したものです。

中国の税務行政(税務執行)は、大きく分けて国税組織、地税組織、海関(関税)組織の三つの組織から構成されています。国税組織は主として中央税と共有税の徴収を、地税組織は地方税の徴収を、海関組織は関税の徴収を担当しています。また、国税、地方税の税制の企画立案は財政部と国家税務総局が共同で担当しています。
日本でも、基本的には国税は国税庁、地方税は地方自治体、関税は税関の3つの組織が徴税事務を分担していますが、中国の場合には少々異なった指示命令系統になっています。国税と地税の各省・直轄市級以下の組織はそれぞれ独立した組織になっていますが、中央レベルでは北京にある国家税務総局が国税と地税の両組織に対する指示命令系統を持っています。また、各省・直轄市級以下の地税組織は、国家税務総局とともに地方の各人民政府の強い影響を受ける組織となっています。例えば、外資導入、外資優遇政策を積極的に進めている地方政府、あるいは税収確保に熱心な地方政府の下では、税務執行もある程度の影響を受けているかもしれません。
以前説明しましたように、94年の分税制改革以前は各地方人民政府の管理下で単一の徴税組織が徴税事務を担当していましたが、分税制改革により中央の財政基盤の安定確保と財政権限の強化を図るため、地方の徴税組織は国税組織と地税組織に分割され独立した組織になった経緯があります。地税に対して国家税務総局と地方人民政府の二重監督下にある状況はこうした経緯にも由来しているものと考えられます。
上記の図の中で、北京に中央組織として国家税務総局があり、各省・直轄市級の国税局、地税局がそれぞれ32、地区・市・県・区級の国税局、地税局が3,000余り、末端の国税分局・税務所が11,000余り、地税分局・税務所が20,000余りあります。職員数は国税関係職員が470,000人余り、地税関係職員が390,000人余り、合計で86万人余りとなっています。日本の税務職員数は、国税組織が5万6,000人余り、地方税組織が8万人余り、国税・地方税合計で14万人程度となっています。これらを比べると、中国の国税・地税の組織、職員数の大きさを知ることができます。しかし、中国の人口が日本の人口の10倍以上であることを考えれば、決して多い職員数ではないかもしれません。一方で、徴税の効率性の観点から言えば、むしろ中国の税務職員は多すぎるという声もあるようです。
「ミ二知識M」日本の税務行政組織はどうなっているの?
日本の税務行政(税務執行)は、国税は国税庁、地方税は都道府県市町村といった地方自治体、関税は税関という3つの税務行政機関により行われています。職員数は、国税庁が56,000人、関税が8,500人、地方税が8万人余りとなっています。
このうち国税の徴収を担当する国税庁は、東京の霞ヶ関にある国税庁本庁、全国12の地域を分割して管轄する国税局等、そしてその下部組織として全国524の地域に分けて管轄する税務署という3層構造により構成されています。国税庁本庁では全国組織の管理監督や施策の企画立案統括と外国関係の事務を行っています。国税局等は税務署の管理監督を行うほか困難事案の処理を直接自ら実施しています。また、確定申告や一般の調査・徴収といった一般的な税務処理は税務署が担当しています。
日本の国税職員の質は高く、日本の官庁の中でも最も優秀な組織の一つとして評価されています。善良な一般納税者(国民)からは親切丁寧として高い評価を受け、一方悪質な納税者からは厳しい調査・徴収姿勢に最大限の警戒を持たれていると言われています。日本の国税行政の質の高さは世界の各国からも高い評価を受けており、多くの開発途上国から税務行政の改善に関して支援(知的支援)を求められています。そして、各国の要請に応えて、近年国税庁は積極的に開発途上国への税務行政支援を行っているところです。
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第14回「税を考える週間」
11月11日から17日は、日本では「税を考える週間」です
日本の国税庁では、毎年11月11日〜17日の間、「税を考える週間」として、納税者意識の高揚、申告納税制度の定着を図る目的で、各種の広報・広聴活動を行っています。
今年の「税を考える週間」では、「少子・高齢社会と税」をテーマとして税情報が提供されており、「消費税法の改正」、「国税電子申告・納税システム(e-tax、イータックス)」についても重点的に広報が行われています。具体的な活動としては、次のものがあります。
