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1.農業 (1)2003/04年中国農政の総括
発展を続ける中国の中で、農民、特に食糧主産区や西部地域の農民増収状況が確実に深刻化している。都市住民との格差は不断に拡大し、農民収入構造の中で農業収入の比重がますます小さくなっている。経済全体の目で見ると、GDPは伸びているのに、就業人口に占める農業就業人口の比率は思ったほど減少していない。違法な開発が後を絶たず、「失地農民」が4000万人とも言われる。また、現実には出稼ぎ農民が都市部で産業労働者として経済発展を支えているのに、「農民工」と呼ばれ権利が保護されていない。
このような中、農政の動きから見ると、03/04はいくつか異例な動きがあった。
① 2003年1月7日、8日中央農村工作会議
例年、1月初旬に開催される本会議に、胡錦涛総書記が出席した。個別分野の工作会議に総書記が出席するのは異例のことである。この時の胡錦涛総書記講話での「小康社会の全面建設において最も重要、困難な任務は農村にある」との表現は、その後広範に引用され、これまで得てして農業内部の問題としてとらえられてきた「3農(農業・農村・農民)問題」が中国の経済発展、社会安定にとって最も重要であるという共通認識が、各界各層に浸透したのである。
② 2003年10月21日 国務院常務会議
10月14日の中国共産党第16期3中全会での決定を踏まえ、本会議か開催され、農民収入及び食糧生産能力に係る政策措置が決定された。このような常務会議も異例であり、これは、03年の食糧生産量が大幅に減少する見込みであることを踏まえ、冬小麦作付け前に対策を講じる必要があったためと考えられる。
③ 2003年12月25日 2004年中央農村工作会議
農村工作会議が年に2回開催されることも異例に属する。この会議で、2004年の目標を(イ)食糧総生産量4億5500万トン、(ロ)農村労働力移転1億人、(ハ)農民収入増加約5%とし、農業税率の引き下げ、食糧生産農家への直接補助、農業への財政投入増加、農地収用制度の厳格化などを打ち出した。この時期の開催は、(4)の中共中央2004年第1号文件の布石であった。
④ 2004年1月1日 中共中央2004年第1号文件党内発出
中共中央の文件は、一般的に公表されることはない。しかし、2004年の中共中央第1号文件は、「中共中央・国務院農民収入増加の促進に関する若干の政策的意見」と題し、1986年以来17年ぶりに農業関係に回帰し、2月8日公表された。本文件は、9節22条からなり、都市・農村格差だけでなく沿岸部と食糧主産区の農村内格差も踏まえ、財政、税制、土地、金融、都市・農村2元管理など幅広い論点につき政策を打ち出している。
⑤ 2004年3月5日第10期全人代第2回会議政府活動報告
温家宝総理は、本政府活動報告において、農業税を5年以内に廃止することを明らかにし、会場から長く大きな拍手がわき起こった。
以上のように、03/04年は、これまでの都市・農村2元管理を前提とし、農村の利益を吸い上げ都市を発展させる、という基本的発想を抜本的に変更することが明確にされた年である。これは、中国が豊かになり農村に目を向ける余裕が出てきたとも見れるし、都市・農村、農村内格差が危機的状況にあるとも見れる。いずれにせよ、確かなことは「3農問題」の解決なしに、中国経済の持続的発展、社会の安定、小康社会の建設が実現できないということである。
(2)生産、貿易状況等
○主要農産物生産量
2003年の食糧生産は、4億3065万トン(速報値)と、2002年に比し、約2600万トンも下回る大減産となった。これは食糧生産が収入増に結びつかないためである。また、2003年末全国耕地面積は、18.51億ムーと2002年末から3806.1万ムーの減少となるなど農地の減少傾向にも歯止めがかかっていない。さらに、違法な開発も多く、土地収用の際に農民に補償がないなどの問題も深刻である。
このような状況の下、中国政府は、食糧安全保障への危機感を強めており、2004年食糧生産目標を4億5500万トンとして(1)の政策を打ち出すとともに、土地収用制度について、農民権益の保護と収用規模のコントロールの観点から制度改正に乗り出した。
(単位;万トン)
年 |
食糧 |
|
|
|
綿花 |
油糧
作物 |
果実 |
野菜 |
米(籾) |
小麦 |
とうもろこし |
1990 |
44,624 |
18,933 |
9,823 |
9,682 |
451 |
1,613 |
1,874 |
- |
1996 |
50,454 |
19,510 |
11,057 |
12,747 |
420 |
2,211 |
4,653 |
30,370 |
2001 |
45,264 |
17,758 |
9,387 |
11,409 |
532 |
2,865 |
6,658 |
48,337 |
2002 |
45,706 |
17,454 |
9,029 |
12,131 |
492 |
2,897 |
6,952 |
52,909 |
2003 |
43,065 |
|
|
|
|
|
|
|
年 |
肉類 |
|
|
|
牛乳 |
卵 |
水産品 |
豚肉 |
牛肉 |
羊肉 |
1990 |
2,514 |
2,281 |
126 |
107 |
416 |
795 |
1,237 |
1996 |
3,695 |
3,158 |
356 |
181 |
629 |
