このサイトは、ご覧いただいている皆様の声で育っていきます。 情報をお寄せ下さい。
困ったなあ | 先輩、教えて | 中国語で誤解しないように | やさしい中国税務教室 | メール相談室 | 各種リンク | PRの広場


▲「やさしい中国税務教室」バックナンバー

第40回「税を考える週間」

「少子・高齢社会と税」そして「電子申告納税」について考えてみましょう。

 日本では、毎年11月11日〜11月17日を「税を考える週間」と定め、さまざまな広報・広聴活動が行われています。今年(平成18年)も「少子・高齢社会と税」というテーマで、少子・高齢社会となっている日本の現状を踏まえて、改めて税の意義や役割について考えるための情報が国税庁や各地の税務署から提供されました。特に、今年は「国税電子申告・納税システム(e-Tax)」についても、重点的に広報が行われたところです。

 日本政府は、2001年から「e-Japan戦略」を掲げ世界最先端のIT国家作りを目指し、実際にこの5年間でインターネットの通信速度、普及率、利用料金などインターネットの環境は世界で最高水準にまで整備されました。さらに、今年1月、日本政府のIT戦略本部は「IT新改革戦略」を掲げ、世界最先端のIT国家を維持発展させ国民生活の向上と産業競争力の向上を達成すること、そして「いつでも、どこでも、だれでもITの恩恵を実感できる社会(ユビキタス社会・u-Japan)」を目指すこととしました。その具体的政策(IT構造改革力)として、@ITによる医療の構造改革、AITを駆使した環境配慮型社会、B世界に誇れる安全で安心な社会、C世界一安全な道路交通社会、D世界一便利で効率的な電子行政(政府)、EIT経営確立による企業の競争力強化、F生涯を通じた豊かな生活という7分野でのIT化推進が示されました。昨今日本の税の世界で話題になっている国税電子申告納税システム(e-Tax)は、こうした7つの重点分野の一つである電子行政(政府)を作るための主要な柱の一つとして位置づけられているものです。e-Taxは、いわば日本の将来における経済的繁栄と豊かな国民生活作りを進めるための中心的な施策の一つと言えるものです。

 e-Taxは、所得税、法人税、消費税、印紙税及び酒税の申告、全税目の納税、そして各種の申請や届出を、自宅や事務所からインターネットを使って行うものであり、納税者の利便と税務の効率をもたらすものです(http://www.e-tax.nta.go.jp/)。税務手続の電子化は、世界の多くの国で進められている動きです。中国も「金税工程」という税務のコンピュータ化戦略を進めているところです。この機会に、日本の国税電子申告納税システム(e-Tax)、そして税務のIT化についても関心を持っていただきたいと思います。

 

「ミニ知識(36)」日本の経済社会の変化と税C

 日本の経済社会の動向と税の行方をテーマにした4回目の記事です。今回は、経済社会構造変化の10のキーファクトのうち、第8、第9と第10のキー・ファクトを紹介します。

8.環境問題の増大、多様化(「環境と経済の両立」の必要性、大量生産・大量消費・大量廃棄型社会から「循環型社会」への転換の緊要性)

 第8のキー・ファクトは、環境問題の重大性に関するものです。近年、環境負荷が増大し、その多様化が進んでいます。高度経済成長期においては産業型公害が中心でしたが、その後、グローバルレベルでのオゾン層破壊や酸性雨、地球温暖化が見られ、自動車排気ガス(窒素酸化物等)や廃棄物などの都市生活型の環境負荷も顕在化してきています。今日、資源・エネルギーの制約という面もあり、大量生産・大量消費・大量廃棄型社会から「循環型社会」への転換が求められています。環境はもはやタダではなく、社会的費用を要することを認識する必要があります。こうした中で環境と経済の両立が求められ、そして、環境問題を念頭に置いた税の論議も行われています。

9.グローバル化の進行(「アジアを中心とした国際的依存関係の拡大」と「国際社会の中での日本の強み」の再確認の必要性)

 第9のキー・ファクトは、「グローバル化の進行」についてです。近年、貿易や資本取引の自由化、情報通信革命(IT化)の進展等を背景に、モノ・カネ・情報・文化等の様々な分野で国際的な動きが活発化し、世界レベルでの相互依存関係が拡大・深化してきています。日本においても、モノ・資本・ノウハウなど多面的に国際的な相互依存関係を深化・拡大させつつあります。とりわけ、アジア地域との間でその傾向が著しくなっています。また、従来から日本の強みは、「製造業のもの造り能力」やアニメなどの「ソフトパワー」にあると言われてきました。今後、世界の中における日本の強みを再確認し、日本が向かうべき道を冷静に見つめることが必要になると考えられています。そして、経済・社会の国際化の進展に伴い、税の分野での国際化対応を進めていくことは不可欠なものとなっています。

10.深刻化する財政状況(「財政の持続可能性」の要請)

 第10のキー・ファクトは、財政面での構造変化、すなわち「財政状況の深刻化」です。戦後の財政運営を見ると、高度経済成長期には、いわゆる「均衡財政」がほぼ保たれていました。しかし、いわゆる「福祉元年」(1973年)以降、社会保障関係費が急増する一方で、高度経済成長期のような税収の伸びが見られなくなりました。高度経済成長を支えた基礎的諸条件が変容した1970年代央に、財政面でも歳入歳出ギャップの顕在化という構造的変容が始まりました。1975年度に始まる特例公債の大量発行は、その象徴であると言えます。その後、財政再建に向けた取組みがなされ、バブル景気による税収増等もあいまって、1990年度には特例公債依存から脱却しました。しかし、1990年代以降、バブル経済が崩壊し、経済が長期低迷する中、財政も一転して急速な悪化への道を辿りました。累次にわたる経済対策の実施、大規模な減税や景気低迷を背景とする税収の減少、さらには、予想をはるかに上回る高齢化の進行による社会保障関係費の急増等により、財政赤字は膨張し、公債発行残高も急速に累積し、現在、日本の財政は戦後最悪の状況に陥っており、1990年代に着実に財政健全化を進めた他の主要先進国と比べ最悪の水準にあります。また、日本の国民負担率(対国民所得比)は、35.5%(2004年度)と主要先進国の中で最低水準であり、これに財政赤字を加えた国民負担率は45.1%です。この財政赤字分は、将来世代に負担を先送りし、現世代が自らの負担以上に受益していることを意味するものです。さらに、家計貯蓄率が低下する中、巨額の財政赤字が金融市場を経由して日本経済に及ぼす影響も懸念されています。このような財政の姿は、これまでの国民の選択の反映でもあると言えますが、その現状には厳しいものがあります。高度経済成長期のような税収の自然増は期待し難く、さらに、高齢化に伴い社会保障関係費が経済の伸びを上回って増大し、国民負担率が大幅に上昇するものと見込まれています。今まさに、経済社会システムを構成する重要な主体のひとつである財政の「持続可能性」が問われています。

 

(執筆者紹介)

伏 見 俊 行

(中国・中央財経大学大学院教授、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)

 

△このページのトップ

第39回「中国勤務日本人の税金問題(4)」

中国から帰国する日本人の日本での課税取扱い

中国赴任から帰国した年の取扱い(年の中途で帰国し、日本の非居住者から居住者になった者の取扱い)

 日本への帰国までの期間は日本の非居住者として扱われ、日本での課税関係は、基本的には、前々回説明したように利子、配当等の日本の国内源泉所得に対し源泉徴収課税などが行われることになります。帰国までの間に「海外勤務者の特定所得の金額」(第37回記事参照)がない場合には、帰国後の所得について日本の居住者として総合課税または源泉分離課税を受けることになります。また、給与所得のみの場合には、帰国後の年末に行われる年末調整により課税関係は完了します。

 帰国までの間に「海外勤務者の特定所得の金額」があり、その金額と帰国後12月31日までに日本の居住者として総合課税を受けるすべての所得のうち給与所得以外の所得とを合計した金額が20万円を超える場合には、翌年2月16日から3月15日までの間に帰国後の住所地を所轄する税務署に確定申告をする必要があります。また、帰国から12月31日までの給与総額が2,000万円を超える場合、及び2箇所以上から給与の支給を受けている場合にも、確定申告を行う必要があります。

 この場合、医療費、社会保険料、小規模企業共済等掛金、生命保険料又は損害保険料の各控除の額は、日本の居住者となった期間内に支払った金額を基として計算します。外国の社会保険料及び外国の保険会社と外国で契約した生命保険料や損害保険料は控除の対象となりません。配偶者、扶養親族、障害者、寡婦(夫)または勤労学生の各控除の額は、その年の12月31日の現況により判定し計算します。雑損控除については、居住者期間及び非居住者期間に生じた損失の金額や所得金額を通算してその年分の控除額を計算します。外国税額控除については非居住者期間内に生じた所得はないものとして計算します。

確定申告の対象となる所得 = (海外勤務期間)海外勤務者の特定所得の金額
                   +(国内勤務期間)総合課税の対象となる所得の金額

 なお、海外から帰国した日本人は、通常帰国と同時に国内に住所を有し居住者となることから、帰国後に支払われる給料等はその全額が居住者の受け取る給与所得として日本で課税されます。この場合には、帰国後に支給を受ける給料等の計算期間に国外勤務の期間がある場合でも、支給される給料等は全額居住者の所得として計算します。出国した場合の取扱いと異なり、国内源泉所得算出のための日数按分を行う必要はありません。

 

「ミニ知識(35)」日本の経済社会の変化と税A

 日本の経済社会の動向と税の行方をテーマにした3回目の記事です。今回は、経済社会構造変化の第5、第6、第7のキー・ファクトを紹介します。

5.価値観・ライフスタイルの多様化・多重化(画一・集団・未来志向から多様・個人・現在志向へ)

 第5のキー・ファクトは、日本人の価値観・ライフスタイルの変化です。日本人の価値観の構造については、高度経済成長期までは、画一的・集団主義的な傾向が強いものでしたが、1980年代頃から、集団よりも自分を重視する価値観が次第に強まり、価値観の多様化が進んできています。さらに近年では、一個人の中において一見矛盾するような様々な価値観が同居する傾向が見られます。これが「価値観の多重化」です。「多重化」している日本人の価値観を構成する要素を見ると、まず、「自分のライフスタイルや個性を重視した選択をしたい」という「選択の自由」志向が高まっています。また、近年では、高度経済成長期に見られた「未来志向(将来に備える)」が後退し、「現在志向(毎日の生活を充実して楽しむ)」へと大きくシフトしています。また、家族や職場、地域社会における人間関係が希薄化し、他方で、インターネット等を媒介に、自分の居場所の再発見として知人・友人、コミュニティ等との間のコミュニケーションが増加し、新たな緩やかなネットワークが広がりつつあるとも言われています。

6.社会や「公共」に対する意識の変化(「民が担う公共」の重要性、国際交流は民が主役)