@国税庁ホームページでの広報
Aマスメディアによる広報
B国税モニターや地域社会の方々との意見交換
C税に関する作文の表彰
そのほか、関係民間団体による講演会や税の作品展、市民まつりへの参加出展などが地域の実情に即して全国各地で行われます。
国税庁では、1954年に納税者の声を税務行政に反映することを目的として「納税者の声を聞く月間」を設けました。その後、1956年には「納税者の声を聞く旬間」に改められ、1974年から一昨年(2003年)までは、毎年11月11日から17日までを「税を知る週間」として各種の広報活動を行ってきました。昨年(2004年)、「税を知る週間」から「税を考える週間」に名称が変わりましたが、これは税務行政を取り巻く環境も著しく変化しており、これに的確に対応するためには、税の意義、役割や税務行政の現状を国民に単に「知ってもらう」だけでなく、国民各層がより能動的に税の仕組みや目的を「考えてもらい」、国の基本となる税に対する理解を深めてもらうことが必要であると考えられたためでした。
これからの納税者は受動的な立場で税をとらえるのではなく、能動的、主体的な立場、姿勢で税を考え、税に関わるように変わっていくものと思います。また、そのような変化を期待したいとも考えます。この機会に、中国で活躍する皆さんも税について考えてみてはいかがでしょうか。取りあえず日本の国税庁のホームページを開いてみてはいかがですか
(http://www.nta.go.jp/week/h17/)。
なお、中国でも毎年4月を「全国税収宣伝月」として各種の広報宣伝等の活動を行い、税知識の普及、納税意識の啓蒙を図っています。
「ミ二知識L」日本の国税庁の対応(事務のIT化対応と納税環境の整備)
日本では、少子・高齢化をはじめとする経済社会の構造変化により、税務行政を取り巻く環境は質・量ともに厳しさを増しています。今回は、こうした状況の下、日本の国税庁が進めている対応について紹介します。以下の説明は国税庁のホームページでも見ることができます(http://www.nta.go.jp/week/h17/taiou.htm)。
申告件数が増えて、仕事の内容も難しくなっている一方で、定員は増えないため、以前と同じ税務行政を継続していくだけでは、国税庁としての職務を適正に遂行することはできない状況になっています。そのため、限られた資源を効果的・効率的に配分しながら、メリハリのある税務行政を行い、これにより十分な調査・徴収事務量を確保し、納税者のコンプライアンスの維持・向上を図り、納税者サービスにも配意していくことが重要であると考えられています。
具体的には、次の事項について広く見直しを行っています。
@ 納税環境の整備
申告者の増加に対応して、申告納税制度の趣旨に沿って納税者サービスを再構築していく必要があることから、国税庁ホームページ(http://www.nta.go.jp/)の充実などによる納税者への情報提供の拡充、国税電子申告・納税システム(e-Tax)、国税庁ホームページの「確定申告書等作成コーナー」の充実などによりITを活用した申告・納税手段の多様化、さらに、効率的な税務相談体制の構築に向けた検討を進めています。
A 内部事務の基本的見直し
税務署の内部事務については、国税庁の事務が納税者の権利・義務に直接影響を及ぼすものであることに十分配慮しながら、IT化に対応した事務の見直し(事務の統合・合理化、集中処理等)や、職員以外でも実施可能な事務のアウトソーシング化などにより、効率化、スリム化を促進していくこととしています。
B 調査・徴収の基本的見直し
納税者のコンプライアンスの維持・向上のため、税務調査や滞納整理を、更に効果的、効率的に実施していく必要があります。そこで、国際的な租税回避スキームや電子商取引などの先端分野への対応を充実させるとともに、国税組織全体を通じた調査・徴収事務の基本的な見直しを行っています。
他方、申告納税制度を支える税理士の公共的使命にかんがみ、税理士法に基づく書面添付制度の育成等に努めています。また、納税者が自己の経済活動についての税金の問題が事前に予測可能となるよう、事前照会への対応の充実や移転価格に関する事前確認制度の活用を推進しています。
C 国税職員の職場環境の整備
職員が意欲と希望を持って職務に精励できる職場環境づくりを進めています。
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第13回「中国の主な税の概要(8)(その他の税B)」