1,965 |
2,813 |
2001 |
6,334 |
4,185 |
549 |
293 |
1,026 |
2,337 |
4,381 |
2002 |
6,586 |
4,327 |
585 |
317 |
1,300 |
2,463 |
4,565 |
2003 |
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(出所:中国農業年鑑、2003年食糧は国家糧食局ホームページによる概数)
(注:1996年は中国の食糧生産が初めて5億トンを突破した年)
○主要農産物貿易
2003年、中国の農産物貿易は、輸出403.61億ドル(対前年比+31.9%)、輸入189.32億ドル(同+52.6%)、貿易黒字24.97億ドル(同△56.2%)となり、輸出入とも伸びている。(注;農産物の定義が複数あり、機関により農産物貿易額が異なる。本数字は中国社会科学院)
WTO加盟2年目、主要農産物貿易は、2002年同様、穀物の輸出が増加し、輸入が減少するという結果となった。他方、大豆輸入が一気に2000万トンを突破するとともに、食用植物油輸入も増加した。
大豆及び食用油激増の原因は、供給不足、搾油能力の拡大、企業が輸入大豆の在庫を増加させたことが指摘されている。なお、大豆、トウモロコシ等の輸入に影響を与えてきた遺伝子組換作物の管理制度について、2004年2月、これまでの暫定管理から恒久措置に移行し、モンサントのGMO大豆、トウモロコシ、綿花に対し初めて安全証書が交付された。今後GMO産品の輸入が増加すると見込まれる。
2004年の農産物貿易は、ここ2年と異なる動きがあるのではないかと考えられる。食糧在庫が地域によっては相当減少していると見込まれ、食糧輸出は減少すると考えられる。大豆は引き続き輸入が増えるであろう。問題は、食糧の輸入がどうなるかであるが、中国が食糧輸入国に転落するか否かの可能性を占う1年になるかもしれない。
なお、WTO加入時に2005年までの関税割当数量を決定しているが、米、トウモロコシ、小麦については、2005年の関税割当数量が未定となっている。この取り扱いについても注意が必要である。
関税割当品目等の貿易動向(万トン、%)
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2001 |
2002 |
2003 |
穀 物 |
輸出
輸入 |
876
344 |
1,482
285 |
+69.3
-17.3 |
2,194
208 |
+48.0
-27.0 |
う
ち |
米(精米) |
輸出
輸入 |
186
27 |
199
24 |
+6.4
-18.9 |
262
26 |
+31.5
+8.7 |
トウモロコシ |
輸出
輸入 |
600
4 |
1,167
1 |
+94.6
-79.6 |
1,639
0 |
+40.4
-91.0 |
小麦 |
輸出
輸入 |
45
69 |
69
63 |
+51.1
-14.5 |
(223.7)
45 |
-29.2 |
大豆 |
輸出
輸入 |
25
1,394 |
28
1,132 |
+11.1
-18.8 |
27
2,074 |
-3.0
+83.3 |
食用植物油 |
輸出
輸入 |
13
165 |
10
319 |
-27.6
+93.3 |
6
541 |
-38.7
+69.6 |
砂糖 |
輸出
輸入 |
20
120 |
33
118 |
+66.5
-1.3 |
10
78 |
+68.3
-34.5 |
出所;中国税関統計、2003年小麦輸出は農業部ホームページ。2002年、2003年の右列は、対前年比増減上表のうち大豆は関税割当品目ではない。
(3)農産物価格の上昇
2003年、特筆すべきは農産物国内価格の上昇である。2003年10月以降、農産物価格が急にあがり始めた。特に食糧価格は顕著で、12月と年初を比較すると、小麦27%、米12%、トウモロコシ19%、大豆22%も上昇した。この要因は、生産量の大幅減産による需給逼迫感と原材料価格の上昇に伴う化学肥料等生産資材価格の上昇に加え、国際価格が中国国内価格に影響を与えるようになってきたこと、投機筋の動きが食糧価格上昇に拍車をかけたこと等が考えられる。
この農産物価格の上昇がインフレの引き金になるのではないかとの懸念もあったが、今のところ経済全体に波及している状況にはない。しかし、2004年に入っても食糧価格の上昇傾向は続いており、石油等原材料価格の動きとともに注視していく必要がある。
(4)日中農産物貿易関係
日中の農産物貿易関係は、ここ10年で量的にも質的にも大きく変化している。財務省貿易統計によると、中国から日本への農林水産物輸入は、1992年489,945百万円(第1位トウモロコシ)→2002年949,984百万円(第1位ウナギ)となっている。また、日本から中国への輸出も、1989年30,973千ドル→2002年237,027千ドル(農林水産省資料)と、額は小さいが大きな伸びを示している。
このような中、いくつかの問題が起こってきた。
①2001年ネギ、生シイタケ、い草のセーフガード問題
2001年12月、本問題の決着に当たり、日中農産物貿易協議会の設置が決定された。両国の政府、業界関係者により構成され、ネギ等3品目の秩序ある貿易関係実現を目指して、需給情報の交換等を行っている。設置以来すでに9回開催され、関係者の信頼関係も構築されつつある。
② 知的財産権