 第6のキー・ファクトは、社会と「公共」との関わり方についての意識に関するものです。日本人の社会意識に関する調査によれば、「何か社会のために役立ちたい」という「社会貢献」に関する意識が高まってきているとされています。すなわち、 近年では、ボランティア活動など「民間が担う公共」の領域における活動が広がりを見せてきているということです。民と官の関係については、以下のような分析があります。これまで日本では、「公共」の担い手は「政府(官)」と結び付けられ、「民間」=「私」と併せて、いわゆる「公私二元論」が支配的でした。しかし、現実の社会においては、「政府が担う公共」とは異なるもう一つの「公共」、すなわち市民活動から企業の社会的責任に至るまでの「民間が担う公共」というべき領域が存在します。そして、社会の多様化が著しい中、様々な社会の問題に柔軟に対応していくためには、「政府が担う公共」はもとより「民間が担う公共」に個人が主体的に参加していくことが求められています。

 実はこの点が国際交流の観点でも重要なポイントとなってきています。国際関係は、国、政府の役割と誤解している人が多いと思いますが、実は国際交流の中心は民間の交流であるとする意見を聞くことがあります。人の交流、文化・スポーツの交流そして経済の交流など、その主役は民間であるということです。これは歴史的に見ても正しく、さらに通信交通の発達した今日将来ではなおさらになります。真の円滑な国際交流の成否は、民間交流が円滑かどうかというポイントにあります。政府や政治の役割は民間の交流がスムーズに進む環境を作ること、最低限民間の活動の妨げとならないようにすることであるという意見を聞くこともあります。民間のパワーは大きく、この点さえ確保されれば国際交流は自由に拡大していくものであるという見方です。今日の日中間の関係を表す言葉として「政冷経熱」という言葉をしばしば聞きます。日中交流のあり方、民と官の役割を考えるとき、今後の国際交流の在り方に関する上記の考え方も参考になるかもしれません。

7.分配面での変化の兆し(「結果の均等」期待から「機会の平等」志向へ)

 第7のキー・ファクトは、分配構造の変化の兆候、すなわち、高度経済成長期を通じて進んだ社会の「均質化」や「流動化」の動きが、近年、鈍化してきているのではないかという点です。日本の分配構造は、国際比較で見れば、基本的に、高い経済水準の下で相対的に格差の小さい均質的なものとなっていました。こうした中で、所得の不平等度を表す「ジニ係数」の動きを見ると、高度経済成長期を通じて低下傾向にあったものが、1980年頃を境に横ばいないし徐々に上昇する傾向が見られます。この背景には、所得分配のバラツキが相対的に大きい高齢者世帯の増加等があります。さらに、収入階層別の階層帰属意識を見ると、高度経済成長期末には、収入レベルの上下を問わず帰属階層意識が「中の下」で一致していました(「一億総中流意識」の醸成)。しかし、近年では、上位の収入階層とその他の収入階層との間で帰属階層意識が二分化するようになっています。「一億総中流意識」がゆらぎ始めたように見受けられます。また、現在の日本人の平等に関する意識調査を見ると、年齢、職業、収入等によってバラツキは見られるものの、「機会の平等」を比較的強く志向する傾向が一般に見られます。そして、努力が必ずしも評価されるとは限らないという意識はあるものの、基本的には「努力した人が報われること」に対する支持が高くなっています。また、「結果の平等」に対する意識としては、行き過ぎた「結果の不平等」に対して懐疑的である一方で、行き過ぎた「結果の平等」に対しても否定的に捉える意識を観察することができます。

(執筆者紹介)

伏 見 俊 行

(中国・中央財経大学大学院教授、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)

 

△このページのトップ

第38回「中国勤務日本人の税金問題(3)」

中国へ赴任する日本人の日本での課税取扱い

海外赴任した年の取扱い(年の中途で出国し、日本の居住者から非居住者になった者の取扱い)

 1年を超えて海外勤務することを予定して海外赴任する者(非居住者になる者)は、出国時点までは日本の居住者として、出国時点までに総合課税を受けるすべての所得(利子、配当等の源泉分離課税の対象となるもの以外の所得)を合計し、出国時点で確定申告が必要になります。出国した年の1月1日から出国の日までの間に支給期の到来する所得が給与所得のみの場合には、出国の時点で年末調整を行いその年の税額の精算を行う必要があります。なお、1月1日から出国までの給与総額が2,000万円を超える場合、及び2箇所以上から給与の支給を受けている場合には、確定申告が必要になります。

 出国以後は日本の非居住者となり、基本的には利子、配当など日本の国内源泉所得について日本で源泉分離課税が行われることは、前回説明したとおりです。また「海外勤務者の特定所得」があり、この所得金額と居住者の時に総合課税を受ける所得のうち給与所得以外の所得の金額を合計した金額がその年1年間合計で20万円を超える場合には、翌年2月16日から3月15日までに確定申告が必要になります。

 以上により確定申告が必要な場合、医療費、社会保険料、小規模企業共済等掛金、生命保険料又は損害保険料の各控除の額は、日本の居住者となった期間内に支払った金額を基として計算します。外国の社会保険料及び外国の保険会社と外国で契約した生命保険料や損害保険料は控除の対象となりません。配偶者、扶養親族、障害者、寡婦(夫)または勤労学生の各控除の額は、海外勤務者が納税管理人の届出を行い居住者でなくなった場合にはその年の12月31日の現況により、納税管理人の届出を行わず居住者でなくなった場合には、出国の際の現況により判定し計算します。雑損控除については、居住者期間及び非居住者期間に生じた損失の金額や所得金額を通算してその年分の控除額を計算します。外国税額控除については非居住者期間内に生じた所得はないものとして計算します。

確定申告の対象となる所得 = (国内勤務期間)総合課税の対象となる所得の金額
                  +(海外勤務期間)海外勤務者の特定所得の金額

 なお、非居住者となった日以後に支給期の到来する給与、賞与については、国内勤務に基因する部分の給料、賞与については国内源泉所得として日本での課税対象となります。ただし、支払われる給料等が1か月以下の期間を計算対象とし、給料等のうちの一部分だけが国内源泉所得に該当するものである場合には、国内源泉所得はないものとして取り扱われます。したがって、出国後最初に支払う給料等が月給であり、国外国内双方の勤務に基因するものである場合には日本での課税は必要ないものとされています。一方、1ヶ月を超えた期間を計算期間とする賞与については、原則どおり日数按分により国内勤務に基因する部分を計算し、日本で課税を行う必要があります。

(原則的な計算方式)国内源泉所得=給料、賞与の総額×(国内での勤務期間/その総額の計算の基礎となった期間)

 

「ミニ知識(34)」日本の経済社会の変化と税A

 日本の経済社会の動向と税の行方をテーマにした2回目の記事です。今回は、経済社会構造変化の第2、第3、第4のキー・ファクトを紹介します。

2.「右肩上がり経済」の終焉(量的拡大から質重視の経済・社会へ)

 第2のキー・ファクトは、高度経済成長を支えてきた基礎的条件(ファンダメンタルズ)が消滅し、いわゆる「右肩上がり経済」が終焉したということです。戦後の日本経済は、1970年代央までの高度経済成長時代から、その後の安定成長時代、さらにはバブル発生・崩壊を経て低成長時代へと推移してきました。もはや高度経済成長期のような大幅な「量的拡大」は期待できない状況となっています。そして、税制の観点から言えば、高度経済成長期のような右肩上がりの自然増収はなかなか期待できない状況になりました。こうした中で財源を確保していくためには景気の動向に影響される所得課税中心の体制から、消費課税や資産課税のバランスも考慮に入れた税制への検討が進められたわけです。また、社会経済の活力を維持、確保していくために税をどのように考えていくかという課題も考えられます。

3.家族のかたちの多様化(「カゾク離れ」と「個人化」の進行)

 高度経済成長期以降、急激に家族の態様(「かたち」)やその機能が変容しつつあります。家族のかたちの変化を見ると、戦後から高度経済成長期を通じて、「三世代同居世帯」から「核家族世帯」へとウェイトが移ってきました。しかし、近年では、未婚化・晩婚化・長寿化の進行等に伴って更に世帯規模が縮小し、「夫婦と子供のみの世帯」の割合が減少する一方、「単独世帯」の割合が上昇しています。「子供のいない世帯」(夫婦のみ世帯や高齢者を含む単独世帯)の増加も顕著です。近年、家族への帰属意識が希薄化しつつあり(「個人化」の進行)、家族の繋がりとしては緩やかなものを求める傾向(「カゾク離れ」)が見られるようになってきています。また、長寿化に伴い、婚姻期間や子育て終了後の期間が長期化してきていることも、家族のあり方や個人の生き方に影響を与えています。今まさに、戦後家族モデルを前提とした既存の諸制度が揺さぶられ、家族のあり方が改めて問われていると言えます。

4.「日本型雇用慣行」のゆらぎと、働き方の多様化(「カイシャ離れ」と「個人化」の進行)

 近年、日本人にとっての「カイシャ」と個人との関係が急速に変容しつつあります。いわゆる「日本型雇用慣行」は、「正社員中心の長期継続雇用、年功序列賃金、フリンジベネフィット(企業内福祉)等」を特徴とし、従業員に対して生活給や雇用を長期的に保障する一方で、企業への忠誠心を求める雇用形態です。この雇用慣行が日本の高度成長を支える大きな役割を果たしたと言われています。しかし、経済成長が鈍化し高齢化が進む中で、次第に「日本型雇用慣行」を維持することが難しいとする企業も現れ、特に1990年代後半以降、これまでの人材マネジメントを転換し、非正規雇用の活用や成果主義・能力給賃金という考え方を取り入れる動きも強くなってきています。実際、正規雇用者の割合が大幅に低下する一方で、パート・派遣労働者・業務委託者等の非正規雇用者の割合が急上昇するなど、雇用形態の多様化が進んでいます。他方、従業員(個人)の「カイシャ」に対する帰属意識は希薄化し、専門性や特技を活かせる仕事を志向する者が増加しています。仲間と楽しく働ける仕事を求める者が増え、仕事一辺倒から余暇に比重を置く傾向が強くなってきています。「カイシャ離れ」、「個人化」の進行です。「日本型雇用慣行」のゆらぎとあいまって、カイシャを通じた雇用・生活保障機能が低下するなど、個人にとって生活上の不確実性、「リスク」も高まっています。また、若年者層を中心に、雇用環境の厳しさや職業観の変化等を反映して、いわゆる「フリーター」や「ニート」が急増しています。さらには、学卒後における高い早期離職率、無業の若者の増加傾向が続いています。今後の経済社会の諸制度のあり方を考えるにあたっては、そのような変化がもたらす格差拡大と階層化の可能性についても留意が必要になってきています。

(執筆者紹介)

伏 見 俊 行

(中国・中央財経大学大学院教授、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)

 

△このページのトップ

第37回「中国勤務日本人の税金問題(2)」

年を通して中国で勤務する日本人の日本での課税取扱い

 中国に勤務する日本人の日本での課税の取扱いについて、中国で1年を通して勤務している期間、中国での勤務を開始した年、そして中国での勤務を終え日本に帰国する年の3つの態様に分けて説明していきます。今回は、中国で1年を通して勤務している期間、すなわち日本の非居住者として扱われる場合の日本での課税の取扱いについてです。

 

赴任翌年以降で1年を通して中国勤務する場合(年を通して日本の非居住者の取扱い)

 中国に勤務し中国の居住者(日本の非居住者)となる日本人は、次のような所得が日本で生じた場合、その支払の際にカッコ書のとおり源泉徴収課税が行われます。そして、国内に事務所等を持たない大部分の海外勤務者については、源泉徴収課税で課税関係は完了し確定申告は必要ありません。なお、事業所得については、日本に恒久的施設がない限り日本では非課税であり、居住地国である中国で課税されることになります。

