第2章 農業

2.食料品
(1)投資が活発な食品産業

 2003年の中国の食品産業は2002年の景気を引き継ぎ、高成長を達成した。もともと2003年の春、SARSの猛威に襲われて、経済活動全般がほぼストップの状態になったが、夏以降、SARSの終息に伴い、食品産業を含めて経済活動全般が急速に回復した。速報値では、2003年の食品産業総生産額は前年比約20%増の約1兆2,000億元となっている1。食品産業はその総生産額が2002年に初めて1兆元規模の産業になったが、2003年は続いてその販売額も初めて1兆元規模を超えるようになった2

 中国経済全般と同様に、食品産業高成長のけん引役の一つは投資である。食品業界の計画した固定資産投資額は2003年に2,000億元を超え、完成した固定資産投資は900億元となっている。固定資産投資の案件数で見ると、進行中の案件は4,936件あるが、うち2003年の新規着工件数は3,526件、完成後稼動した案件は1,003件である。投資金額が1億元を超える大型案件は154ある。

 投資の活発化により、企業間競争も激化し、食品産業の急成長につながった面が強い。例えば、乳製品業界は、国内資本と海外資本を巻き込んだM&Aや企業間提携が激しく展開し、また急成長している代表例の一つだと言える。液体乳の加工量は前年比58%、乳製品の生産量は同34%の伸びとなり、乳製品業界の販売額は480億元となった。ビール業界も似たような状況にあり、中外資本の提携や競争が激しく展開している。植物油製造業も数年前から大型投資が継続され、設備のキャパシティが大幅に増加した。2003年、植物油の販売額は1,200億元に上った。

 また、中国食品産業の販売額に占める外資系のウエイトが2002年に29%(2,873億元)と2000年より5ポイントも上昇したことが象徴するように、台湾や香港資本を含む外資系食品企業の各種投資が大幅に増加している3。そのうち、特に台湾系の食品企業の対中投資は全面的に拡大している。

 外資系食品企業の対中投資の特徴について、欧米系は主として2点ほどあるが、その一つは新規設立より合併・吸収(M&A)がよく活用されていることである。もう一つは、中国市場を開拓することである。台湾系は中国市場を狙う点は欧米系と共通しているが、違うのはM&Aではなく、新規設立が多いことである。

(2)日系食品企業の中国市場開拓の動き

 日系食品企業も台湾系や欧米系と同様に対中投資を加速している。財務省の統計で見ると、2002年度の食品関連企業の対中投資は91億円と前99~01年度の投資低迷を脱却しつつある。投資金額の急増とともに、その投資の目的や方法などもいくつかの特徴が見られるようになった。

 まず、中国市場を狙う「内販型」投資がこの2年間で急増したことが挙げられる。伸び悩む日本国内市場とは対照的に、都市部を中心に中国の消費・生活水準の上昇で事業環境が整ってきたことが背景にある。欧米系や台湾系の企業が先行しており、いま手を打たなければ成長市場を失いかねないとの危機感もあると思われる。

 中国市場を開拓する動きの具体例を見ると、冷凍食品業界の加ト吉・ニチロ・ニチレイ・マルハ・日本水産・味の素・伊藤ハム、製粉業界の日清製粉・昭和産業・日本製粉、菓子業界の明示製菓・森永製菓・ロッテ・カルビー、調味料と添加物業界のキッコーマン・キューピー・不二製油、飲料と酒類のヤクルト・サントリー・伊藤園・アサヒビール、外食の吉野家・リンガーハットなど知名度の高い企業が進出している。

(3)裾野が広がる日系食品業界の対中投資

 次に、日系食品企業の対中投資は幅広い業界に及び、その裾野が広がりつつあることが特徴の一つに挙げられる。言い換えれば、冷凍加工食品などの先発組に引かれて、周辺業界も対中投資を加速してきたという集積効果が全食品産業で現れるようになった。

 90年代半ば、日系食品企業は対中投資を拡大したが、当時の対中投資は主として生鮮野菜、冷凍野菜及び水産物・畜産物・惣菜などの冷凍・冷蔵(チルド)加工食品業界、ビール業界などに集中していた。これら業界の対中投資は引き続き拡大しているが、そのほかに消費の高度化を示す菓子業界や飲料業界、外食業界などの対中投資もここに来て大幅に拡大している。また、冷凍・チルド加工食品や菓子業界などの対中投資増加に伴って、これら業界に欠かせない揚げ粉などのプレミックスや、醤油・香料・甘味料等の調味料、大豆蛋白・マーガリン・クリーム・ピクルスなどの関連素材を扱う企業の対中投資も急増している。さらに、日系外食の対中投資は食材の仕入れや輸送、保管といった食品インフラ業界の投資も呼び込みつつある。

 例えば、これまで冷凍食品加工でよく使われる揚げ粉やてんぷら粉などのプレミックスはほとんど日本から輸入していたが、競争の激化によりコストの更なる合理化が求められるようになった。それに応える形で、製粉業界の三大メーカーである日清製粉、昭和産業と日本製粉はそろって2002年から対中投資を決めた。これら製粉メーカーにとって、対中投資は冷凍食品メーカーという大手ユーザーを確保することとなるが、それだけではない。中国現地食品企業の加工水準の向上によりこれらプレミックスへの需要が高まっているため、中国現地の潜在市場を開拓することも可能となる。