2003年4月、中国のパッケージ会社が申請した「青森」という商標が中国官報に公示された。これは、農産物を中心に青森県産品の輸出が困難になるおそれがあるとして、7月中国商標法に基づき青森県が異議申し立てを行った。
2003年12月、熊本県は県育成品種であるい草「ひのみどり」が、中国に不正に持ち出され栽培されている模様として、関税定率法に基づく輸入差止申立てを税関に対し行った。
③ 食の安全・安心を巡る問題
食の安全・安心に対する消費者の関心の高まりを受け、いくつかの問題が起こっている。 中国産農産品については、2002年大きな問題となった冷凍ホウレンソウの残留農薬について、2003年5月以降も違反事例が確認され、輸入自粛指導が行われた。またウナギ加工品から合成抗菌剤が検出され、検査命令が実施されるなど食品衛生の観点から問題が起こっている。動物防疫の観点からは、2003年5月、中国産アヒル肉から高病原性鳥インフルエンザウイルスが分離され、8月まで中国産鶏肉等の輸入が一時停止された。
日本産農産品については、2001年日本でのBSE発生に伴い、牛・羊由来産品の日本からの輸入が禁止されている。
2004年に入り、アジア各地で高病原性鳥インフルエンザが猛威をふるっている。日本でも中国でも発生し、それぞれ家禽肉等の輸入が一時停止されている。
(5)最後に
中国の経済発展、人口増加、食料消費の多様化に伴う飼料穀物需要の増加、商品作物への転換が進む中で、中国の農業政策や作物の生育状況、食糧需給動向が、世界の穀物等の需給や価格形成に与える影響は一層強まると見られる。また、都市農村格差に代表される3農問題が中国経済の持続的発展を左右することは前述の通りである。農業を通して見る中国は、決して順風満帆には見えない。中国「3農」問題は、農業分野だけでなく、中国経済の発展に恩恵を受けている日本経済にも大きな影響を与えるのである。
〔参考1〕農業関係主要指標(2002年)
○生産構造 |
|
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○消費構造 |
耕地面積 |
13,004万ha |
|
1人当たり年間消費量(注) |
(1戸当たり |
0.55ha) |
|
食糧 |
都市 |
78.5kg |
農家戸数 |
24,569万戸 |
|
|
農村 |
235.3kg |
農村人口 |
93,503万人 |
|
肉類 |
都市 |
23.3kg |
灌漑面積 |
5,436万ha |
|
|
農村 |
14.9kg |
小型トラクター |
1,339万台 |
|
エンゲル係数 |
|
(1戸当たり |
0.05台) |
|
|
都市 |
37.7% |
生産量 |
上 述 |
|
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農村 |
46.2% |
○GDPに占める第1次産業割合 14.5% 就業人口に占める第1次産業割合 50.0%
○都市・農村格差
都市1人当たり可処分所得 7,703元
農村1人当たり平均純収入 2,476元(都市/農村=3.11倍)
資料:中国統計年鑑 注:農村の食糧は原糧であり、都市と単純に比較できない。
〔参考2〕WTO加盟条件
○農産物関税率引下げ目標 2000年21.3%→2004年15.8%
○関税割当対象主要品目の割当数量及び税率
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2001年割当数量 |
→ |
最終年割当数量 |
コメ |
332.5万トン |
|
532万トン(2004年) |
|
〔国貿枠 50%〕 |
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〔同左〕 |
小麦 |
788.4万トン |
|
963.6万トン(2004年) |
|
〔国貿枠 90%〕 |
|
〔同左〕 |
トウモロコシ |
517.5万トン |
|
720万トン(2004年) |
|
〔国貿枠 71%〕 |
|
〔国貿枠 60%〕 |
大豆油 |
211.8万トン |
|
358.71万トン(2005年) |
パーム油 |
210万トン |
|
316.8万トン(2005年) |
なたね油 |
73.92万トン |
|
124.3万トン(2005年) |
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〔以上3品目国貿枠 42%〕 |
|
〔国貿枠 10%〕 |
砂糖 |
168万トン |
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194.5万トン(2004年) |
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〔国貿枠 70%〕 |
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〔国貿枠 70%〕 |
コメ、小麦、トウモロコシ 1次税率1%、2次税率74%(2001年)→65%(2004年)砂糖 1次税率 20%(2001年)→15%(2004年)2次税率71.6%→50%(同)大豆油、パーム油、なたね油 1次税率9%、2006年に関税割当廃止
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