(1)利子等(税率15%(日中租税条約の制限税率適用の届出を提出した場合には10%))

(2)配当等(税率20%等(日中租税条約の制限税率適用の届出を提出した場合には10%))

(3)国内源泉所得に該当する給与その他人的役務の提供に対する報酬等(税率20%)

(4)日本国内にある土地等の不動産の譲渡による対価(税率10%(譲渡対価が1億円以下で自己等の居住の用のために譲り受けたものは源泉徴収不要)、確定申告により税額を精算(下記「ただし書」以下参照))

(5)不動産の賃貸料等(税率20%(支払者が個人で自己等の居住の用のために賃借するものは源泉徴収不要)、確定申告により税額を精算(下記「ただし書」以下参照))

 ただし、次に掲げる所得(海外勤務者の特定所得)があり、その所得金額がその年1年間合計で38万円(基礎控除)を超える場合には、翌年2月16日から3月15日までに確定申告が必要になります。

@ 国内にある資産の運用、保有又は譲渡による所得

A 国内に事業所等を有して事業を行いその事業所等に基因する事業所得その他の国内源泉所得

B 国内にある不動産の賃貸料による所得

 確定申告に当たり適用される所得控除は、基礎控除、雑損控除及び寄付金控除に限られ、配偶者控除、扶養控除等のその他の控除は適用されません。

 なお、国内にある不動産の賃貸料等の「海外勤務者の特定所得の金額」が基礎控除額以下の場合でも、その支払の際に20%の税率で源泉徴収された税額の還付を受けるために、確定申告をすることができます。

 

「ミニ知識(33)」日本の経済社会の変化と税@

 税制は、経済社会を支える重要なインフラストラクチャー(基盤)の一つであり、同時にその時々の経済社会構造を基礎として作られるものであり、経済社会を映し出す鏡であると考えられています。税制の将来を考えていく場合には、まず経済社会の実情を理解し、その上で税制のあり方を考えていく必要があります。近年、日本の政府税制調査会では、新たな社会に相応しい税制、「あるべき税制」の検討を進めていくため日本の経済社会の構造変化の状況を分析し、「あるべき税制の構築に向けた基本方針」(2002年6月)及び「少子・高齢社会における税制のあり方」(2003年6月)をとりまとめてきました。

 今回からしばらくの間、近年の日本の経済社会の動向をこれらの報告書を中心として整理し、日本の経済社会の構造変化を見つめながら今後の税制の行方を考えていきたいと思います。こうした分析は、中国をはじめとした世界各国の経済社会の動向や税制の行方を考える際にも参考になると思います。税制調査会報告書では、日本の経済社会の構造変化を10のキー・ファクトとしてまとめ、将来の税制の在り方について問題提起をしています。今回はまず第1のキー・ファクトを紹介します。

1.今世紀の日本は「人口減少社会・超高齢社会」(「少子・高齢社会」の進行)

 日本の経済社会の構造変化の第1のキー・ファクトは、今世紀の日本が「人口減少社会」と同時に「超高齢社会」になるということです。

 今世紀の日本は、「人口増加社会」であった20世紀とは異なり、一転して「人口減少社会」に突入し、現実に2005年では日本の人口は減少に転じました。出生率は、1970年代半ば以降、急激な晩婚化、未婚化、結婚・出産・育児をめぐる費用や精神面での負担感の増加などを背景に2.0を下回り、一貫して低下してきています。このような長期的な少子化傾向を反映し、わが国の人口は2004年をピークにして、今世紀中に約6,300万人減少して、今世紀末には6,414万人までに半減する見通しになっています。

 また、「少子化」とともに「長寿化(平均寿命の上昇)」が同時進行し、今世紀半ばには、3人に1人が高齢者である「超高齢社会」となる見通しです。そして、2030年代前半以降には働き世代の3人が高齢者世代の2人以上を扶養する状態になる見込みです。これは、社会的な扶養力が急速に弱まっていくことを意味しています。

 以上のような人口面での構造変化は、家族や個人のライフスタイルのみならず、経済社会の諸制度に至るまで、構造的な変容を迫ることになり、当然のことながら税負担の在り方など、税制のあり方にも大きな影響を与えるものと言えます。多数の高齢者世代を養うために少数となる労働者世代に高額の所得課税の負担を求めることが可能かどうか、高齢者世代にも消費課税や資産課税を通じて相当の負担を求める必要はないかなど、種々の議論が必要になります。

 実は、中国も一人っ子政策の結果急速に少子・高齢社会に突入しつつあります。今後日本と同様に税制のあり方に関する議論が求められることになると思います。

 

(執筆者紹介)

伏 見 俊 行

(中国・中央財経大学大学院教授、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)

 

△このページのトップ

第36回「中国滞在日本人の税金問題(1)」

概要(居住者・非居住者の課税の原則)

  中国に滞在する日本人は、どのような場合税負担をする必要があるのでしょうか。おそらく皆さんは、給与所得がある場合、利子・配当を受けた場合、事業所得を得た場合などを想像するものと思います。実は税の負担は自分が所得を得た場合だけではありません。皆さんは日頃の買い物、飲酒、喫煙等を通じて、増値税、消費税などの流通税を中国で負担しているのです。自分では税を負担していると実感していない場合でも、その国に滞在しているときには通常、その国の税財政に多少なりとも貢献しているわけです。もっとも、中国では増値税や消費税といった流通税は消費者ではなく実際に税を税務機関に納付する企業等が負担していると考えられる場合が多いようです。税の性質から言えばこれば過ちです。本来、流通税(間接税)は、生産者から流通業者、最終消費者へと税負担が転嫁されていくものであり、税の負担者は最終消費者であるはずです。生産者、流通業者は最終消費者に代わって税務機関への納税事務を負担していると考えるべきでしょう。中国での認識は、流通税は適切に最終消費者まで転嫁されるべきであるという考え方が十分に浸透していないことの表れかもしれません。

  ところで、中国で活躍する皆さんにとっての税に関する第一の関心事項は、個人の所得税がどのように取り扱われるかという問題であるかもしれません。中国にいる日本人が何らかの形で中国または日本で個人所得がある場合には、基本的には@中国のみで納税、A日本のみで納税、B中国と日本と双方で納税のいずれかの態様で中国または日本で納税を行う必要があります。

  そして、国際ルール一般によって説明すると、個人がどこの国の居住者であるか非居住者であるかによって課税関係が変わってきます。個人所得課税の取扱いについては、個人の国籍がどの国であるかは関係がないことに留意する必要があります。大雑把に言えば、ある国の居住者とされる場合には、その国で発生した所得だけでなく世界で発生した所得のすべてについて居住地国で納税することになります。一方、非居住者とされる場合には、その国に源泉がある所得のみについて所得の源泉地国で納税することになります。居住地国と源泉地国で二重に課税される場合には、その二重課税が回避されるための取扱いが二国間の租税条約や各国の国内法で定められています。

  このように、個人の国際的な所得課税の取扱いを考えていく場合には、@その個人が居住者・非居住者として判定される基準、定義が各国でどのようになっているか、またA発生する所得の態様に応じて居住地国、非居住地国がどのような課税の取扱いをするか、といった点を見ていく必要があります。

 

「ミニ知識(32)」脱税に対する罰則・国際比較

  一般に申告漏れなどにより追加課税が行われる場合には、納付漏れとなった納税額のほか、加算税(ペナルティ)と延滞税(納付遅延に対する利息負担)が課されることになります。脱税といった意図的で悪質な不正行為でない場合には、こうした金銭の追加負担だけで済みます。例えば、日本では、申告漏れ額に対して、加算税は5%〜40%、延滞税は年率4.1%が課されます。また、中国では、同じく加算税が50%〜500%、延滞金が年率18.25%課されることになります。

  しかし、悪意を持って税を逃れていると認定された場合には、世界の多くの国が厳しい刑罰等を課す制度を導入しています。多くの国では概ね5年以下の実刑と500万円以下程度の罰金を併せて課しています。主要国の脱税等に対する罰則は次のようになっています。

日本:5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金(脱税額が500万円超の場合は、その相当額)又はその併科

アメリカ:[個人]5年以下の禁錮若しくは10万ドル(1,150万円)以下の罰金、又はその併科、[法人]5年以下の禁錮若しくは50万ドル(5,750万円)以下の罰金、又はその併科

イギリス:[虚偽申告書の提出等により税を免れた場合]2年以下の拘禁刑若しくは罰金(上限なし)又はその併科、[この場合で、調査過程で宣誓の上虚偽の証拠の提出等があったとき]7年以下の拘禁刑 若しくは罰金(上限なし)又はその併科

ドイツ:5年以下(悪質な場合は、6か月以上10年以下)の懲役・禁錮若しくは5ユーロ(660円)以上180万ユーロ(2億3,760万円)以下の罰金又はその併科

フランス:次の禁錮及び罰金の併科、5年以下(5年以内の再犯の場合は、10年以下)の禁錮、37,500ユーロ(495万円)以下(悪質な場合は、75,000ユーロ(990万円)以下、5年以内の再犯の場合は、10万ユーロ(1,320万円)以下)の罰金

中国:脱税行為、増値税専用伝票に関する不正、税務執行の妨害等に対しては、脱税額及び行為の悪質度合に応じて罰金及び懲役刑等、重い刑罰が適用されます。特に、増値税専用伝票の偽造やそれに伴う不正還付については、国家財産の横領行為そのものであり、納税者自身の納税額を隠匿する脱税より一層重い犯罪として考えられているようであり、厳しい刑罰が規定されています。そして国家に与える損害が重大である場合には、死刑、無期懲役刑も規定されています。ちなみに、第一財経日報の報道(06.5.8)によると、94年以降現在までに200人余りに対して死刑判決が出され、このうち100人余りに対して死刑が執行されているとされています。

 

(執筆者紹介)

伏 見 俊 行

(中国・中央財経大学大学院教授、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)

 

△このページのトップ

 

第35回「中国の主な脱税事件の概要」

増値税を中心とした脱税事件9件を公表

 4月20日、中国国家税務総局は9つの脱税事件(税に係る違法事件)等について調査・処罰の状況を公表しました。公表された事件は、虚偽発行された増値税専用領収証等を利用して増値税を不正還付したものが中心となっています。以下では、公表された9事件のうち3事件の概要を紹介します。

 なお、脱税事件関係で死刑判決が出されていること、公訴された脱税事件以外の課税事案についても個別企業名が公表されていることなど、日本ではない取扱いが注目されます。

 

1.黒龍江省、天津市、河北省の一連の領収証の虚偽発行事件

(1)2004年7月国家税務総局の直接の指揮の下、黒龍江省、天津市及び河北省の3省市の税務機関が
  関連する企業の調査を行った事件。
  黒龍江省の39の企業が、架空登録した廃棄物(不用品・中古品)取引企業を通じて、廃棄物売上領収
  証(偽の領収証を含む)11,248綴り、税額8.1億元分を虚偽発行。天津市の91の企業及び河北省の91の
  企業は、黒龍江省で虚偽発行された領収証を利用し、天津市の企業が4.63億元、河北省の企業が
  2.84億元のそれぞれ増値税の不正還付を取得。また、このうち天津市の企業20社及び河北省の企業
  54社は更に外部に増値税専用領収証を虚偽発行。