 また、冷凍加工食品業界や菓子業界、飲料業界などで欠かせない関連素材と調味料もこれまで同様に輸入に頼っていたが、近年、こうした状況が改善されるようになった。調味料と関連素材業界のキッコーマン、キューピー、高砂香料工業、理研ビタミン、不二製油、讃陽食品工業などはいずれも2002年に続き、対中投資を拡大したか、新規参入するようになった。

 日本の外食産業も対中投資拡大の波に加わった。吉野屋、居酒屋チェーン大手のワタミフード、イタリア料理店チェーンのサイゼリヤ、リンガーハット、うどん店のサガミチェーン、パスタ専門店のピエトロ、バルチック・システム(埼玉県川越市)のバルチックカレー、イタリア料理店のマリノ(名古屋市)などがある。この外食の対中投資拡大はまた、調理・加工設備、低温冷蔵・輸送施設など周辺業界の対中投資を促している。

 さらに、日系食品企業では欧米系と異なり、大手企業だけではなく、中小の食品企業も近年、対中投資を加速している。例えば、福井県敦賀市にあるヤマトタカハシ社は、2002年2月から中国で昆布の生産と販売をスタートした。札幌市にあるオルソン社は、2002年10月から中国でイカ珍味やサケフレークなどの製品販売に乗り出した。

 こうした幅広い業界の対中投資拡大は、中国の食品加工水準の向上をもたらすと同時に、加工コストの引き下げにもつながっている。

(4)台湾系や日系との提携

 さらに、日系食品企業の中国市場の開拓に当たっては、1社単独で行うより、台湾系や日系と提携するケースが増えているが、これは近年のもう一つの特徴である。

 上述したように、日系食品企業にとって、中国市場の位置付けは生産拠点だけではなく、販売市場として両立するようになりつつある。だが、市場開放により、中国では時に日本よりも激しい国際競争が展開されている。また、商慣習や流通構造の違いなど事業拡大への不透明要因も少なくない。中国市場での競争を勝ち抜くために、また、リスク分散を図るために、日系食品企業は最近、コラボレーション(協働)やアライアンス(戦略的同盟)の方式を積極的に取り入れるようになった。いわば、異なる強みの持ち主が組んだ場合の相乗効果を期待しているのである。

 ただ、中国系有力企業と提携する欧米系と違い、日系は中国に進出している台湾系や日系企業と提携するケースが多い。

 日本企業が中国でビジネスをする際に障害となっているのは、主として物流や決済などであるが、先に中国に進出している台湾系はこうした問題を乗り越えるノウハウを身につけている。また、中国での販路など営業インフラも築いている。一方、日系食品企業が持つ商品開発能力などは台湾系が不足している。いわば、両者提携の利害は一致している。

 ただし、中国市場を開拓する競争が激化していることもあり、その市場シェアを確保するために競合する製品を持つ企業間の提携関係は相互間の製品調整が絡み、難しい面があると思われる。現実に、中国全土への展開に時間はかけられないとの理由で、日清食品は中国の即席めん事業で台湾の食品大手、統一企業との提携を2003年5月に一旦決めたが、2003年10月9日、日清食品は統一企業との中国での資本・業務提携に関する基本合意を解消すると発表した4。日清食品は統一企業が持つ中国本土での生産・販売網に関心があり、11月に昆山統一企業(江蘇省昆山市)に10%出資した後、1年以内に33%まで引き上げるとともに、3年以内に他の統一企業グループ8社にも出資する計画であった。だが、統一企業側は日清の昆山への10%出資では合意していたが、その後の出資比率引き上げには消極的であったためである。

 一方の加ト吉は、中国国内市場を開拓する際に台湾資本の龍鳳(中国最大の冷凍食品企業)と提携関係を結んだが、それと同時に、自社の販売会社を設立して、単独で中国市場を開拓するノウハウを模索する戦略も取っている。

(5)2004年も安定的な高成長

 2004年、中国経済全般はソフトランディングに向けて緩やかな引き締めになる可能性が高い。それに影響されて、食品産業の固定資産投資の伸び率も鈍化すると考えられる。ただし、食品業界の外資の対中投資は2003年に続き、活発化する可能性がある。こうした外資の参入増加により、2004年も中国の食品産業と食品市場のグローバル化が加速され、中国国内における国際競争が一層激しくなることが想定される。また、高品質、高加工度の食品への需要がこれからも拡大する可能性があり、こうして投資と需要に牽引されて、2004年の食品産業は安定的に拡大していくことになろう。

1 中国新聞社北京2004年1月12日電による。 <<back
2 この節のほとんどのデータは、中国食品工業協会が2003年12月18日に主催した中国初めての食品企業サミットで、国家統計局工交司司長が行った「2003年食品工業経済運行状況」の報告による。 <<back
3 ここでいう外資系企業は、中国国内資本以外の資本の企業を指し、台湾や香港資本を含む。また、食品産業のうち、アルコール度数の高い蒸留酒製造業と煙草加工業は規制が強いため、外資の進出余地は小さい。もしこの二業界を除いて統計を取ったら、外資系のウェートはさらに高い。 <<back
4 「日経産業新聞」2003/10/10 <<back

 

 

 

 

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