行為課税(車両船舶使用鑑札税、印花税、契税、屠殺税)
今回は、行為課税として分類されている車両船舶使用鑑札税、印花税、契税、屠殺税の4税についてまとめてみました。
日本の税としては、車両船舶使用鑑札税は自動車税、軽自動車税、自動車重量税に、印花税は印紙税に相当するものであり、契税は登録免許税の一部に類するものと言えます。屠殺税に相当する税は日本にはありませんが、行為(サービス消費)に着目した税として、日本にはゴルフ場利用税、入湯税、狩猟税などがあります。
14)車両船舶使用鑑札税(Vehicles and Vessels Use License Plate Tax)
(財源配分) 地方税 (徴収機関) 地方税務局
(納税義務者) 中国国内で車両又は船舶を所有又は使用する者
(課税対象) 中国国内で所有又は使用する車両及び船舶
(税率・課税計算)
(車両)車種別に台又はトン当たり年税額幅を設定(地方政府が幅内で決定)
(船舶)種類と等級別にトン当たり年税額を設定(全国統一)
(減免税) 特定の車両、船舶について減免税
(納付・申告) 1暦年を課税対象期間とし通常年2回に分けて納付(具体的方法は地方政府が決定) |
15)印花(紙)税(Stamp Duty)
(財源配分) 地方税 (徴収機関) 地方税務局
(納税義務者) 条例に掲げる課税対象文書の作成者
(課税対象) 条例に掲げる課税対象文書の作成(13の課税文書)
(税率・課税計算) (比例税率)文書ごとに0.1%、0.05%、0.03%、0.005%の税率
(定額税率)権利許可書等は1件ごとに5元
(減免税) 一部文書は免税
(納付・申告) 指定金額の印花(印紙)を文書に添付し消印をする |
16)契税(Deed Tax)
(財源配分) 地方税 (徴収機関) 地方税務局
(納税義務者) 家屋の販売、贈与等及び抵当権の設定による所有権移転等に係る契約の締結者
(課税対象) 家屋の売買、贈与等及び抵当権の設定による所有権移転等に係る契約の締結
(税率・課税計算) (購入)買値の6%、(贈与)市場価格の6%、(抵当権の設定)抵当権価格の3% |
17)屠殺税(Slaughter Tax)
(財源配分) 地方税 (徴収機関) 地方税務局
(納税義務者) 豚、牛、羊、馬、ロバ及びラバの購入又は解体処理を行う者
(課税対象) 課税対象の家畜の購入又は解体処理(購入段階で納税分は解体処理時に課税対象外)
(税率) (購入・解体処理)1頭当たり、豚10元、牛馬・ロバ・ラバ18元、羊2元
(自己消費)1頭当たり、豚5元、牛馬・ロバ・ラバ9元、羊1元
(課税計算) 税額=購入又は解体処理数×1頭当たりの税額
(納付・申告)所轄税務機関又は村民委員会に納付。具体的方法は市、県の税務機関が決定 |
「ミ二知識K」外国赴任者の心構え(4)
海外で働く外国人の心理的変遷についての説明の最終回です。
第六段階は、適応期です。仕事も人間関係も順調に回り出すと、任地に対し親しみや愛着が湧いてきます。いわゆるリピーター(親○派)になってきます。この国のために何かしてあげたいという積極的な意識も定着します。ここまで到達すれば海外で活動する者としては合格です。
そして、最終段階は、望郷期です。任地での適応も十分進み、仕事も達成感を持ち、任地に対する拒否的感情はなくなります。しかし、長らく離れた故郷、日本に対する望郷の念が生まれてきます。この期の望郷感は、後ろ向きのマイナス感情から生ずるものではなく、長期滞在の専門家、駐在員あるいは移住者が仕事をやり遂げた後に誰でも抱く感情であると言われています。
こうした七段階のステージが誰にでもあるということを頭に置いて海外に赴任すれば、間違いなく気が楽になるはずです。こうした心理状態の変遷は、何も海外赴任に限った話ではないように思います。国内の転勤でも、新しい仕事との遭遇でも、あるいは結婚生活にも当てはまるかもしれません。この話がお役に立てば幸いです。
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第12回「中国の主な税の概要(7)(その他の税A)」
特定目的税:都市維持建設税、土地増値税、車両購入設置税
今回は、特定目的税という分類で整理されている都市維持建設税、土地増値税、車両購入設置税の3税についてまとめてみました。
都市維持建設税は都市建設を目的とした特定目的税であり、その性質は日本の都市計画税に近いものと考えられます。しかし、その課税方法は増値税などの主要消費3税の付加税となっています。