(2)追徴税額12億3,900万元、罰金4億8,900万元、計17億2,800億元

(3)公安機関へ引き継がれた企業236社、容疑者67名逮捕、刑罰22名(内死刑1名、死刑(執行猶予2年
  付)3名、無期懲役1名)

 

2.山西省、河南省の領収証の虚偽発行脱税事件

(1) 2005年4月山西省の税務機関及び公安機関が連合で調査・処罰した事件。山西宇進鋳造精錬公司
  と山西宇普鋼鉄公司が虚偽発行された廃棄物売上領収証を利用して増値税を脱税。
  河南任和グループに所属している2社は、2002年1月から2005年3月の間、当地の鉄工場の鋳鉄、溶
  解した銑鉄等の製品を低価格で購入し、原材料を廃棄物(処理費)という科目に変更して記帳するとと
  もに、山東、陜西、河南省等7省の20の廃棄物回収企業が虚偽発行した領収証12,741綴りを利用して
  増値税2.25億元の還付を不正に取得。また、二重帳簿の設置及び売上収入の隠蔽により増値税2.45
  億元、その他の地方税4,701万元を脱税。このほか、河南省の税務機関は、河南任和グループの5つ
  の関連会社についても調査を実施し、売上収入の隠蔽により、増値税9,208万元、企業所得税927万
  元、その他の地方税1,332万元を脱税していた事実を把握。

(2) 追徴税額6.31億元、罰金1.4億元、滞納金3.82億元、計11.53億元

(3) 公安機関は容疑者25名を逮捕起訴

 

3.湖南省の長沙三兆実業開発有限公司の移転価格課税事件

(1) 湖南省国家税務局と地方税務局は不動産開発を行う中国と外国の合資企業である長沙三兆実業開
  発有限公司に対して税務調査を実施。調査の結果、長沙三兆実業開発有限公司は2001年1月から
  2004年12月までの期間、関連企業間取引価格の操作を行うなどにより2.28億元の申告納税漏れが
  あったことが判明(移転価格課税)。

(2) 追徴税額2.28億元

 

* 他の事件の概要等については、中国国家税務総局ホームページを参照してください。

 

「ミニ知識(31)」日本のマルサ(査察調査)の状況は

 日本には、国税庁の中に脱税事件捜査のための組織(査察部門)があり、「査察調査」を行っています。かつて有名になった映画「マルサの女」の舞台です。元々この「査察(調査)部門」のことを日本の国税庁内では「マルサ」という隠語で呼んでいたのですが、映画のヒット以来この言葉は周知の言葉になったわけです。

 査察部門では1年間に200件以上を課税し、このうち100件以上を脱税犯として地方検察庁に告発しています。2004年度中(2004年4月〜2005年3月)には、査察事案として210件に着手し、152件を検察庁に告発しました。そして、2004年度中に処理した事件の脱税額は総額で282億円(うち告発分は247億円)でした。告発した事件1件当たりの脱税額は1億6,200万円ということになります。判決(一審)が出た事件のうち、執行猶予のつかない実刑判決を受けた事件は11件、1人当たりの平均懲役期間は15.3か月になっています。ちなみに、日本では、脱税に対しては5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金(脱税額が500万円超の場合は、その相当額)又はその併科が課されることになります。

 告発件数が多かった業種としては、飲食良品小売業(11件)、機械器具小売業(8件)、パチンコ(8件)、医療業(8件)、キャバレー・飲食店(7件)、建設業(5件)となっています。

(脱税の手段・方法等)

 国税庁では、脱税の手段・方法等について次のように説明しています。「脱税の手口としては、飲食料品小売業及び機械器具小売業では架空原価や架空人件費の計上、パチンコ、キャバレー・飲食店及び建設業では売上除外、医療業では、売上除外あるいは架空経費の計上が多く見られました。また、グループ法人による脱税や、海外取引に関連した脱税なども見受けられました。脱税によって得た利益の多くは、現金、預貯金、割引債券及び不動産等で留保されていたほか、貴金属等の購入、あるいは関係会社等への貸付金に充てられているものも見受けられました。脱税により取得した簿外資産や脱税工作に用いた重要物件の隠匿場所は様々でしたが、居宅洗面所の鏡の裏側の壁を切り抜き、その内側に現金及び株券を隠匿していた事例、居宅洋間のクローゼット内に設置された衣類吊り下げ用の金属パイプの中に、ビニールで包んだ親族名義の貸金庫の鍵を隠匿していた事例、居宅台所の冷蔵庫のチルド室内の製氷皿の中に、多額の現金が収納された知人名義のトランクルームの鍵が隠匿されていた事例などがありました。また、着衣のポケット内に、重要記録が保存された小型のメモリーカードを隠匿していた事例も見受けられました。」

 読者の皆さんには、脱税は金銭的負担(脱税額、行政罰としての加算税のほか刑罰としての罰金が課される)、懲役、社会的信用の失墜といった大きな見返りがあることを知っていただきたいと思います。この機会に、脱税行為(そして不正を働く者)を厳しく糾弾する気持ちと、適正な申告納税を遵守する気持ち(コンプライアンス)を持っていただきたいと思います。今回の記事を自らの脱税行為の参考とするようなことが決してないことを願います。

 

(執筆者紹介)

伏 見 俊 行

(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)

(執筆協力)

加 藤 正 人

 

△このページのトップ

 

第34回「中国国家税務総局・税務調査の状況を公表」

中国・引き続き税務調査を厳格に、積極的に推進する方針

 4月20日中国国家税務総局は、9つの脱税案件(税に係る違法案件)について調査・処罰の状況を公表しました。脱税案件の公表に当たり、同総局の崔俊慧副局長は、脱税案件公表の効果、2005年における調査状況及び脱税案件の特徴、並びに2006年における調査の方針について説明しています。今回はその説明の概要を紹介します。脱税事案の概要については次回紹介することにします。

(脱税案件公表の効果)

 脱税案件を公表する意義、効果について次の点を挙げています。

  • 税に関連する犯罪に対する警告となり税収秩序を改善する効果があること
  • 税務行政に対して社会全体の関心と支持を集め、良好な税務行政の環境を形成していくこと
  • 税務機関が徐々に脱税案件の公表範囲を拡大・強化していくことで、税に関連する犯罪者及び犯罪行為は全社会の監督を受けることになること

(2005年における調査状況)

 2005年には、法に基づいて、厳正な調査、課税を推進した結果、次のような調査事績を上げたとしています。特に公安機関をはじめとした他の機関との協力や各地の税務機関の連携を強化したこと、脱税の発生場所に臨場する調査を通じて脱税を徹底的に解明する方針を徹底したこと、情報技術を活用し領収証(発票)の取引の調査や異常な問題について省を跨る連携調査を強化したことなどが調査事績に結びついたと説明しています。

  • 2005年に全国の税務機関が行った調査件数は108万件、課税等を行った件数は46.4万件(調査事案の43%)、追徴税額は367億元。追徴税額が100万元を超えた案件は3,300件であり、その追徴税額は99.5億元。国家税務総局稽査局(本局の脱税調査担当部局)が直接調査、監督を行った事案は208件、追徴税額41.4億元。

(2005年の脱税案件の特徴)

 2005年の脱税案件の特徴については以下のとおり説明しています。増値税専用領収証の偽造、悪用により増値税、法人・個人所得税等の脱税が多発していることが伺われます。

  • 増値税専用領収証の虚偽発行及び受領(売買)が依然として税に係る違法犯罪活動の主要な形態となっており、領収証を利用して還付税額を騙し取る案件が増加している。こうした違法行為は東南沿海地域に多く見られたが、内陸の中西部地区にも見られるようになってきた。
  • 輸出に係る仕入増値税について不正に還付を受ける案件が増加している。手段としては、虚偽の輸出、欠陥品を輸出品に含めることによる水増し、実際より高い輸出価格等、増値税専用領収証の不正使用によるものがある。
  • 偽帳簿の作成(二重帳簿)及び帳簿外取引が依然として脱税の主な手段となっている。
  • 各種の偽領収証の利用による架空・過大な原価・費用の計上が依然として突出している。
  • 偽の領収証の製造・販売案件が依然として発生している。

(2006年における調査の方針)

 2005年の調査の状況等を踏まえて、2006年の調査方針のポイントを次のように説明しています。

  • 税務調査を専門に担当する部門の組織化を進め、税務調査を強化していく。
  • 脱税(犯罪行為となる税回避事案)の疑いのある案件については、法に基づき厳格・迅速に公安機関へ引き継ぎ刑事責任を追及していく。
  • 不動産業、建築業、娯楽業、金融保険業、郵便電子通信業、石炭生産業及び運輸業、廃棄物取引業、外資系企業の税収及び個人所得税の税収専門項目調査を重点的に行う。
  • 重点地区を選定して「税収専門項目調査」を行い、指導を強化する。

 

「ミニ知識(30)」日本の税務調査の状況は

日本の法人税と所得税(個人所得税)の最近の調査の状況について紹介します。

(法人税の調査の状況)

 2004事務年度(2004年7月〜2005年6月)においては、不正計算が想定される法人など調査必要度の高い法人12万4千件について実地調査が行われ、このうち何らかの非違があったものは9万1千件(調査事案の73%)、その申告漏れ所得金額は1兆4,914億円、追徴税額は3,601億円となっています。また、仮装、隠ぺいによる不正計算のあったものは2万4千件(調査事案の19%)、その不正脱漏所得金額は3,595億円となっています。不正発見割合の高い業種は「バー・クラブ」、「パチンコ」、「廃棄物処理」など、不正申告1件当たりの不正脱漏所得金額の大きな業種は、「鉄鋼製造」、「パチンコ」、「木造建築工事」などとなっています。

(所得税(個人)の調査の状況)

 個人の所得税(譲渡所得等調査分を除く)については、申告所得金額が過少と見られる者、申告義務があるにもかかわらず無申告である者など何らかの非違等があると想定される者を対象として、2004事務年度には781千件の実地調査が行われました。

 実地調査については、高額・悪質な不正計算が見込まれるものを対象に深度ある調査(特別調査・一般調査)を優先して実施するとともに、2004事務年度は、資料情報や事業実態の解明を通じて申告漏れ所得等の把握を短期間で行う調査(着眼調査)が導入され、その結果、特別調査・一般調査を行ったものは48千件、着眼調査を行ったものは191千件となっています。また、実地調査に至らない程度の是正を行う接触(以下「簡易な接触」という。)は、541千件となっています。

 調査等の総件数のうち申告漏れ(非違)のあった件数は568千件、申告漏れ所得金額は8,963億円であり、このうち特別調査・一般調査によるものは4,349億円(前事務年度4,874億円)、着眼調査によるものは3,510億円、簡易な接触によるものは1,103億円、追徴税額は1,162億円となっています。1件当たり不正脱漏所得が多い業種は、貸金業、キャバレー、風俗業、商品販売外交、病院の順になっています。

 

(執筆者紹介)

伏 見 俊 行

(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)

(執筆協力)

加 藤 正 人

 

△このページのトップ

 

