判例に見る、QA式「中国社会と法律の実際」・第1回
〜法定期限内に主張しなかった担保権の消滅〜
裁判所の判決は社会を映す鏡であると思います。今回から、インターネットや新聞で取り上げられた中国の判例をご紹介させていただくことになりました。事案の概要をあげたうえで、判決の背景、関連法律などを説明いたします。
現在、中国でどのようなことが起こっているのか、また、中国の法律はどのようなものかを把握いただく一助になりましたら幸甚です。
さて、今回は、2008年7月7日付人民法院報による「法定期限内に主張しなかった担保物権の消滅」を取り上げます。
事案の概要; 2000年12月5日、抵当権設定者張某、債務者花某と債権者である某信用組合は、抵当権設定兼金銭消費貸借契約を締結した。債権者が債務者張某に4万元を貸し、貸借期間は00年12月5日から01年6月30日まで、張某は、本人が所有する建物に抵当権を設定し、担保として提供することで合意し、張某と某信用組合は、不動産管理部門で、抵当権設定を登記し、抵当権設定が記載された権利証は某信用組合に預けられた。しかし、返済期限が過ぎても、張某は借金を返済せず、某信用組合は、張某に対して、抵当権の行使を主張しなかった。08年3月17日、張某は、某信用組合に対して、抵当権の消滅の確認と権利証の返還を求め、裁判所に訴えを起こした。
判決の内容; 張某の請求を認めた。
判決理由の概要; 抵当権設定契約は法律に基づき成立し、効力が発生しているが、金銭消費貸借契約の訴訟時効期間は2年であり、本件では、01年7月1日から03年6月30日までである。訴訟時効を中断させる事情は発生していないため、訴訟時効期間は03年6月30日で終了している。関連法規に基づき、担保物権は被担保債権の訴訟時効終了後2年以内に行使しなければ、裁判所は支持しない。債権者は上述の期限内に、裁判所に対して担保物権を主張しなかったので、その権利を放棄したとみなされ、法律により享有している担保物権は消滅している。
Q;判決に担保物権が消滅するとありますが、法律に規定されているのですか?
A;物権法の施行が07年10月1日なので、本件は物権法施行前の訴訟時効期間が問題となり、「被担保債権の訴訟時効成立後2年以内に担保物権を行使すれば裁判所はその行使を認める」という最高人民法院の司法解釈が適用されています。
現在の物権法では、抵当権については、被担保債権の訴訟時効期間が経過するまでに行使しなかった場合には、裁判所は保護しないと規定されています。いずれにせよ、法律をそのまま適用すれば、裁判所が抵当権の行使を認めないだけで、抵当権が消滅するわけではありません。強制執行することはできなくなりますが、債務者が任意に履行することは可能です。
しかし、抵当権が消滅しないとなると、本件のように色々な不都合が生じます。そこで、裁判所は、権利を放棄したとみなして消滅すると判断したのだと思います。
Q;抵当権は消滅したとして、借金はどうなったのですか?
A;訴訟時効期間が経過しているので、返済を強制できません。
Q;訴訟時効期間はどれくらいですか?
A;中国では、通常の時効期間は2年です。但し、時効の中断という制度があります。債権者が債務者に請求した場合と債務者自ら債務を負っていると認めた場合です。それらの事情があった場合には、その発生時点から再度2年間経たなければ時効になりません。
Q;債権の時効期間が迫った場合には、債務者に返せと言わなければならないですね。
A;裁判になったとき、時効が成立するか否かが大きな争いになる可能性があります。口頭ではなく、必ず書面で請求すべきでしょう。ただし、問題は中国には日本の内容証明郵便のような制度がないことです。書留郵便では相手に届いたことを証明するだけで内容は証明できません。相手に書面のサインをさせられれば万全ですが、相手方が拒む可能性もあり、公証人による公証を使うという工夫が必要となってくる場合もあります。
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