土地増値税は土地使用権や土地に付属する不動産の譲渡により生じた利益(増値)に対して課税するものです。土地使用権等の譲渡益については個人所得税や企業所得税においても課税対象となりますので、土地増値税は土地使用権等の譲渡益に着目した重課課税と言えます。日本では、土地等の譲渡所得は主として所得税や法人税の中で取り扱われてきました。なお、日本のバブル経済時に土地政策上の目的から、土地保有に対して地価税が課税されたほか、各種の土地譲渡重課課税が所得税や法人税の中で実施されたことは記憶に新しいことです。
車両購入設置税は、車両購入登記に際して課される税で2001年に導入されたものです。日本の自動車取得税に相当するものと言えます。
以上の3税は、都市計画、土地政策、交通政策上設けられた特定目的税とされています。
11)都市維持建設税(City Maintenance and Construction Tax)
(財源配分) 地方税(銀行等の本店一括納付分は中央分)
(徴収機関) 地方税(中央分は国家税務総局)
(納税義務者) 増値税、消費税、営業税の納税義務者(外資系企業(個人)の適用なし)
(課税対象) 増値税、消費税、営業税の課税額(輸入物品については除外)
(税率) 所在地に応じ差別税率。都市:7%、県城等:5%、その他:1%。
(課税計算) 税額=(納付増値税額+納付消費税額+納付営業税額)×税率
(減免税) 増値税、消費税、営業税の減免税に準ずる
(納付・申告) 増値税、消費税、営業税の納付の際に同時に納付 |
12)土地増値税(Land Appreciation Tax)
(財源配分) 地方税 (徴収機関) 地方税務局
(納税義務者) 土地使用権等の譲渡により増値(利益)を取得する者
(課税対象) 土地使用権等の譲渡により取得する利益
(税率) 30〜60%の4段階の超過累進税率
(課税計算) 税率=増値額×税率(超過累進税方式)
増値額=譲渡収入額−譲渡原価、費用等
(減免税) 増値額が原価費用額の20%を超えない居住用普通住宅には減免税あり
(納付・申告) 譲渡契約締結日から7日以内に申告。税務機関の算定税額を定められた期間内に納付。 |
13)車両購入設置税(Vehicle Acquisition Tax)
(財源配分) 中央税 (徴収機関) 国家税務局
(納税義務者) 自動車、自動二輪車、電車、トレーラー等を購入する者
(課税対象) 自動車、自動二輪車、電車、トレーラー等の購入
(税率) 10% (課税計算) 税率=車両購入価格×税率
*車両購入価格は増値税加算前、関税、消費税加算後の価格
(納付・申告) 車両購入から60日以内に所轄の税務機関に申告納税 |
「ミ二知識J」外国赴任者の心構え(3)
前回に続き、海外で働く外国人の心理的変遷についての紹介を続けます。
外国赴任者が経験する心理的変遷の第四段階は、不満期、又は不適応期です。少し余裕が出てくると、周りが見えてきます。すると、まずこれまでの自分の経験や知識との比較が始まります。多くの場合、新任地の生活、文化、人間等々、いろいろと欠点、弱点、不都合が見えてきます。当然、かつての自分の環境が懐かしく輝いて見え、新任地に対する不満ばかりを口にし、早く日本に帰りたいという気持ちが強くなります。この状態で適応困難になり、新任務を断念する場合も多いと言われています。ただし、このステージは長くても一年だそうです。
第五段階は、諦観期です。不満期を過ぎると、新任務地の欠点、マイナスを許容できるようになります。日本との比較も冷静にできるようになり「ここは、外国だからしようがない」という気持ちを持てるようになります。けっして、積極的な順応ではありませんが、ここまで来れば危機的な段階はクリアしたと言えるようです。
初めての海外赴任者に対しては、「取りあえずこの段階に達するまで、気持ちをゆったり持って時間の経過を待て」とアドバイスすることになるのかもしれません。
あと二つの段階がありますが、次回に紹介します。
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第11回「中国の主な税の概要E(その他の税(1))」
資源や財産にかかる税、資源税・都市土地使用税・都市土地家屋税
今回からは、これまでに説明した流通税、所得税以外の主な税について紹介します。まず、今回は、資源課税、財産課税という分類で整理されている資源税、都市土地使用税、都市土地家屋税の3税についてまとめてみました。