第33回「移転価格対策のまとめ」

移転価格課税を必要としない世界の実現を祈って

 これまで8回にわたり移転価格課税について記事を掲載してきましたが、今回で移転価格関係の記事は一段落にしたいと思います。移転価格課税の未然防止策、対応策をまとめれば、次のとおりになると思います。

@ 移転価格課税を受けないためには、まず移転価格税制や移転価格課税の実情を十分に知ることが必要です。

A 租税回避目的の故意の移転価格上の問題のある取引は大きな見返り(すなわち、多額の追徴課税)をもたらす危険が大きく、絶対に避ける必要があります。また、租税回避の意図の有無にかかわらず移転価格上問題のある取引が発生しないように留意する必要があります。

B 海外進出に当たっては、移転価格課税を回避するため、企業全体での移転価格問題に対する意識の改革、親会社主導の対応、企業の内部管理の強化、関連企業間の共通意識の醸成と連携、関連企業間取引の減少など、企業グループとしての体制作り、事業戦略等を構築することが必要です。

C 価格設定の方法や実際の取引価格、取引内容等が独立企業間価格として妥当であることについて分析・検討を行い、そのことを十分説明できる資料の作成と保管、また取引段階での書類等の作成と保管(同時文書化)を行っていく必要があります。

D 専門の会計事務所等、移転価格課税についての知識や経験を有する専門家の支援を必要に応じて得て客観的にも自社対応が間違いないことを検証することも有効です。

E 関係税務当局の移転価格課税に対する姿勢や実際の取組み状況についての情報入手や理解を進め、自社や関与会計事務所だけの独断による判断を避ける必要があります。また、問題が生ずる可能性があるケース等については、可能であれば、税務当局に事前の相談や指導を受けることが望まれます。

F 将来への確実性、予測可能性を得るためには、税務当局と移転価格に関して事前に了解を得る制度(事前確認制度)を活用することが有効です。この場合、相手国からの課税リスクを解消できる租税条約に基づく相互協議を通じた二国間(多国間)事前確認制度の活用が推奨されます。

G 課税された場合には、二国間での経済的二重課税を排除するため、租税条約に基づく関係国の権限ある当局間での相互協議手続、あるいは国内法に基づく救済手段(不服申立て、訴訟)を活用することが考えられます。

H 課税を受けた場合には、その課税の救済策を検討することも必要ですが、それ以上に将来に向けて移転価格課税を受けないよう対策を採ることが必要です。課税を通じて将来の取扱いを明らかにすること、さらに事前確認制度の活用を検討することがポイントになります。

I しかし、すべての事案について二国間事前確認制度を活用する必要があるわけではないと考えます。移転価格課税を未然に防止できるとはいっても、その活用のために要する時間的、費用的コストは少なくありません。要は、課税を受けるリスクとコストを勘案し、必要な場合には二国間事前確認を、リスクが低い場合には自社内での対応に力を入れることでもよいと思います。一般論として、欧米との取引で二国間事前確認の実施実績があるような国際的な大企業は中国との取引でもその活用を検討し、課税のリスクが小さい中小の企業はまず自社での対応に力を入れることが妥当かもしれません。

 最後に、納税者、税務当局双方が移転価格問題への理解を深め、適切な対応を採り、移転価格課税を必要としない世界に近づいていくことを祈りたいと思います。

 

(執筆者紹介)

伏 見 俊 行

(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)

(本の紹介)

8回にわたり移転価格課税をテーマとして取り上げてきましたが、紙面の都合もありその要点のみを記述しました。詳しくお知りになりたい方は、拙著の「日中移転価格税制」(税務研究会出版)をご覧いただきたいと思います。本書は、日本と中国の移転価格税制の仕組みから移転価格課税を受けないための対応策までを、税務当局サイド、納税者サイドの双方の視点から、また中立的な立場からまとめたものであり、中国で活動する日系企業の皆さんにとってお役に立つものと思います。

「日中移転価格税制」―移転価格課税を受けないために―

伏見俊行・成立 共著
A5判・436頁、定価3,990円(税込)

 

△このページのトップ

 

第32回「移転価格課税を受けないためのポイント(2)」

課税を受けた場合には将来に向けた対応を

 今回は、移転価格課税を受けないための具体的対応のポイントを紹介します。段階別にまとめると以下のように考えられます。

移転価格課税を受けないための具体的対応のポイント

 

海外進出に当たっての対応

@ 移転価格課税を回避するための態勢、事業戦略等の構築

・移転価格対応の意識の改革
・親会社主導の移転価格対応
・企業の内部管理の強化
・関連企業間の共通意識と連携
・専門的知識、経験を持つ管理者、職員の派遣
・中国人スタッフの適切な活用
・関連企業間取引を減少させる

取引価格設定段階での対応

A 移転価格の分析と検討(移転価格上の問題のない取引価格の設定とそれを的確に説明する資料の作成と保管(同時文書化))
積極的な課税未然防止策

B 事前確認制度の積極的な活用
取引段階での対応

C 取引段階での書類等の作成と保管(同時文書化)
決算・申告段階での対応

D 決算・申告の準備と移転価格問題の存在の有無についての結果チェックと説明資料の準備
移転価格調査時の対応

E 移転価格調査時における的確な対応
移転価格課税を受けた場合

F 移転価格課税を受けた場合の的確な対応

・相互協議等の二重課税解消のための対応
・将来に向けた課税の未然防止のための対応(事前確認の活用等)

 

 移転価格課税を受けた場合の方策について少々コメントしておきます。

 不幸にも移転価格課税を受けた場合には、租税条約に基づく二国間での相互協議、国内法での救済手段(不服申立て、訴訟)などの活用が考えられ、こうした事後対応を適切に選択・適用し、二重課税の解消を図ることが重要です。

 もう一つ重要な点は、課税を受けた事業年度以降の事業年度の備えです。課税の経験を踏まえて適正に取引を行う、移転価格上の問題がないことを説明できるようにする、「事前確認」など積極的な予防策を採るなど、将来に向けた対応を採ること。これが最も大切でしょう。

 いずれにしても、課税に対する予防措置を十分に採ること、そして課税された場合は、理屈の通らない安易な妥協は避け、将来につながる課税への対応を採ることが肝要です。理屈の不明な課税内容が示された場合には、そのまま受け入れ放置することは危険です。将来のため課税の理由・内容を明らかにしておくことが必須です。特に巨額の移転価格課税が行われた場合には、租税条約に基づく二国間相互協議や二国間事前確認を積極的に活用し、将来の課税の安定を確保しておく必要があると思います。

 

「ミニ知識(29)」相互協議

 相互協議とは、国際的な二重課税など租税条約に適合しない課税を排除することを目的として、二国間の租税条約の規程に基づき、各国の権限のある当局(Competent Authority, CA)間で直接行われる協議手続です。

 日中租税協定第25条の規定に基づいて説明すれば、日本と中国の一方または双方の課税当局による課税処分等により、一方または他方の納税者がその租税協定の規定に適合しない課税を受けた場合、または適合しない課税を受けるおそれがある場合に、それぞれの国の国内法で定める救済手段とは別に、権限のある当局に対してその問題の解決を申し立てることができることとされています(25条第1項)。日中の権限のある当局は、両当局間の合意により日中租税協定に適合しない課税を回避するよう努めることとされ(個別課税問題に関する相互協議)、協議の結果、合意した両国は、成立したすべての合意内容を両国の法令上のいかなる期間制限にかかわらず実施することが義務付けられています(25条第2項)。

 移転価格の個別課税問題に関する相互協議としては、一方の国による移転価格課税に起因する二重課税を解消するために行われるもの、移転価格課税を未然に防止するため、適正な国際取引価格の水準や算定方法を関係国の当局と関連企業が事前に確認しておく事前確認のために行われるものがあり、近年これらの移転価格問題に関する相互協議が活発に行われています。現在、日本の国税庁は世界各国の税務当局と200件を超える事案の相互協議を行っています。一方、中国ではこれまで相互協議の実施件数は限られたものでしたが、近年の経済そして税務行政の国際化の進展に伴い、今後は積極的に相互協議が実施されていくものと思います。

 

(参考:日本の相互協議実施状況)

事務年度

2000

2001

2002

2003

2004

発生件数

74 件

88 件

94 件

122 件

90 件

処理件数

65

77

80

83

92

繰越件数

139

150

164

203

201

(注)事務年度は、各年の7月から翌年6月までとなっています。

 

(執筆者紹介)

伏 見 俊 行

(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)

 

△このページのトップ

 

第31回「移転価格課税を受けないためのポイント(1)」

課税を受けないための6つのポイント

 中国の税務当局は、移転価格課税の重点調査対象事案の一般的な選定基準を次のとおり示しています。したがって、これらの基準に該当する企業が移転価格調査の対象になりやすい企業であると言えます。

@ 関連企業との取引金額が大きい企業
A 生産、経営管理上の決定に関連企業の支配を受ける企業
B 長期間にわたり欠損を計上している企業(2年以上連続して欠損が発生している企業)
C 長期間にわたり少額の利益や欠損を計上しながら、経営規模を拡大し続けている企業
D 損益の変動幅が大きい企業(隔年ごとに利益または損失を計上している企業や通常の範囲を超える利益を計上している企業)
E タックス・ヘイブン(税負担が無いまたは軽い国(地域))に設立された関連企業と取引を行っている企業
F 同業種の企業と比べ利益水準が低い企業(同じ地域の同業種の企業の利益水準との比較による)
G グループ企業内の比較で、他のグループ企業に比べ利益率が低い企業(関連企業に比べ利益率が低い企業)
H 関連企業に対して合理的でない費用を計上し支出している企業
I 法定の減免税期間の終了後に利益を大幅に減少させる方法などにより租税回避を図る企業、その他の租税回避の疑いがある企業

 (移転価格課税を受けないための6つの方策)

 以下では、移転価格課税を受けないための6つのポイントを説明します。

@ 移転価格税制や課税がどういうものかを知ること

 第1のポイントは、以下のように移転価格課税とはどういうものであるかを知ることです。

 @ 移転価格課税はどういうものであり、企業にとってどのように大きな影響、問題があるかというこ
    とを知ること

 A 進出先の国と日本の双方の移転価格税制を理解すること

 B 進出先の国と日本の双方の移転価格課税の状況や執行体制を知ること

A 移転価格上の問題のある取引を行わないこと

 第2のポイントは、外国の関連会社との取引において意図的なものはもちろん、意図的でない移転価格上の問題のある取引についても行わないように留意することです。ちなみに、移転価格課税は、皆さんに税回避の意図がなくとも結果として所得が移転、税が移転していた場合には、課税されるものです。したがって、わが社は移転価格政策の意図はないから関係がないというものではないのです。自らの取引の内容を十分に把握し、移転価格上の問題がないかどうか検証していく必要があります。十分ご留意ください。

B 移転価格上の問題のある取引の疑いをかけられないこと

 第3のポイントは、移転価格上の問題のある取引の疑いを各国の税務当局からかけられないように留意することです。自らは移転価格上の問題のある取引を意図していない、あるいは移転価格上の問題のある取引ではないと理解したとしても、その適否を判断するのは各国の税務当局です。税務当局に移転価格上の問題のある取引の疑いを持たれないようにすることが重要です。

