判例に見る、QA式「中国社会と法律の実際」・第3回
〜労働者への損害賠償請求〜
今回は、北京法院網より、労働者が過失により会社に損害を与えた場合の損害賠償に関する判例(http://bjgy.chinacourt.org/public/detail.php?id=75194)をご紹介いたします。
事案の概要
李は、某客運会社で、運転手として勤務していた。2006年3月27日、李は、客運会社の客車を運転中、交通事故を起こし、李と乗客が負傷した。北京市公安局は、李に道路交通安全法違反があり、事故相手の車両の運転手と同等の責任を負うと認定した。その後、関連部門によって、李は労働災害により、8級の後遺症障害が残ったと認定された。
客運会社は、李との間で締結した安全責任書の「事故を発生させた主要な原因がある場合、損害全額の賠償責任を負わなければならない」との規定に違反したと認定した。そこで、裁判所に対し、李の一括性労働災害医療補助金及び後遺症就業補助金の支払義務はないとの判決、かつ、李に車両修理費用等合計11.3万元の支払いを求めた。
他方、李は、会社は、事故により発生した損害を負担すべきであり、従業員が責任を負担すべきではないと主張し、かつ、会社に一括性労働災害医療補助金及び後遺症就業保持金45,120元の支払を求め、反訴を提起した。
判決の概要
李は会社に対して、5,274元の賠償するよう命じ、客運会社は、李に対して一括性労働災害医療補助金及び後遺症就業保持金45,120元を支払うよう命じた。
判決の理由の概要
原告と被告の間には、労働関係が存在し、双方の間の安全責任書には、「運転手の過失により発生した交通事故は、その本人が全ての責任を負う」と規定されているが、当該条項の本質は、使用者が、経営のリスクを労働者に転嫁するものであり、関連法律規定に違反し、無効の条項である。従って、原告が被告に対し、全部の賠償責任の負担を要求することは、法的根拠がない。但し、この事故において、李は、相手車両の運転手と同等の責任を負い、一定の過失があることは確かである。従って、会社の合理的損失に対して、情状を斟酌し、損害を賠償すべきである。被告は、業務中に、交通事故が発生し、かつ労災と認定されたのであり、法に従い、労災待遇を享受すべきである。被告の反訴は法律の規定に合致する。
Q; 会社に損害を与えた従業員の賠償に関して規定した法律はありますか?
A; 賃金支払暫定規定16条があります。労働者の賃金から賠償金を控除する場合、毎月の控除額は、賃金の20%を超えてはならず、また、賃金の支給額が最低賃金を下回ってはならないと規定されています。もっとも、損害賠償額自体の制限については規定がありません。
Q; 具体的な法律がないにもかかわらず、「運転手の過失により発生した交通事故は、その本人が全ての責任を負う」との規定を無効とした理由は?
A; 経営のリスクを従業員に転嫁すべきではないことを理由としています。会社は労働の成果を利益として得る以上、経営のリスクを負担すべきであり、弱い地位にある労働者に経営のリスクを転嫁すべきてないというものです。
もっとも、本判決では、上記規定を無効としましたが、会社の損害額の一部については、従業員の賠償責任を認めています。
Q; 就業規則に、従業員の損害賠償責任を規定しても、損害額全額が賠償できるとは限らないわけですね。
A; 会社が従業員に損害賠償請求できるかについて、もう一つ注意しなければならないのは、従業員の過失が軽いとして、会社の請求を認めなかった判例があることです。
一例として、上海の裁判所の判決ですが、会社から15万人民元を香港ドルに両替するよう指示された従業員が、両替のため、闇の両替人に渡したところ、持ち逃げされたという事件で、闇両替は会社の指示であり、労働者に軽微な過失しかないとして、従業員の責任を否定したものがあります。
一審の判決(上海市浦东新区人民法院(2005)浦民一(民)初字第81号)は、労働者が故意又は重大な過失により会社に経済的損害を与えた場合にのみ、賠償責任を負うと判断し、二審の判決(上海市第一中级人民法院(2005)沪一中民一(民)终字第2018号)は、従業員に故意がある場合、全責任を負い、重過失又は通常の過失の場合、過失の程度により賠償の割合を確定し、軽微な過失の場合、従業員は賠償責任を負わないと判断しています。
Q; 従業員の賠償責任を損害額の一部にとどめたり、過失の程度により従業員への賠償請求を否定するのは、一般的な考え方なのでしょうか?
A; 一般的な考え方といってよいでしょう。「江蘇省の労働仲裁案件検討会紀要に関する通知」(江苏省劳动争议仲裁委员会关于印发《江苏省劳动仲裁案件研讨会纪要》的通知(苏劳仲委[2007]1号))では、労働者に一般的な過失があるにすぎない場合は、労働者に賠償責任を負うよう要求できない、重大な過失がある場合は、賠償額を、過失の大小、損害の程度に基づき、労働者の賃金収入レベルを参考にして決定すると規定しています。
なお、本件では、労災に関する争いもありますが、次回ご紹介いたします。
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