資源税は天然資源の採掘に当たって税を課すものであり、日本の税としてば石油石炭税や鉱産税に相当するものと言えます。日本では、資源課税として揮発油の消費に対する揮発油税及び地方道路税、航空機燃料の消費に対する航空機燃料税、自動車燃料用石油ガスの消費に対する石油ガス税などがありますが、これらは資源の採掘ではなく燃料の消費に着目した税となっています。
都市土地使用税と家屋税(都市土地家屋税)は、日本の税としては固定資産税や特別土地所有税、都市計画税、地価税(現在は課税適用なし)に相当する税と言えます。
8)資源税(Resource Tax)
(財源配分) 中央税・地方税 (徴収機関) 国・地方税務局
(納税義務者) 原油、天然ガス、石炭、その他の鉱産品及び塩の採掘、生産を行う者
(課税対象) 原油、天然ガス、石炭、その他の鉱産品及び塩の採掘、生産行為
(税率) 資源ごとに従量税額幅を設定(具体的な税額は財政部等が個々の内容に応じて決定) 原油:8〜30元/トン、天然ガス:2〜15元/千立方米、石炭:0.3〜5元/トン、固体塩:10〜60元/トンなど
(課税計算) 税額=数量×単位税額 (減免税) 特定の場合、減免税措置あり
(納付・申告) (課税対象期間)毎日、3日間、5日間、10日間、15日間、1月間又は回数ごと
(申告・納付)課税対象期間が1月間の場合、期間満了後10日以内に申告納付。その他は各期間終了後5日以内に仮納付し翌月10日までに申告納付し前月分精算 |
9)都市土地使用税(Urban and Township Land Use Tax)
(財源配分) 地方税 (徴収機関) 地方税務局
(納税義務者) 課税対象地域で土地を使用する者(外資系企業(個人)の適用なし)
(課税対象) 課税対象地域での土地の使用
(税率) 面積当たりの比例税率(都市区分により1u当たり0.2〜10元までの幅税率を規定、地方政府が税率幅内で決定) 大都市は0.5〜10元、中都市は0.4〜8元、小都市は0.3〜6元、県城等は0.2〜4元
(課税計算) 税額=使用する土地面積×1u当たり税額
(減免税) 農漁業に直接使用する土地、市内道路など、特定の土地は免税
(納付・申告) 1暦年を課税対象期間とし、分割納付(具体的納付方法は地方政府が決定) |
10)家屋税(Real Estate Tax)、都市土地家屋税(Urban Real Estate Tax)
(財源配分) 地方税 (徴収機関) 地方税務局
(納税義務者) 課税対象地域にある家屋の所有者 *家屋税は国内企業(個人)に対して、都市土地家屋税は外資系企業(個人)に対して適用される。
(課税対象) 課税対象地域にある家屋の所有(具体的範囲は地方政府が決定)
(税率) (従価徴収)家屋余地の1.2%、(従賃徴収)年家賃収入の18%
(課税計算) (従価徴収) 税額=家屋余地×1.2%、家屋余地=家屋原価―控除率(原価の10〜30%)、(従賃徴収) 税額=年家賃収入×18%
(減免税) 個人所有の非営業家屋等、特定の家屋については免税
(納付・申告) 課税対象期間は1暦年で年2回に分けて納付 |
「ミ二知識I」外国赴任者の心構え(2)
海外で働く外国人は通常次の七つの心理的段階を経験すると言われています。この心理段階の変遷を知ることで、海外で生じる心理的な問題は「時間」が解決してくれるものだと分かり、精神的救済になるというものです。
第一段階は、接触前の気分高揚期です。期待に胸膨らませる時期。ああしよう、こうしようといろいろと将来プランを作り上げる時期です。
第二段階は、接触直前の不安期です。いざ本番を直前にすると、未体験の仕事や生活にいろいろと心配や不安が生じます。思わず逃げ出したくなる心境に襲われるものです。
第三段階は、移住後の初期緊張期、別名ハネムーンステージと言います。張りきっていることは事実ですが、それ以上に頭の中はパニック状態です。感情の高揚ばかりが先立ち、地に足が着いていない。思わぬ事故に遭いやすい。「あわてず、あせらず、ゆっくりと、先は長い」、というふうに心掛け行動することが必要な時期です。
第四段階以下は次回に紹介します。
(執筆者紹介)
伏 見 俊 行
(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)
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