C 移転価格上の問題がないことを課税当局に説明できる準備をする

 次に、移転価格上の問題がないことを税務当局に説明できる準備を怠らないこと。これが第4のポイントです。具体的には、取引資料の保管、説明資料の準備など、いわゆるドキュメンテーションの備えが必要となります。

D 移転価格課税を予防する方策を採ること(事前確認制度を活用する)

 さらに、移転価格課税を事前に予防する方策を採ることです。これが第5のポイントになります。具体的には、関係する二国の税務当局間による事前確認制度を積極的に利用することが挙げられます。

E 税務調査への的確な対応

 最後に、移転価格調査を受けた場合には、移転価格問題の事実がないことをいかに要領よく明瞭に説明するか、いかにして疑念を持たれない対応をするかが重要になります。的確な調査協力、調査対応を行うことが調査そのものの効率的な展開につながり、また将来に向けて税務機関からの信頼を得ることにもつながります

 

「ミ二知識(28)」4月は中国の「税収宣伝月間」でした

 今日の税務行政では、納税者が税務行政に対する理解、信頼を高め、自主的に正しい申告納税を行ってもらうことが最も重要であると考えられています。そのため、各国の税務当局では、適切な調査や納税者サービスの充実を進めるとともに、税務の広報活動等についても力を入れています。

 中国でも、毎年4月を「全国税収宣伝月間」として税の広報活動に力を入れており、本年も各種の活動が行われています(本年で第15回目の開催)。皆さんご存知でしょうか。本年のテーマは昨年と同じく「依法誠信納税、共建小康社会(法に基づき誠実に納税し、共に生活に困らない安定した社会を築く)」であり、以下のような広報活動が実施されました(国税発【2006】32号参照)。ちなみに、日本では毎年11月11日から17日までの1週間を「税を考える週間」として広報活動、租税教育活動などが実施されています。

1.座談会の開催

 「依法誠信納税、共建小康社会」をテーマにした座談会を3月31日に開催し、税務当局及び政府機関の幹部のほか、オリンピックの金メダリスト、銀行や民間企業の幹部、中央財経大学の副学長等が参加しました。

2.各種の税広報番組のテレビ放送

 今年1月に改正された個人所得税法をテーマにしたインタビューや解説討論番組、毎日5分間全22回放映の「馬斌説税(馬斌が税について語る)」というタイトルの税法解説番組、国家税務総局制作による税のテレビコマーシャルが中央電視台で放映されました。

3.脱税事件の公表及び納税表彰

 4月下旬の新聞発表会で一部の典型的な脱税事件を公表するとともに、法に基づき誠実に納税している納税者に対する表彰が各地で行われています。公表された脱税事件に関しては後日紹介したいと思います。

4.税の漫画コンテスト

 国家税務総局と、人民日報が主催する「風刺ユーモア報」紙の共催で「依法誠信納税、共建小康社会」をテーマにした漫画コンテストが開催されました。

 1等賞:賞金2,000元(2名)、2等賞:賞金1,000元(5名)、

 3等賞:賞金500元(10名)、優秀賞:「風刺ユーモア報」紙の1年間無料購読

5.税のアニメーション作品コンテスト

 国家税務総局と中国税務雑誌社の共催で「依法誠信納税、共建小康社会」をテーマにしたアニメーション作品コンテストが開催されています(募集締切りは2006年6月15日)。

 

(執筆者紹介)

伏 見 俊 行

(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)

(執筆協力)

小 杉 直 史

 

△このページのトップ

 

第30回「消費税改正の概要」

消費税の課税対象、税率が大幅に見直されました

財政部及び国家税務総局は消費税の課税対象品目、適用税率等を改正する旨の通達(財税〔2006〕33号、2006年3月20日付)を公表し、4月1日より適用されています。今回の改正は、@急速な経済発展により、かつての奢侈品の一部が大衆消費財となってきたこと等に伴い、課税対象品目の調整が必要になったこと、A第11次5か年計画で強調されている資源節約型・環境にやさしい社会を推進するため消費税が注目されたこと、そしてB奢侈品に対する消費課税を通じ貧富の格差問題への対応を進めることなどを主な目的とするものと考えられます。今回の改正のポイントは以下のとおりです。

(注) 中国の消費税は日本の「消費税」と異なり、煙草、酒類、自動車等の特定の奢侈品等を課税対象として出荷段階で課税される個別消費税であり、日本の旧「物品税」に類似するものです。消費一般を課税対象とする現在の日本の「消費税」に相当する中国の税としては「増値税」があります。

1 石油製品
 従来の課税対象品目であったガソリン及び重油に加え、ナフサ、ソルベント油、潤滑油、燃料油及び航空機燃料の5品目を課税対象に追加。税率はナフサ、ソルベント油及び潤滑油が0.20元/L、燃料油及び航空機燃料が0.10元/L。ただし、国際的に原油・製品油価格が高騰している現状にかんがみ、当分の間、航空機燃料は免税、その他4品目については本来納付すべき税額の30%のみ課税。

2 自動車
 小型自動車(乗用車、オフロード車及びマイクロバス)に課される消費税率について、「高排気量の車種に対し重い税負担」の考え方に基づき税率を調整(3〜8%→3〜20%)。排気量2,000cc超の乗用車は軒並み増税。なお、排気量1,000cc以上1,500cc以下の乗用車は2%減税(5%→3%)となっており、これは昨今の軽排気量車の普及奨励と符合する動き。ちなみに、ハイブリッド車など省エネ、環境保護に効果のある自動車については一定の税制優遇措置を講じることとされ、財政部及び国家税務総局が別途規定するとのこと(3月21日付財政部担当者への質疑応答より)。

3 自動二輪車
 小型自動二輪車(オートバイ)が都市近郊、農村部の農民の輸送・移動手段となっている現状にかんがみ、低排気量(250cc以下)の小型自動二輪車に適用される税率を軽減(10%→3%。250cc超の税率は10%)。「高排気量の車種に対し重い税負担」の考え方を反映させつつ、農民の負担軽減を図ることとしたもの。

4 自動車タイヤ
 中国のタイヤメーカーは主に斜交タイヤを製造しているが、近年の国際的なゴム価格の上昇と川上の自動車メーカーの値下げ圧力から、10%の消費税が過重負担となりタイヤメーカーの経営を圧迫していたため、適用税率を3%に引き下げ。

5 白酒(蒸留酒)
 穀類白酒に対する高税率は雑穀類の消費抑制を目的としたものであったが、今日に至りその意義が失われたこと、穀類と薯類の適用税率差を悪用し、課税逃れを図るケースが見られたことから、穀類と薯類の適用税率を20%に統一。

6 奢侈品に対する課税
 奢侈品に対する課税の観点から、ゴルフボール・ゴルフ用品(税率10%)、単価1万元以上の高級腕時計(同20%)、レジャーボート(同10%)を新たに課税対象品目にする一方、かつて奢侈品とされた皮膚頭髪保護商品を課税対象品目から除外。

7 環境保護の観点からの課税
 森林資源保護の観点から、木製割り箸及び木製床材(それぞれ税率5%)を新たに課税対象品目に追加。

 

「ミニ知識(27)」日本の消費税の導入と物品税の廃止

 日本では、1989年に物品・サービスの取引一般を対象にする「消費税」が導入され、同時に中国の「消費税」に相当する個別消費税である「物品税」が廃止されました。日本の物品税が廃止された理由は、@特定の物品に課税する物品税では、課税されるものとされないものとの間でアンバランスが生じたこと、A経済のソフト化・サービス化が進展し消費に占めるサービス取引の割合が高まり、物品取引のみを対象とする税では公平性を欠くと考えられたこと、B税収確保の観点からも特定の物品のみに税負担を求めることでは不公平でありまた不十分であると考えられたことなどがありました。例えば、当時の物品税では、毛皮製品には課税されるのに絹織物には課税されない、コーヒーやウーロン茶は課税されるのに紅茶や緑茶は課税されない、といったアンバランスが数多く指摘されていました。そして、時代の変遷とともに消費者の価値観や選択は変化・多様化し、高級品とは何か嗜好品とは何かを当局が判断することには無理があると考えられました。また、明らかに贅沢品であっても新たに登場した物品は課税対象から漏れるという問題もありました。さらに、こうした課税政策が消費者の選択や事業者の活動に大きな影響を及ぼすこと自体望ましいことではないとも考えられました。

 日本の物品税は1937年に戦時下の財政収入確保を主な目的とし、同時に国民の贅沢品・嗜好品への消費を抑制することを目的として導入されたものです。個別物品に対する消費課税は、今日においても財源確保のほか、贅沢品等の消費に着目した課税を通じ貧富の格差是正に貢献する、環境目的のため特定物品の消費を調整するなどの政策的な意義はあると考えられます。一方で、日本が物品税を廃止した経緯を見ても分かるように、贅沢品・嗜好品の範囲を普遍的に定めることは困難であり、また時代や世代、地域によってその判断は変化するものであることから、その課税対象の範囲や税負担の大きさを決定する作業は容易ではなく、また常に見直しが求められることになると言えます。中国の消費税も、今後頻繁に見直しが行われていくものと予想されます。

 

(執筆者紹介)

伏 見 俊 行

(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)

(執筆協力者)

神 谷   信

 

△このページのトップ

 

第29回「日中移転価格税制比較(3)」

中国では10年遡及課税の可能性もあります

 (移転価格算定方法(続き))

 中国の税制で認められている利益比較法は、対象となる企業の営業利益率と同業他社の営業利益率とを比較することで移転価格上の問題の存在の有無を検証する方法です。この方法はOECDガイドラインでは認められていない方法であり、米国等のいくつかの国だけで認められている方法です。利益比較法は、公開データから基準値を見つけることができることから、課税当局が課税を行う場合も、また納税者が移転価格課税に備える場合にも、使いやすいという大きな利点があります。ただし、本来の取引価格の適正化を図ることによる利益移転の防止という考えからは大きく離れた取扱いです。利益比較法で用いる企業単位での営業利益率は、取引価格以外の営業コストなど他の要因の影響を大きく受けており、もはや取引価格の比較という領域からは外れています。単に、「企業は一定の利益を上げ、一定の納税を行うべきである」という考えから作られた方式であり、伝統的な移転価格問題への取組みからは認められない方法として考えられています。

 仮に、日本で認められていない利益比較法を用いて中国が中国所在の日系子会社に移転価格課税を行った場合には、その後の二国間の相互協議(二重課税解消のための税務当局間の交渉)や対応的調整(二重課税解消のための税務当局による対応)を行う際に大きな問題が生じます。相互協議の際には、中国での利益比較法による課税手法は認められません。したがって、二重課税を回避するためには、改めて日本でも受け入れられる別の方法を用いて独立企業間価格の算定を行うことになります。

 また、二国間事前確認を行う場合にも、両国が認める算定手法を用いる必要があります。例えば、在中国の納税者が利益比較法に基づく日本との二国間事前確認を申請する場合には、申請の段階で、算定手法の見直しが求められることになると思います。そのままでは、二国間事前確認は日本と合意されることはないからです。

 (調査)

 日本では、一般の調査事案では5年間遡及での課税、不正事案については7年間遡及での課税が可能となっていますが、移転価格事案については6年間遡及の課税が可能になっています。一方、中国では基本的には課税の遡及年限は3年間とされていますが、10年間訴求して課税することも可能とされています。

 課税を受けた企業の事後管理について、中国では、更正後3年間の追跡調査が公表されており、一度課税を受けた企業はその後引き続き管理されることになっています。日本ではこのような通達はありません。しかし、日本でも、現実の対応として、一度課税を受けた企業は、その後の移転価格取引や申告の状況は的確に管理されているものと考えられます。

 調査期間について、中国では調査通知から3年以内ということが公表されていますが、日本ではこのような通達はありません。しかし、日本では、一度調査を行った場合、長期間にわたり調査が放置されることはないと思われます。

 (相互協議・事前確認)

 日本では、各国との相互協議を積極的に行っていることは以前説明したとおりです。2005年7月時点で進行形の事案が200件を超える件数になっています。そのうち、移転価格の課税事案について二重課税を解消するための協議が29件、移転価格課税を未然に回避するための二国間事前確認のための協議が143件となっており、移転価格関係の相互協議が90%近くになっています。

 中国でも、今後は間違いなくこうした仕事が増えていくものと考えられます。特に、日本との相互協議は、両国の経済関係の深さを考えれば、最も多くなるものと予想されます。

 

「ミニ知識(26)」事前確認制度

 事前確認制度とは、納税者が税務当局に申し出た独立企業間価格の算定方法等について、税務当局がその合理性を検証し確認を与えるものです。そして、税務当局がその確認を与えた場合には、納税者がその内容に基づき申告を行っている限り、移転価格課税は行わないことを保証する制度と言えます。

 事前確認制度の目的を要すれば、独立企業間価格の算定に関して課税当局と納税者との間で事前に確認することにより、移転価格課税に関する納税者の予測可能性を確保し、移転価格税制の適正・円滑な執行を図ることということになるでしょう。

 移転価格課税は巨額になることが多く、また納税者が税務当局により移転価格調査を受けた場合、さらに移転価格課税を受けた場合、その移転価格調査および課税後の解決のために行われる相互協議等には通常長期間を要し、また多大の事務量、コスト等を要することになります。納税者にとって移転価格課税に関するリスクは極めて大きなものと言えます。したがって、事前確認制度は、国外関連取引を有する納税者がこうした移転価格課税にかかわる大きなリスクを回避する手段として大きな効果があり、その利用は大いに推奨されるものと言えます。

 事前確認には、一国内限りの事前確認(ユニラテラルAPA、国内事前確認)と二国間での合意に基づく事前確認、(バイラテラルAPA)、多国間での合意に基づく事前確認(マルチラテラルAPA)があります。これらのうち、二国間または多国間の相互協議による事前確認では、納税者に関係する二国または多数の国から法的安定性を得ることができるため、日本では二国間等の相互協議による事前確認を推奨しており、多くの国も同様の立場にあります。

 

(二国間または多国間相互協議に基づく事前確認(APA)の流れ(例))

 

(執筆者紹介)

伏 見 俊 行

(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)

 

△このページのトップ

 

第28回「日中移転価格税制比較(2)」

基本三法を優先適用する日中の移転価格算定方法

 今回は、日中の移転価格算定方法を比較していきます。

 (移転価格算定方法)

 移転価格税制は関連企業間の取引価格の妥当性を検証する税制ですが、この妥当な取引価格(独立企業間価格)を算定する方法が移転価格算定方法です。日本、中国ともに、OECD移転価格ガイドラインを尊重した税制を作っており、移転価格算定方法は両国で類似しています。基本三法(独立価格比準法(CUP法)、再販売価格基準法(RP法)、原価基準法(CP法))をまず優先適用し、これらが使用できない場合、その他の方法(利益分割法(RP法)、取引単位営業利益法(TNMM)など)を用いることにしています。

 以下では主な移転価格算定方法について概説します。

@ 独立価格比準法

 基本三法のうち独立価格比準法は、特殊の関係にない売り手と買い手が、国外関連取引にかかる棚卸資産と同種の棚卸資産を当該国外関連取引と取引段階、取引数量その他が同様の状況の下で行った売買取引の対価の額に相当する金額を独立企業間価格として、移転価格を算定する方法です。比較対象取引の価格そのものを独立企業間価格とする独立価格比準法は、移転価格税制の本来の趣旨に最も合致した方法であり、この方法が独立企業間価格算定の基本となる方法であると言えます。しかし、現実には、取引価格は製品のわずかな違いや販売戦略等により容易に変動しますので同種の製品や同様の取引条件となる比較可能性のあるものを確保することは難しく、この手法を適用できる例は限られていると言わざるを得ません。

A 再販売価格基準法

 再販売価格基準法は、国外関連取引に係る棚卸資産の買い手が特殊の関係にない者に対して当該棚卸資産を販売した対価の額(再販売価格)から通常の利益の額(マークアップ)を控除して計算した金額を独立企業間価格として、移転価格を算定する方法です。この方法は、国内の輸入業者が行う取引を比較対象取引とすることができることから、輸入業者が独立企業間価格の算定方法として用いる方法として容易であると言えます。

B 原価基準法

 原価基準法は、国外関連取引に係る棚卸資産の売り手の購入、製造その他の行為による所得の原価の額に通常の利益の額(マークアップ)を加算して計算した金額を独立企業間価格として、移転価格を算定する方法です。この方法も、再販売価格基準法と同様に、国内の製造業者等が行う取引を比較対象取引とすることができることから、製造・輸出業者が独立企業間価格算定方法として用いる方法として容易であると言えます。

C 利益分割法

 その他の方法のうち利益分割法は、簡単に言えば、移転価格取引の当事者がその取引から得られる利益を当事者間で合理的な基準に基づいて分割する方法であり、その分割に沿った取引価格を独立企業間価格として算定するというものです。利益分割法は、他の方法の適用が困難な場合に用いられる方法です。利益分割法には、基本的な手法である寄与度分割法のほかに、比較利益分割法、残余利益分割法が認められています。

D 取引単位営業利益法

 取引単位営業利益法は、納税者が行う一つの関連者間取引(または一括することが妥当な複数の取引単位)についての営業利益指標(例えば、売上営業利益率、資産収益率、その他の適切な財務比率)を、比較対象とする非関連者間取引の営業利益指標と比較することにより移転価格問題の判断を行うものです。取引単位営業利益法は、基本三法が適用できない場合、比較対象法人の営業利益率が取引単位(または製品ライン単位)で入手可能な場合に適用されることになります。

 

日中の移転価格算定方法で異なっている点は、その他の方法の中で、中国が利益比較法や推定利益法を認めている点です。この点に関しては次回説明します。

 

「ミニ知識(25)」移転価格課税の特徴(2)

ミニ知識では、前回に引き続き移転価格課税の特徴を説明します。

C 国家間の税配分の問題の発生

 国際間の関連者取引に対して移転価格課税が実施された場合には、関係国家間での国際的税配分の問題を生じます。移転価格課税は、税を巡る国際紛争の発生原因となります。納税者には、移転価格に関する各国や国際的なルールを理解した上で適切な移転価格取引と申告納税を、また、課税当局には、国際ルールに沿った適切な課税を期待するとともに、関係各国の税務当局間での円滑かつ積極的な二重課税解消のための協力が行われることが期待されます。

D 巨額な課税の発生

 移転価格課税は適正な移転価格の算定を求めるものですが、一般に移転価格や利益水準のわずかな調整が必要とされた場合であっても、企業の所得金額や課税額に対する影響は巨額になる場合が多いと言えます。企業にとっては、経営基盤にも影響する巨額の課税、税務当局にとっては、税収に大きな影響を与える課税になる可能性があります。納税者には、移転価格問題の重要性を認識し、親会社を中心として企業グループ全体での十分な対応が必要と言えます。また、課税当局については、税収確保や調査実績の向上など本来の移転価格課税の趣旨とは異なる動機付けにより不適切な課税が行われることがないことを願いたいと思います。

E 大きな事務負担と費用負担

 適正な移転価格の分析・設定、移転価格説明資料の作成、移転価格調査対応、専門家への支援依頼費用など、移転価格対応のため、企業は大きな金銭的負担や事務的負担を必要とする可能性があります。また、課税当局にとっても調査など移転価格課税関係に要する事務量は膨大なものになります。納税者は、負担コストの最小化を目指した努力を、また税務当局も税務執行の効率化を進めるとともに、納税者負担の最小化への配慮を続ける必要があると考えます。

(執筆者紹介)

伏 見 俊 行

(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)

 

△このページのトップ

 

第27回「日中移転価格税制比較(1)」

国内取引も対象となる中国の移転価格税制

 

これから3回、日本と中国の移転価格税制の概要とその違いを説明していきます。

(導入時期)

日本は1986年4月に移転価格税制を導入しました。米国が1920年代には既に同税制を持っていたことに比べれば、決して早い時期での導入ではないと言えますが、現在では米国、欧州諸国とともに最も移転価格課税の対応が進んでいる国の一つになっています。中国は移転価格税制を1991年に導入しました。やはり早い導入とは言えませんが、それでも既に15年近い歴史を持っており、その執行レベルも日本や欧米諸国に近づきつつあると言えます。

(対象税目)

移転価格税制の対象となる税目は、日本では法人税だけです。中国では、法人税(企業所得税および外国企業等所得税)だけでなく、すべての税に影響がある点、大きな違いがあります。

日本では、例えば、法人税調査で移転価格問題が把握され海外への売上額の是正が行われたとしても、法人は法人税の申告書上の所得の増加修正を行い、法人税の納付をするだけで終わります。法人の決算書を修正することも、売上が増えた分に相当する消費税を追加して支払う必要もありません。また、海外の子会社から利益移転の所得について配当として実際に回収することも義務付けられていません。あくまでも法人税の中の税務処理上の問題の中で完結します。

また、日本の移転価格税制が法人税のみを対象としているということは、日本の同税制は個人事業者には適用がないということを意味します。個人事業者も移転価格税制の対象とする中国の取扱いと大きく異なる点です。

(対象となる関連企業)

移転価格税制は関連企業間の取引価格の妥当性を問題にする税制であり、第三者との取引は移転価格税制の対象外になります。この移転価格税制の対象となる関連企業の定義についても日中の税制では違いがあります。

日本では、主として資本関係を中心とした形式基準を重視しています。資本関係では、親子関係では50%以上の関係、兄弟関係でも同じく50%以上を同一の関連者に所有されている関係です。また、資本基準のほかに、事業方針に関する実質的な支配関係など、実質基準も取り入れています。

一方、中国では、資本基準はもちろん重視しますが、それ以上に実質基準により関連企業として認定されているようであり、おそらく日本より広い範囲で認定が行われているようです。ちなみに、中国の資本基準は資本関係が25%以上となっています。

(対象取引)

日本と中国の移転価格税制の大きな違いの一つが、対象とする取引であると思います。

日本では、日本と外国との取引に限って移転価格税制を適用することになっています。多くの国においては、移転価格税制は国際間での移転価格による所得移転と税の流出を防止することを目的として導入した税制であり、国内取引は対象としていません。仮に国内で関連企業に所得が移転された場合には、移転先の企業の所得の増加となりますので、国税収入としては基本的には税の流出の心配はないと考えられるからです。

この点、中国では国内取引も移転価格税制の対象としています。米国でも国内取引を課税対象としていますが、実際に課税を行っているケースはほとんどないと聞いています。中国も現実に国内取引に移転価格課税を行った事例は少ないと聞いていますが、日系企業では中国国内に関連会社を多数持ち、それらの国内取引も多くあり、中国の国内取引に対する移転価格課税についても強い関心を持っています。

 

「ミニ知識(24)」移転価格課税の特徴(1)

今回と次回、移転価格課税の特徴について紹介します。移転価格課税の特徴には、次のような6つの特徴があると考えられます。したがって、その取扱いに当たっては、納税者も税務当局も他の課税事案とは異なった特別な配慮が必要になると思います。

@ 所得移転という結果を問われる税制

移転価格課税は、節税、所得移転等の意図の有無にかかわらず、結果として移転価格により所得移転の事実が認定される場合には課税が行われます。言わば、結果責任としての課税と言えます。したがって、納税者は、移転価格問題について調査を受けてから対応するといった受身の対応では手遅れであり、課税上問題となる結果を作らないという能動的な対応をしていく必要があります。

A 科学的・客観的評価の難しい独立企業間価格の算定(移転価格問題の複雑性、困難性)

移転価格税制の主題ともなる独立企業間価格について絶対的・客観的な価格(真実の価格)を科学的に実証することは、多くの場合難しいものと考えられます。移転価格課税の実施に当たっては、最大限客観性のある独立企業間価格を追求するものの、ある程度裁量的な判断や基準に拠らざるを得ないことも事実です。しばしば、移転価格課税は科学ではなく芸術の世界に近いと言われています。したがって、納税者は、移転価格対応の複雑性、困難性を認識し、可能な限り客観的な検討に基づき適切な移転価格取引、課税の未然防止と的確な課税への対応に努めていく必要があります。また、課税当局には、精緻かつ的確な分析・検討に基づく慎重な移転価格課税の実施が期待されるところです。

B 企業グループに経済的二重課税の発生

移転価格課税が実施された場合には、企業と関連取引企業は同一の取引に関して二重の所得計上を強いられ、二重に課税を受けることになります。すなわち、企業グループにとって経済的二重課税の問題を生じます。納税者は、二重課税解消のための方策を採るとともに将来に向けた移転価格課税の未然防止に努めることが必要です。また、税務当局には、納税者の二重課税解消のための救済措置の円滑かつ積極的な対応が期待されるところです。

  

(執筆者紹介)

伏見俊行

(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)

 

 

第26回「移転価格税制の概要」

 移転価格税制とは、ある国の法人とその国外関連者との間の取引の対価の額が独立した第三者間であれば取引されるであろう価格(独立企業間価格)と異なることにより、ある国の法人の所得の金額が減少することになる場合に、国外関連者との取引価格を独立企業間価格で行ったものとして所得金額を計算し直すという制度です(租税特別措置法66の4C、OECD移転価格ガイドライン等)。

 次の図は日本の移転価格税制の概要を説明するものです(財務省資料)。

 次回からは、日中の移転価格税制の概要を比較しながら説明するとともに、移転価格課税の特徴について紹介していきたいと思います。さらに、移転価格課税を受けないための対応についても触れていきたいと思います。

 

「ミニ知識(23)」移転価格税制の歴史

 日本も中国も移転価格税制の導入時期については後発の国であったと言えます。

 米国は1928年に内国歳入法482条を導入し国際取引、国内取引を問わず関連企業間の取引であれば対象として適用できる制度を確立していました。しかし、現実には課税手法として活用されるケースは少なかったようです。しかし、第2次大戦後の企業活動の国際化進展に従いこの制度が脚光を浴びるようになり、1968年に詳細な財務省規則が規定され、さらに70年代、80年代になると外資系企業に対する適正な課税の実現という理屈により巨額な移転価格課税を行うようになりました。さらに、独立企業間価格の算定手法として、利益比較法の導入やドキュメンテーションルールの導入など移転価格税制を容易に適用できる環境整備を進めてきました。

 イギリスは1970年に所得税法人税法485条1項で関連企業に対する資産の国際取引による低廉譲渡への取扱いを規定し(元は1951年歳入法37条)、西ドイツは1972年の国際取引課税法1条1項で関連企業間の国際取引を通じた所得の国外移転を否認することを規定しています。また、フランスは1933年に租税一般法57条で売買価格の操作等により関連外国企業に移転された所得はフランス企業の課税所得に加算することを規定しています。現在では、欧米の主要国はいずれも移転価格税制を導入済みとなっています。

 各国の移転価格課税の状況を見ると、先進諸国の中では、日本をはじめとして多くの国はある程度の水準で横ばいになっていますが、一部の国では依然として移転価格課税の件数も規模も拡大傾向を示しているようです。

 一方、開発途上国、特にアジア諸国については、近年移転価格課税のための法制度の整備や執行体制の整備を進め、課税強化に動いている国が多いと見られます。既に一部の国では移転価格課税が始まっており、また現在課税に至っていない国においても遠からず外資系企業を調査対象としていくことが予想されます。

 いずれにしても、世界全体で見た場合、移転価格課税は依然として拡大の様相を示していると考えられます。

(執筆者紹介)

伏 見 俊 行

(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)

 

△このページのトップ

 

第25回「日中移転価格課税の現状」

移転価格課税拡大の可能性

1.日本の移転価格課税の現状と見通し

 近年、日本の移転価格課税の件数は年間40件〜60件程度、課税所得金額は合計で年間400億円から800億円程度で推移してきました。したがって、1件あたりの課税所得金額は平均すると10億円程度となっています。しかし、昨年は件数も金額も大幅に伸びています。特に課税金額は顕著な拡大を示しました。

 日本の移転価格課税の特徴としては、課税件数は絞られ、1件当たりの移転価格課税所得金額がある程度大規模なものに限定して行われていることが指摘できます。移転価格課税は明確な客観性をもって課税を行うことが難しいことから、一般の調査に比べて必然的に調査は慎重に行われ、年間の課税件数は限られ、所得移転の規模の大きいものに限られ課税が行われていると言えます。

 従来は欧米関連の事案が中心であったと思われますが、経済の国際化、アジア化を反映して、今後はアジア関連の事案も増加していくことが予想されます。さらに、課税内容も従来の有形資産を中心とした移転価格課税から、無形資産取引、企業グループ内役務提供取引など新たな形態の移転価格課税にも広がりを見せていくものと考えられます。

 

2.中国の移転価格課税の現状と見通し

 中国の移転価格調査は、1990年頃から開始され、1998年から全国的に本格的に調査が強化されています。当初は全国に調査件数増大の指示を出し、移転価格課税を全国に浸透させる施策、言わば職員の意識、知識、経験の浸透、蓄積を進める運営が行われていたものと理解できます。最近では、移転価格調査も既に試験的段階を終え、本格的な調査を進める段階に入っていると見ることができるようです。国家税務総局は全国の国際課税担当者の育成と移転価格課税の充実・強化に熱心に取り組んでおり、また外国企業等の進出が多い沿岸部の主要地方の税務機関は移転価格課税専門チームを結成し、移転価格課税に対応できる国際担当要員の育成も確実に進んでいます。これまで国際ルールに適合しない不適切な調査手法による移転価格課税が多く見られたと言われていましたが、最近では国際的なルールに則った適切な調査が次第に浸透してきていると言われています。また、都市部の税務機関では、移転価格課税の強化を図るばかりではなく、移転価格課税を未然に防止する有効な手法として二国間事前確認制度に関する認識も高まりつつあります。

 中国税務当局から調査事績の公的な発表はありませんが、非公式な情報によれば、従来は年間で1,000件を超える多くの調査を実施し少額ながら多数の課税を行っていましたが、昨年からは国家税務総局が全国の移転価格事案の管理を徹底する方針に変更し、その結果調査の絞込みが行われ課税処理された件数は大幅に減少していると言われています。また、調査件数の絞込みを進めたことを反映して1件当たりの課税金額も大幅に増加しているようです。

 今後は、移転価格上の問題の大きい事案への絞込みが一層進み課税件数は限られたものとなる一方、個々の事案の課税所得金額や追徴税額は年々巨額化し米国や日本並みの大規模な課税が行われることも予想されます。さらにいずれ、適切な移転価格調査の拡大とともに、二国間事前確認にも関心が高まりその実施が増大していくことが予想されます。また、こうした展開を期待したいとも思います。

 

(執筆者紹介)

伏 見 俊 行

(中国・中央財経大学大学院教授兼研究員、中国・国家税務総局揚州税務学院客員教授)

 

(本の紹介)

 前回から移転価格課税をテーマとして取り上げていますが、紙面の都合もありその要点のみを記述しています。詳しくお知りになりたい方は、拙著の「日中移転価格税制」(税務研究会)をご覧いただきたいと思います。本書は、日本と中国の移転価格税制の仕組みから移転価格課税を受けないための対応策までを詳述したものであり、中国で活動する日系企業の皆さんにとってお役に立つものと思います。

日中移転価格税制
―移転価格課税を受けないために―

伏見俊行・成 立 共著
A5判・436頁定価 3,990円(税込)

 “政冷経熱”といわれる近年の日中関係を反映し、中国が米国を抜いてわが国最大の貿易相手国となり、その存在感は従前にも増して高まっています。

 

 その一方、中国に進出する企業は、市場開拓や営業・技術分野に重点を置き、税務・会計といった管理部門面はおろそかになりがちで、移転価格問題が俄然クローズアップされています。

 

◆移転価格問題の多くは、各企業が的確に課税の未然防止や税務当局への対応を行うことで 解決できます。

◆本書は、日本と中国の移転価格税制の仕組みから税務当局の執行方針、移転価格課税を 受けないための対応策までを詳説しています。

◆中国に進出する日本企業の実務担当者、日中間の税務に携わる専門家の必携書です。

 

 

 

△このページのトップ

 

第24回「移転価格課税の危険性」

増大する移転価格課税のリスク

 第2回のコラムで、日本で巨額の移転価格課税が行われたことが報道されたことを紹介しました。移転価格課税自体は、主に企業所得税(法人税)の中の一部の取扱いに過ぎず、税務行政の一部でしかありません。ですから一般の方にとっては馴染みの薄いものかもしれません。また、歴史的にもこの税制が脚光を浴びたのもせいぜいこの20年余りのことです。

 しかし、その課税の額の大きさやそのために要する事務負担、費用負担の大きさを考えると海外に進出する企業にとっては、知らずに済ますことのできないものとなっています。これからしばらくの間、ホットな話題になりつつある中国での移転価格課税にスポットを当てて説明を行っていきたい思います。

1.移転価格課税の危険性

 一般に、移転価格税制は、関連会社間の国際取引において非関連の会社間であれば設定されたであろう取引価格とは異なる価格により取引が行われ、その結果ある国において課税されるべきであった所得が他国に移転され納付されるべき税が他国に流出することを防ぐために設けられた制度です(注)。

 したがって、この移転価格課税は、所得の国際間の移転、すなわち税の流出が結果として存在しているか否かがポイントであり、企業側に租税回避や所得移転の意図があるか否かは課税当局が課税を実施する上での問題とはなりません。課税当局が関連者間の取引について移転価格上問題ありとの認定をした場合には、企業に悪意がない場合でも、あるいは経理上の問題がない場合でも移転価格課税が行われることになります。現実に移